旅日記 秩父にて 陸 しばしの別れ
僕達は坂を登っていた。旅立ちの丘に比べたら大したことのない坂を。
太陽が少しずつ沈んでいく。時刻は4時を過ぎたところだ。
僕らの旅の最後を飾るに相応しい場所。見晴らしの丘に辿り着いた。此処は、秩父という美しい町を一望出来る。
僕は今日。此処に来れて良かったよ。
ええ、私もよ。 私は今までも。これからも。此処で生きていくの。
そっか。じゃあ、僕は必ず。また、此処へ来るよ。
それじゃあ、私はいつまでも貴方を此処で待ち続けるわ。
僕らは再開を誓って。坂を降ってゆく。途中、青年がアコギで弾き語りをしているのを見た。
男にしては少し高いその声が僕の心に染み渡ってゆく。
あの青年もいつかは旅立って行くのかな。
ええ、きっとそうよ。そして、貴方のように素敵な旅人になるの。
僕らは邪魔をしないように横を通り過ぎた。
あっという間に、秩父駅の前へ辿り着いた。
お別れだね。
そうね。私、泣かないわ。
そうだね。きっとまた逢えるから。
レンタルサイクルのおじさんに、愛しい自転車を返却して二人は駅の方へ歩いて行った。
僕らの帰る電車が来るまで、まだ少しの時間が残っていた。