【ノンネイティブの流儀7】【『愛は勝つ』に学ぶ『強い動詞』のパワー】
【写真】東京・お台場の自由の女神像(撮影・飯竹恒一)
「愛は勝つ」。往年のヒット曲のタイトルであるこのフレーズは、シンガーソングライターのKANさんの独特の歌声とメロディーも相まって、いまでも耳にすると一気にその世界に引き込まれます。
KAN 愛は勝つ - YouTube
ある時、この場合の「勝つ」を英語で何というのだろうと考えたことがありました。直訳なら win でしょうが、芸がないと感じていた矢先、次の一文に出会いました。
"Truth will prevail."
「真実は勝つ」という意味ですが、「愛は勝つ」にそのまま応用できると直感しました。prevail は辞書によれば win の類語ですが、真実や愛の普遍的な価値の面的な広がりを、いっそう醸し出してくれているように思えたのです。さらに、この訳語の選択が正しいと確信したのは、米国のバイデン大統領が2021年1月に行った就任演説を聴いた時です。
"We've learned again that democracy is precious, democracy is fragile and, at this hour my friends, democracy has prevailed."
「民主主義が勝った」 (democracy has prevailed)と、トランプ前大統領と争った前年の大統領選をめぐる紆余曲折を経て就任に至ったのを誇らしげに宣言したものでした。トランプ氏の支持者による連邦議会襲撃事件もあったあとだけに、その力強い響きは格別でした。
こうしたニュアンスを含んだ強い動詞を積極的に使うことは、英語のノンネイティブが身に着けるべき作法として、私自身が長年考えてきたことでもあります。ネイティブにはかなわないとしても、例えばバイリンガルのような書き手たちと渡り合うのに、いわば一点突破的にキラリと光る表現を駆使すれば、なんとか乗り切れそうな気がしたのです。
強い動詞の他の例としては、dwindle(だんだん小さくなる)、plummet・plunge (暴落・急落する)があります。decline, decrease, dropに副詞などをからませて表現しても良いのですが、一語だけでぐっとニュアンスを押し出せる動詞のパワーは魅力的です。
もっとも、こうした発想は、実は極めて現実的なものです。というのも、こなれた慣用句やスラングをノンネイティブとして身に着けるのはなかなか難しく、使い方を間違えると誤解を招く危険もあります。これに対し、強い動詞は意味が明快で、誤用の危険は余りありません。しかも、ある程度の数を蓄積すれば、そこそこ格好がつきます。お手軽と言われればそれまでですが、英語の学習者として意外に抜け落ちている視点だとも思っています。
ところで、冒頭の prevail の形容詞形は prevalent で、"the still-prevalent COVID-19 pandemic"(いまだ広がる新型コロナウイルス感染症の世界的流行)といった表現も見かけます。パワフルな動詞を軸に品詞展開する形で、使い勝手の良い語彙を豊かにしていくのも、ノンネイティブの作法の一つと言えるでしょう。
(主宰講師・飯竹恒一)
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