恋愛短編小説 「オオカミと赤エプロン」
赤ずきんが誕生するちょっと前のお話し。
オオカミは赤ずきんに昔話しをしていました。
オオカミの俺は、森のなかの木の影から、森に入ってくる赤いエプロンをした若い女に目を奪われていた。
人間のことなど、いつもは食料か脅威としか見ていなかったが、彼女は違った。彼女の足取りは軽やかで、その笑顔が森全体を明るく照らしているようだった。少しでも長く彼女の姿を眺めたくて、こっそりと後をつけた。
彼女がキノコの群生地に到達すると、俺は木の後ろに隠れながら見守った。彼女は慣れた手つきでキノコを選び、木のかごに入れていった。その姿は何とも言えず愛おしく、彼女が自然と一体になっているように見えた。俺の心の中で、彼女に対するただならぬ感情が芽生え始めていた。
日が経つにつれ、俺は彼女を見かけるたびにその後を追いかけるようになった。彼女が森で花を摘んでいる姿、川辺で水を汲む姿。彼女のすべてが、俺にとっては新鮮で、心躍る光景だった。
しかし、俺がオオカミであることは変わりなく、彼女と直接話をすることは叶わなかった。
ある冬の日、森は雪に覆われ、彼女がいつものように木の実を採りに来るのを、俺はじっと待っていた。しかし、彼女の姿は現れなかった。心配になった俺は、彼女の家の近くまで行ってみることにした。そこで、彼女が病に倒れているという話を耳にした。何かできることはないかと思い、彼女の好きな野草やキノコを集め、密かに彼女の家の玄関前に置いてきた。
それが俺にできる唯一のことだった。
数日後、彼女の元気な姿がまた森に戻ってきた。彼女が玄関前に置かれた野草やキノコを見つけたときの笑顔は、俺が今まで見た中で最も輝いていた。彼女は誰がこんなことをしたのか知らないままだが、俺は遠くからそれを見ているだけで幸せだった。
歳月が流れ、彼女はおばあさんになり、俺もまた年老いたオオカミとなった。彼女の孫が「赤ずきん」として森を歩くようになった。赤ずきんは、おばあさんから俺のことを聞いており、恐れることなく俺の前に現れた。赤ずきんは、おばあさんが昔話してくれた親切なオオカミの話が、俺のことだとすぐに理解したようだ。
赤ずきんと話すうちに、おばあさんの思い出がよみがえり、彼女が若かった頃のことを語った。赤ずきんはそれを聞いて、もっと知りたいと言って、おばあさんの家に招いてくれた。歳をとった今も、俺は彼女の家の前で野草とキノコを置き、その笑顔を一目見るために森を歩いている。
俺がオオカミであることは変わらない。だが、彼女との出会いは俺の生き方を変え、人間とオオカミの間にも理解というものが生まれうることを教えてくれた。
愛とは種族を超えるもの、それを俺は一生忘れない。
時間を割いてくれてありがとうございました。
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