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成功に再現性はないけど失敗には普通にある
あなたは人間の陥りやすい生存者バイアスについて知っていますか?
こんなエピソードがあります。
第二次世界大戦中、無事に帰還した飛行機の被弾箇所を分析した技術者達は考えました。
「この撃たれやすい箇所を強化すれば、もっと生存率が上がるのでは?」
あなたも同じ意見でしょうか?
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しかし実はこの対策、ほとんど効果がありません。
なぜなら、撃墜されて帰還できなかった飛行機のデータが無視されているからです。
なんと、後になって実際には無事に帰還した飛行機が「被弾していない」箇所こそが弱点であることが判明したのです。
つまり、データ上被弾しやすかった箇所はある程度被弾しても大丈夫だからこそデータとなり、被弾すると帰還できない箇所はそもそもデータに出てこれないわけです。
知ってしまえば簡単なことですが、当事者だったらこの生存者バイアスに気づくことは困難だと思いませんか?
成功しか目に見えず、失敗は葬り去られる
生存者バイアスについて、あなたも知らず知らずのうちにハマっている可能性があります。
あなたは普段、何かの分野の成功者と成功者になれなかった人のどちらを意識する機会が多いでしょうか?
ほとんどの場合、圧倒的に成功者だと思います。
テレビタレントやプロスポーツ選手などの有名人、大成功した投資家や起業家など、メディアを通して見ない日がないくらいです。
こういった日々目にする成功者達の影に、そうなれなかった人たちは一体どれくらいいるでしょうか。
そして私たちはそういった成功者になれなかった人たちに注目する機会がどれだけあるでしょうか?
身近にそういう人がいない限りほとんどないと思います。それはなぜか?当たり前ですが、そんな人達をメディアは取り上げないからです。
こう考えると、さきほどの「帰還できた機体」=「成功者」と「帰還できなかった機体」=「成功者になれなかった人たち」に置き換えられそうです。
私たちが日々目にする成功者達は何万何千分の一を生き残ってきた人々であり、その華やかさばかりに注目してしまいます。
彼ら、彼女ら成功者の自伝や心構え、失敗や成功の要因について書かれた物やインタビューなどは魅力的ですし、参考にできるところもあるでしょう。
しかし、それはあくまで生き残った側からだけの経験であり、意見です。実は彼らは「一発でも被弾すると墜落する」ような箇所をたまたま避けられていただけかもしれません。
実際には、弱点に被弾した人々は成功できなかった→誰からも注目されない→人々の目に触れるデータに出てこないという図式が成り立ちます。
このことから、失敗について学ぶことがいかに困難かもわかりますね。
失敗について学ぶには、意図的に失敗に注目する必要があります。以下のような書籍などを参考にしましょう。
失敗例は引き合いに出されにくい
昔読んだあるビジネス書に、◯◯選手は他の誰よりも練習したからここまで成功できた、みたいなことが書いてありました。
もしそれが本当であれば、誰でも練習量次第で必ずトップクラスのプロスポーツ選手になれるはずです。
でも現実には、生まれつきの体格や運動神経などの資質、親の理解や経済状況や教育方針までも含む家庭環境や周辺環境、顧問やコーチや監督の能力や資質、周囲のチームメイトや友人との人間関係などなど、練習量以外の要素もとても重要なはずです。
こういった著者の歪んだ認知で書かれた本には、その選手よりも練習していたのにそこに到達できなかった人のことは一切書かれません。そんなことを書くと自身の主張と矛盾してしまいますからね。
実際、そういう人は探せばいるはずです。そういった人をきちんと探して、間違いなくいないと結論付けた上で書いているならまだわかりますが、そんなことは一切書いてありませんでした。
成功者について書かれた本には、その成功要因と矛盾する失敗事例はほとんど引き合いに出されません。なぜなら主張と矛盾するから。
そして無名の失敗者だけにフォーカスした書籍なんて基本的に売れないので、まず書かれません。
テレビ朝日の番組に「しくじり先生 俺みたいになるな!!」という番組がありますが、あれも結局は一度でも成功したことのある有名人が主役です。
本当に誰も知らない失敗者の人生など誰も注目しないのですから、失敗を学ぶことは本当に難しいですね。
失敗を学ぶ方が成功を真似るより遥かに学びがある
ごく一部の生き残った成功者だけを切り取り、「彼らはこうしたから成功した」などの成功要因に注目することにはあまり意味がないのではないでしょうか。
彼らの成功要因が私やあなたにとっての成功要因かはわかりません。
成功者の真似をしても成功できるわけではありませんし、多くの場合、成功には再現性がないのが普通です。
例えば起業して会社が成功するかどうかは、その時々の世界全体の景気や他社の動向など、自分次第ではどうにもならない外部要因の割合が非常に高いはずです。
そんな刻々と変化する状況の渦中にいて、以前成功した同じ方法を真似しても成功できるわけがありません。
しかし、多くの場合誰にでもあてはまるであろう失敗、例えば自己資金が明らかに少なすぎた、最低限必要な技術が足りなかった、財務管理が甘すぎた、などは失敗の再現性が非常に高く、事前に学ぶことで回避できる可能性が飛躍的に高まります。
おぼろげな成功法則を学ぶより、誰もが陥りそうな落とし穴を避ける方がよほど賢明です。変に上ばかり見ていたら足元を掬われます。
このような失敗を全て回避できたからといって成功できるかはわかりませんが、「一発でもまともに被弾したら墜落する箇所」の補強にはなるはずです。
私たちは成功を追いかける以前に、生存者バイアスに騙されず、失敗を事前に避ける努力をこそすべきでしょう。
おわり