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【子ども】九九から数列へ②マースの冒険~序章~

九九からつなげて数列を学ぶなんて、公立学校でもシュタイナー学校でも聞いたことがない。だったら、自分でするしかない。前例なんて、作ってなんぼだ。
というわけで、今回より数回にわたっては、子どもたちを相手に、実際に作って語ったお話を紹介しようと思う。
(テーマ設定について、詳しくはこちら→九九から数列へ①


旅立ち

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(↑ 舟に九九の星を描き、旅の安全を願ったところ。以前、大失敗したときのフォローも兼ねて、(詳しくはこちら→昔話⑤)装飾には連続フォルメンを使った)

ある小さな島にマースというとても元気のいい少年とおじいさんが2人で暮らしていました。マースには、お父さんとお母さんがいません。お母さんは身体が弱く、マースを産んだときに死んでしまったのだそうです。お父さんは冒険家で、海の向こうの大きな国を目指して舟を出しましたが、ひどい嵐に会いそれっきり帰っては来ませんでした。マースがまだ3歳のときの話です。

マースとおじいさんは野菜を育て、魚をとって、木の実を集め、一日一日を大切に生きていました。マースは、晩ごはんの後にたき火にあたりながら聞くおじいさんのお話が大好きでした。おじいさんが若いころ、自分と同じくらいの大きさの魚に出会った話や、鹿と競走して勝った話、高い木に登って落ちたと思ったら鳥が助けてくれた話・・・。どれも目の前にその景色が浮かんできて、おじいさんと一緒に泣いたり笑ったり。
いつしか、自分もそんな経験をしてみたい。この島を出て、海の向こうの大きな国へ行ってみたい。そんなことを、マースは考えるようになっていました。

ある日、いつものようにたき火にあたりながらおじいさんの話を楽しみに待っていると、おじいさんはたまごのような石をマースに渡しました。
「マース、明日でお前も10歳になる。この日が来たら話そうと思っていた。この海の向こうには、お前の知らない世界がある。たくさんの人が集い、共に暮らす世界だ。大きな建物が建ち、車という乗り物が走っている。夜でも明るく、楽しい音楽が流れている。夢のような世界だ。行ってみたいか」
「うん、ぼく、大きな国へ行ってみたい。海の向こうの世界を知りたい」
「そう言うと思っていた。しかし、私は一緒に行くことはできない。年だからな」
マースは目に涙を浮かべて聞いていました。
「一緒に行くことはできないが、この石をやろう。困ったときにはこいつに頼るといい。きっと、お前に知恵を貸してくれる」
マースは黙ってうなずくと、おじいさんから石を受け取りました。ほんのり夕日色の温かい石。
「さあ、そうと決まれば旅の支度だ。でも、今日はもう遅い。明日、日の出とともに、舟づくりに取りかかるとしよう」

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(↑ 話の途中で石を見せると「この石があるってことは、本当の話なんや・・・」という声も。まだ9歳の危機を迎えていなかったかな?)

その日、マースはおじいさんの布団にもぐり込み、ぴったりと体をくっつけて眠りました。明日からは一人で眠るなんて、できるんだろうか。それどころか、海の向こうの大きな国へ、無事にたどり着けるんだろうか。なかなか眠れずにいると、空にひときわ明るく輝く星が見えました。
星はだんだんと明るさを増し、一筋の光となって地面に降りてきました。そして、マースの心の中に語り掛けてきました。
「心配なら、舟には8種類の星を描きなさい。きっと守ってくれるでしょう。大丈夫。お前なら、きっと海の向こうの大きな国へとたどり着くでしょう。お前のお父さんもそうでした。海の向こうで待っていますよ」

朝日が昇り、マースは目を覚ましました。そして思いました。
「あの星はお母さんだ。お父さんは海の向こうで生きているんだ」
こうして、マースは10歳の誕生日を迎えたのでした。


屋根の色の秘密

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(↑ 初回の黒板絵。同期より左上の山の描き方についてアドバイスをもらい、回を重ねるごとに修正していった。これは修正前の絵)

マースは舟に乗り込むと、思い切って海へ出ました。新しい世界への旅立ちを祝福するかのように、空は青く澄んでいます。ぽっかりと浮かんだ白い雲は、マースを導くようにして、前方でお日さまの光を浴びていました。気持ちのよい風が帆を膨らませます。その風に乗って、カモメが一羽、こちらへ飛んできました。
カモメは帆のてっぺんで何度か鳴いてみせた後、マースの足元へと飛んできてとまりました。よく見ると、足に何かついています。もっと顔を寄せてよく見ようとすると、カモメはすっと足を差し出しました。筒形の入れ物が、赤いひもでくくりつけてあります。ひもをほどいて入れ物を開けてみると、丸めた紙が何枚か入っていました。
100マスの方眼紙の一段目には1から9までの数、左端には縦一列にから9の数が書かれていました。その下にも、数、数・・・。
マースが不思議に思いながら見ていると、カモメは一声鳴いて、また空高く飛んでいってしまいました。

「旅の友だちになれそうだったのに」
そうつぶやいて、カモメの飛んでいった方角を眺めていると、ちょうどそこに島が見えてきました。
「あれ、おじいさんの言っていた九九の島だ!」
マースはおじいさんのくれた絵地図の1枚目を開き、目の前の島とくらべてみました。白く輝く雪山に、深緑色に生い茂った森林、反対側には青くなだらかな山があって、少し拓けたところでは羊がのんびり草を食べている・・・絵地図の通り。やはり九九の島のようです。

近づいてみると、海から一番近いところには、たくさんの家が並んでいました。
「屋根があのときの小石みたいだな」
マースは、おじいさんと小石や木の実を並べて遊んだことを思い出していました。
「いろんな模様を作るのがおもしろくて、きれいな小石を探したんだっけ」
石を規則正しく並べ、2人でどちらが美しい模様を作れるか、競争したものです。

よくよく見ると屋根の並び方も、何かの約束事に従っているような気がしてきました。
「もしかして・・・」
マースはカモメの置いていった方眼紙を取り出し、家の屋根の並び方の通りに色をつけてみました。
「やっぱりそうだ!」
屋根の色には秘密があったのです。

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(↑ カモメにもらった方眼紙は九九の表だった。1の位のみに注目し、同じ数には同じ色を塗ったところ)

不思議な島にたどり着いたマース。これからどんな冒険がまっているのでしょうか。
お話はまだまだ続きます。


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えりか先生。神戸シュタイナーハウスでは、子どもクラスを担当。
小学校教員を経て、現在は放課後等デイサービスの指導員として働くかたわら、神戸・京都において日曜クラスの先生としても活躍中。
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神戸シュタイナーハウス
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