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書籍『森の来訪者たち 北欧のコテージで見つけた生命の輝き』

ニーナ・バートン (著), 羽根 由 (翻訳)
出版社 ‎ 草思社‏
発売日 2022/10/31
単行本 371ページ



目次

第一章 自然の中へ
第二章 青い屋根へ
第三章 ドアのそばで羽音が
第四章 アリの壁
第五章 海が見えるベランダ
第六章 野生の力
第七章 守護樹

参考文献

本書より


内容紹介
 コテージにあふれる生き物たちとの出会いを、詩人の感性で抒情豊かにつづった自然と生命への思索。北欧版『森の生活』と呼ぶべき、新たな文学と科学の交差点。

公式サイトより


レビュー

 まず本書冒頭を引用いたします。

 目に見えないもの、派手な色彩のもの。愛情深いもの。地上のあらゆる生命が私の周りでうごめいている。子どものころ自分の住所を書くときに、番地、市、県、国だけでなく、さらに地球上のどこにあるのかまで詳しく書いた。まるで自分を取り囲む壁が広がっていくかのように。だがこれは私だけではなく、どうやらほかのみんなも世界の中心は自分だと考えているようなのだ。おまけにそれは人間だけではなく、自然界のあらゆるところに「中心」が無数にあるらしい。こうして疑問が芽生えはじめた。
 自然とは何だろう? それは「環境」や「自由」や「生まれつき」などの意味でも使われるが、nature(自然)はnativity(誕生)と語源が同じであることを考えると、「絶えず生まれること」の意味もあるのではないか。すなわち、何十億もの異なる中心が「自分こそは重要だ」と主張しながら連なっている生命体なのだ。おのおのが独自のリズムと視点を持っているので、一度にすべてを把握するのは不可能だ。

本文より

 ニーナ・バートン(以下、ニーナ)は母の死後、母のアパートを売ったお金にて別荘を購入し、そこで自然や生命について書くことにします。
  その別荘には様々な生き物がやってきて、ニーナを観察し、ニーナも訪れた生き物たちを観察するのですけれども、その過程にて生じたニーナの思索の数々が、生き物たちの愛らしく、そして生命力に溢れる描写と共に、生物学や科学、その他あらゆる知識を交えて詩的に語られてゆきます。

 野生では、一瞬一瞬が一つの世界を持っているのだろう。

 書くことの目的は、未来へ向けて生命の本質を伝えることではないだろうか。
 だから文字と生物学には類似点が多いのだろうか? Cultureには「文化」と「栽培」両方の意味がある。確かに思想は植物のように異種交配できるし、果樹のように接ぎ木することもできる。読みにくい表現部分は花壇の植物のように間引きして、有機的なリズムを得ることができる。単語は他の言語に移植できるし、ハイブリッドを生み出すこともできる。発想力を開花し、連想を枝分かれさせ、書かれた世界に香りと影をもたらすことができる。

 一章~七章へと辿り着いた読者は、著者のある意図に気づくはずです。
 それは原題にも冠されている意図であり、同時に本書が緻密に構築された世界であることを示すものでもあります。

 空や大気に境界線は無く、ゆえに生命にも、境界線はありません。
 
 ニーナの奏でる素敵なフィナーレに、幸せな気持ちになります。



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