映画『Samsara』
2011年/製作国:アメリカ、ケニア、インドネシア、タイ、デンマーク/上映時間:102分
原題 Samsara
監督 ロン・フリック
予告編(海外版)
レビュー
『Baraka』に続き、こちらも面白かった。
ただし、『Samsara』は『Baraka』よりも必要な知識量がup。
ゆえに個人的には、意図が明確に理解できない部分も増えました。
終盤の「メッカ」→「サンピエトロ大聖堂のクレメンス13世の記念碑」の意図とか、イマイチよくわからず……(単純にイスラム教とキリスト教の…というわけではないでしょうし)
あと、使用されている音楽の歌詞もわからないため(歌詞にも当然意図があるのでしょうけれども……)、ちょっと悔しいです。というか、知っている音楽自体1曲しかありませんでした…。いつか時間を作って調べてみたいです。
でもしかし、大好きな世界遺産はいくつも登場し眼福。
スコータイ辺りの寺院群(と思います)の撮り方、かなり好みでした。
有名なミイラ等も登場します(なんか話が飛びまくっておりますけれども、本編はもっと飛びまくってますゆえOKということに)。中でも大好きな泥炭地ミイラ(デンマークのユトランド半島にて1950年に発見されたトーロン人のもの)が登場した時には歓喜いたしました。
石黒浩とそのロボットが出てくるのも面白いですし(作品全体において相変わらず監督の日本びいき炸裂)、夜景とかも綺麗ですし…。
もう全編良くて、語りたいこと尽くしです。
※前作も色々語りたくなってしまう作品でした
ただ、今作は前作よりも人間のダークサイドに鋭く切り込んでますゆえ、鑑賞時にはちょっと体力が必要かも。
とは言うものの、映像も、音楽も、そして編集も、やっぱり素敵です。
一見、関連性が希薄に思える映像・音・音楽を、編集の力技によりまとめ上げ、諸行無常、万物流転な力強いメッセージを生み出しているところに強く惹かれます。
地球においては生物も無生物も全ては微細に関わり合っているという当然の(しかし日常生活においてはほぼ忘れてしまっている)事実を感覚的に思い出させてくれたり、視点の工夫により宇宙的な空間や法則の存在を連想させてくれたり、スピリチュアルな感覚を有しつつも没することなく、現実を直視する目を用いて鑑賞者の思考を促しつつ、且つ、最初から最後まで楽しませてくれる本作は、傑作です。
新作を制作なさらないのかしら…
ロン・フリック監督。もっと多くの人に認知&評価されてほしい。
以下、自分のメモも兼ね、少しだけ考察を記します。
※ネタバレを含みますゆえ、未見の方はご注意ください
作品後半部分にて、ゴミ山でスカベンジャーする人々の映像の後に、突然「硫黄」の採掘現場の映像が登場しますけれども、それは「火薬」を連想させるものであり(原料ゆえ)、「ここから武器・兵器批判パートを描いてゆきます」と、わかりやすく鑑賞者に知らせてくれます。
その後の映像の繋げ方はとても面白く、棺桶の形状や種類(銃の棺桶には笑ってしまいました)の画は、銃器&弾丸の画と重ねられてゆき、続けて世界中の個人~家族~集団~国家に銃器が浸透してしまっている現実が端的に描かれ、さらにそのような現実から必然的に生み出される結果についても端的に語られます。
そして「嘆きの壁」や「メッカ」「ピラミッド」等の「宗教的なモニュメント」や「宗教の信者達」の映像へと繋げることにより、人間が主に何を理由に殺し合いを続けてきたのか、そして何を理由にこれからも続けてゆくのかも暗示されているように思います。
細かいところでは、沢山の弾丸の映像と攻撃性を感じさせる人間の集団の映像をリンクさせたり、墓地をバックに火傷で酷い外見となってしまった兵士と観客を見つめ合わせたり、韓国と北朝鮮の軍事境界線の兵士の握りしめた拳を映したり…(ちょっとヤラセっぽい気もしますけれども)。
とにかく映像の力を駆使し、力強く鑑賞者の良心へと訴えかけてきます(こんな現実をどう思いますか?変えたいとは思いませんか?と)。
更に圧巻のラストでは、「砂曼荼羅」ぶっ壊しからの「千手観音」、万物流転&諸行無常の「砂漠(諦観)」の空撮により、鑑賞者はウットリと心地良く召される仕組みとなっており、感無量の解脱を迎える。