映画『カーマイン・ストリート・ギター』
2018年/製作国:カナダ/上映時間:80分 ドキュメンタリー作品
原題 Carmine Street Guitars
監督 ロン・マン
予告編(日本版)
予告編(海外版)
STORY
レビュー
ギター作りの主要な工程を、すべて一人でこなすギター職人のリック・ケリー(Rick Keiiy)は幼少期、木材職人であった祖父の影響を受け木材に魅了され、大学にて彫刻を学ぶようになる。学業の合間に廃材を集めて物作りをするようになった彼は、その過程で自分の作ったエレキギターの音色が、工場にて機械的に組み立てられたギターよりも美しい音色を奏でることに気づく。
やがて彼は、ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジに店を出し、その後1990年に通りに面した現在の店舗、「カーマイン・ストリート・ギター」へと引っ越した。
その後、ギターを制作してもらおうと自宅の屋根裏の木材を持ってきた映画監督、ジム・ジャームッシュとの出会いにより、彼は約2世紀前にニューヨーク各地の建設のために伐採されたニューヨーク特有の木材を使用してギターを制作することを、ライフワークとするようになる。
ちなみにリックが集めてギターへと生かす、一般的には「廃材」と呼ばれている様々な種類の木からなる木材たちは、どれも天然の森が豊かだった頃のとても良質な木材たちであり、天然の森を伐りつくした後に強引に植林され、工業的に促成栽培された貧弱な木材とは比べ物にならない程に別物の、稀少価値の高い木材なのであった。
そのようなわけでリックのギターはどれも、見た目も、音色も、生まれた際の物語も違う、唯一無二のギターとなる。
ゆえに彼の店には、自然と一流のギター弾き達が集まってくる。
人と人とが、木を用いて作られた楽器を通して響き合い、繋がるのだ。
奏でられる音色と共に、人々が笑顔で交わす会話が、愛おしい。
店はリックとその母のドロシー・ケリー、弟子のシンディ・ヒュレッジの3人によって運営されている。
シンディは、大工でギターを弾くのが趣味であった父親の影響を受け、物作りに興味を抱くようになり、アートスクールへと通ったのち、リックに弟子入りした。リックとは世代も考え方も感性も違うが、深い部分で響き合っており、その2人の素敵な関係が、本作に彩を添えて美しい。
しかし本作は、音楽とギター職人を追っただけの、牧歌的な作品ではない。
ニューヨークやグリニッジ・ヴィレッジという場所がどのように変化して来たか、そしてその変化が今、何をもたらしているのか。そしてアメリカの森林の現状等も、静かに語られてゆく。
小さな個人経営の店から、広角に大きく広がる鋭い視点を内包する、とても良質なドキュメンタリーなのだ。
それとなく映されてゆく「カーマイン・ストリート・ギター」店内の写真やギターには、無数の物語りが満ちており、語り出すとキリが無いため割愛するが、そういった部分も見所となっている。
※Blu-rayの特典映像は、本編の一部と言っても良く、本作を愛する人にはたまらない内容である