夜道を美しくする街灯のない世界:クレイジーなアイデアが生み出すイノベーション
私は青山学院大学大学院ビジネススクール(MBA)で「イノベーションとアート」という授業をもっています。 この授業では、アート思考を身につけることを目的として、アート作品の制作と事業プランの提案の2つを行います。最初にアート作品を制作することで、通常では出てこないようなクレイジーな事業プランを考え出すことに挑戦します。
クレイジーなアイデアとは何か
物理学者であり起業家でもあるサフィ・バーコール(Bahcall, Safi)は、著書『LOONSHOTS クレイジーを最高のイノベーションにする』で、次のように述べています。
世の中に登場したイノベーションには、最初はクレイジーと思われていたものが数多くあります。iPhoneも、スティーブ・ジョブズがプレゼンした直後、ボタンをなくしたのはクレイジーだという声があったのです。
学生が考えたクレイジーなアイデア
今回、学生が提案してくれたクレイジーなアイデアの一つを紹介します。 その学生の問題意識は、都市に街灯が溢れているということでした。誰も歩いていないときにも、煌々と街灯が点いている必要はないのではないか、人がそれぞれ灯りをもって歩けばいいのではないかと考えました。そして、太陽光で発電できるポータブルな灯りを開発して、街灯は少しずつ減らしていくことを提案してくれました。
もともと江戸時代までは街灯はなく、人々は提灯を持って夜道を歩いていました。 明治になり街灯が登場すると、その明るさに人々はびっくりし、夜通し見物したと言われています。 固定の街灯がでてきたことで、自分で灯りをもつ必要はなくなりました。
この歴史を逆行させようというアイデア。一度便利さを享受してしまうと、私たちはなかなか手放すことはできません。この提案は、ある意味かなりクレイジーです。
クレイジーなアイデアを実現した事例
ところが、街灯をなくすというコンセプトを考え、既に実行している事例があります。
オランダのアーティスト、ダーン・ローズガールデ (Daan Roosegaarde)は、ハイマンス(Heijmans)社とコラボレートして、昼に太陽エネルギーを吸収し、夜になると光を発する特殊な蓄光塗料を開発、自動車専用道路の車線に塗ったのです。これはオランダ・オス市のN329号線に設置されました。この塗料が塗られた区間には街灯はなく、3本の緑色のラインが自動車を導いていきます。
ローズガルデは、この区間の夜間のドライブを「おとぎ話の中を行くようだ」と表現しました。
彼らは、同じコンセプトで自転車専用道路「VAN GOGH PATH」も創りました。こちらは道路全体に、細かく蓄光の石をうめてあり、天の川を思わせる光景が広がっています。ゴッホの《星月夜》からインスパイアされ、ゴッホが住んだことのあるヌエネンに設置されています。VAN GOGH PATHを観にくる観光客も多く、道路の近くにホテルができたほどだそうです。
アート思考がクレイジーなアイデアを生む
ローズガールデは、これらのアイデアの創出について次のように語っています。
そして、必要なのは技術や資金ではなく、想像力だと主張します。
青山学院の学生たちや、ローズガルデのように、クレイジーだけれど、社会を変えるようなアイデアを考えられるようになるには、アート思考を身につけ、従来の常識を覆す気概をもつことが必要です。
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