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非思量:関心ごとへの没頭と静謐が導く革新的なアイデア
私たちは日々、革新的なアイデアを求められます。しかし、画期的な発想を生み出すことは非常に難しいことです。本稿では、世界的アーティスト、オラファー・エリアソンの創造プロセスを通じて、ビジネスパーソンがアイデア創出のために活用できる「非思量」の概念と、それがいかにアート思考と結びつき、イノベーションを促進するかを探求します。
非思量:未知のものに関心を集中する
非思量とは、禅の教えに由来する深遠な概念です。「思量」が思考を巡らせることを意味するのに対し、「非思量」は思考を超越した状態、すなわち雑念から解放され、心が澄み切った境地をさします。この状態こそが、革新的なアイデアや洞察を受容する最適なのです。
著名な数学者、岡潔氏は非思量について以下のように述べています:
非思量とは、未知のものに、まだ理解していないものに、関心を集中し続けること。一点に関心を集中すると、自我を忘れて深く探求するようになり、その本質が徐々に明らかになってくる。
この洞察は、創造性の本質を見事に捉えています。自身の関心事に深く没頭することは「アート思考」そのものです。固定観念から解放されることで、革新的な発想が生まれる可能性が飛躍的に高まるのです。
オラファー・エリアソンの革新的アイデア
デンマーク出身のアイスランド系アーティスト、オラファー・エリアソン(1967-)の創造プロセスは、非思量とアート思考の実践例として極めて示唆に富んでいます。
彼の新作《相互に繋がりあう瞬間が協和する周期》は、麻布台ヒルズ森JPタワーのエントランスに設置された壮大な作品です。その特徴を詳細に見てみましょう:
設置環境:天井高15mの壮大な吹き抜け空間
構成:直径約3mの4つの彫刻が空中に浮遊するように吊るされている
形状:菱形、凧型、三角形からなる独創的な11面体の組み合わせ
素材:革新的技術によって、ゴミ焼却時に発生する煙から回収した亜鉛
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この作品は、環境問題に対するオラファーの深い洞察と関心から生まれました。通常、ゴミ焼却過程で発生する亜鉛は廃棄物として処理されますが、オラファーは最先端の実験的技術を駆使して亜鉛を回収し、アート作品の素材として再生させました。
特筆すべきは、11面体という一般的にはあまり使用されない立体を採用している点です。この独特なモジュールは、Studio Olafur Eliasson による長年の研究と探求の成果です。不規則な数の菱形、凧型、三角形の面が組み合わさることで、予想外の曲線美を生み出し、作品全体に生命体のような有機的な印象を付与しています。
この、他に類を見ない構造とリサイクル亜鉛の使用というコンセプトに、オラファーの創造性の神髄が如実に表れています。彼は新たなアイデアの創出を促進するため、自身のスタジオ内に「内なる創造性の庭(My personal creative garden)」と呼ばれる特別な空間を設け、そこで非思量の境地を追求しています。
非思量:未来の自分からのメッセージ
オラファーは自身の創造プロセスについて、次のように語っています:
真に革新的なアイデアを生み出すことは、想像を絶する困難さを伴います。私は、この静謐なスペースで深い思索に耽ります。この庭で、未来の自分からのメッセージを受け取り、新たなアイデアの啓示を得るのです。抽象的に聞こえるかもしれませんが、本質的にはとてもシンプルなプロセスなのです。自分のものではない新しい思想を生み出すという意味では、禅の非思量という考え方に近いかもしれません。
「未来への思考実験こそが、クリエイティビティの本質となる」六本木未来会議
彼の哲学によれば、現在はまだ到達していない革新的アイデアも、未来の自分はすでに把握している。であるならば、未来の自分から現在の自分へとそのアイデアを伝達することが可能なはずだ、というわけです。
この概念は、SF映画『インターステラー』で、主人公が時空を超えて自身にメッセージを送るシーンを彷彿とさせます。つまり、日常の些細な事象の中に、未来の自分からの革新的なメッセージが潜在している。それを見出すために必要な精神状態が、まさに非思量なのです。
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おわりに
非思量は、ビジネスにおいても創造性とイノベーションの核心を成す概念です。自身の関心事に没頭し、心を静謐な状態に保つことで、日常の事象から革新的なインスピレーションを受ける可能性が劇的に高まります。
「物の真理とは、人為的に作り出せるものではない。物事そのものが、自ずからその本質を顕現させるのである」(北野大雲老師)と言えるでしょう。
静謐になる時間を設け、非思量の境地を追求することで、積極的に思考するのとは別の可能性がでてきます。革新的なアイデアは、未来の自分が教えてくれます。非思量を実践し、そのメッセージを受け取る鍵を手に入れましょう。