アートから学ぶ捨象された事象への視点
私たちは日々多くの情報に接しています。その中から必要な情報だけを選択し、単純化して理解することは効率的な判断や行動に欠かせません。しかし、その過程で捨象されてしまった事象にも、価値があることを知っていますか?
アートは、私たちが見過ごしてしまった事象から新たな発想や感動を生み出す力があります。この記事では、現代美術作家・杉本博司さんの作品《OPTICKS》を例に取りながら、アートから学べる捨象された事象への視点について考えてみましょう。
太陽光は7色からなる - ニュートンの分光実験
太陽光を分光すると7色になると提唱したのはアイザック・ニュートンです。1665年に、自分で分光器を製作し、太陽光を構成色に分解しました。それまで太陽光は白色と信じられてきましたが、この実験で要素に分解したことで、多数の色からなることがわかったのです。さらに、ニュートンは、不透明な物体は光の特定の色を吸収し他の色を反射すること、反射された色が人間の目に見える色だということにも気づきました。
これらの一連の研究は、『OPTICKS』という本にまとめられ、1704年に出版されました。そこには「オリジナルな基本色は赤・黄・緑・青および菫であり、それに橙、藍があり、さらにその中間に無限の変化がある」と書かれています。
ニュートンの分光実験は、科学史上において画期的なものでした。しかし、ニュートンは、色と音(オクターブ)との関連に興味があり、太陽光を7色に区切ったのです。それは、その間にある無数の色を捨てることになります。
私たちは、太陽光は無限の色からなると言われるよりも、7色からなると言われる方が理解しやすくなります。科学的な認知は、自然現象を単純化し、捨象することで成り立っていると言えます。
隙間の色から世界を掬い取るアート
現代美術作家の杉本博司さんは、非常に多彩でいろいろな場で活躍していますが、メインの作品は写真です。写真と光は切り離すことができません。あるとき、ニュートンの『OPTICKS』初版本がオークションに出ることを知り、落札しました。そして、この本に書いてある方法で、自らも分光器を製作し、太陽光を分解してみました。
杉本さんは、太陽光を分光してみると、単に7つの色に分かれるのではなく、黄色と赤など色と色の隙間に無限の諧調の色が存在し、刻々と変化していくことに気づきました。杉本さんは、私たちが捨て去った隙間の色にこそ深淵さがあると感じ、ポラロイドフィルムで撮影し、《OPTICKS》というタイトルの作品を発表しました。そして、以下のように語りました。
人々が捨象した隙間の色に着目し、全く新しいコンセプトの作品を創ることができたのです。
アートから学ぶ視点の広げ方
現代は、情報に溢れています。自分の活動に必要な情報、興味ある情報以外は捨て去らないと、とても対応しきれません。しかし、隙間の色のように、スルーしてしまった事象に、新たな発想や感動の鍵が隠れていることも多いのです。アートは、そのような捨象した事象に目を向け作品として提示してくれています。アートを観ることで、私たちは視点を広げることができるのです。
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