逆境で生まれた新しい音楽
この記事では、ジャズピアニストの上原ひろみさんが、コロナ禍の間に続けてきた「SAVE LIVE MUSIC」と、その中で創り出した新しいセッションについて書いています。
パンデミックの中で始まった「SAVE LIVE MUSIC」
2022年12月18日、東京国際フォーラムで、上原ひろみ「SAVE LIVE MUSIC FINAL」が開催されました。
「SAVE LIVE MUSIC」は、2020年8月にブルーノート東京で始まったプロジェクトです。新型コロナウイルス感染症のパンデミックにより、ライブコンサートは次々と中止になりました。ブルーノートでは、海外から多くのアーティストが来て演奏していましたが、彼らも来日できなくなりました。
一方、ひろみさんはグローバルで活躍しているピアニストですが、海外でのツアーが中止になり、日本に戻ってきていました。
ブルーノートで本来海外のアーティストが演奏するはずだった日々、空いたライブハウスでひろみさんが演奏することを提案したそうです。しかも全ての日程。オンライン配信も取り入れて、会場に来ることのできない人にも音楽を届けました。
緊急時にこそ生まれる新たな発想
「緊急事態になると、人はクリエイティブになる」というのは、現代美術家の毛利悠子さんが語った言葉です。ひろみさんの場合も、「SAVE LIVE MUSIC」を続けていく中で、新しいアイデアが生まれました。
弦楽四重奏とのセッション、「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」の誕生です。
ブルーノート東京では、ソロで演奏をしていましたが、別のフォーマットでやりたいと思うようになりました。しかし、海外のミュージシャンは来日できません。
そんな中、ふと、弦楽四重奏とのセッションというのは面白いのではと思いつきました。
以前共演したことのある、バイオリニストの西江辰郎さん(新日本フィルハーモニー交響楽団のコンサート・マスター)に声をかけたところ、「やってみたい」と言ってもらえ、実現に至りました。
2021年には、「上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット」でアルバムも出しています。
パンデミックの終わりを告げる「SAVE LIVE MUSIC FINAL」
2022年8月、「SAVE LIVE MUSIC」が始まって2年、公演は100回を超えました。コロナ禍で、これだけの数の公演を行ったアーティストは、そういないのではないでしょうか。ライブ音楽を絶やしてはいけないという思いと、いろいろなフォーマットで演奏できるクリエイティビティの賜物に違いありません。
今は、ブルーノート東京にも、海外のアーティストが来るようになりました。ひろみさんも海外で演奏できるようになっています。そこで、12月のジャパンツアーは、「SAVE LIVE MUSIC FINAL」と題して行われました。
12月17日の東京公演は、第1部で、矢野顕子さんとひろみさんのセッション、第2部で上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテットが登場しました。
矢野顕子さんが、いきなり「ラーメンたべたい うまいのたべたい 熱いのたべたい」と歌い出したのにはびっくり。彼女のふんわりした歌は、殺伐とした2022年の世相を癒してくれる不思議な力があります。
そして上原ひろみ ザ・ピアノ・クインテット。ひろみさんの超絶技巧に対抗するかのように、弦楽器の四人も、次々と技を披露、満席の観客を前に演奏することの喜びに溢れていました。
不屈の魂が創り出した音楽と、アーティストたちのエネルギーを浴びて、私自身も勇気づけられた、またとない素敵な公演でした。
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