
【第1回】ECとは、サイトではなく、ビジネスをつくるものである | 中小企業のためのECビジネスの立上げ・改善入門講座
「ECサイトを立ち上げたものの、思うように売上が立たない」
「長年ECを担当していた人が辞めて困っている」
「経営者から、EC事業を成長させるよう言われているが、何から手をつければいいのかわからない」
「経営陣から言われて楽天に出店し、本店サイトも立ち上げたが、思うように売れなくて悩んでいる」
「これまでにコンサルをつけて、ECサイトの改善に取り組んだが、上手くいかなかった。伴走してアドバイスをくれるパートナーを探している」
このページをご覧になっている方の中には、上記のような悩みを抱えているEC事業の責任者、店長さんも多いのではないでしょうか。
中小企業支援のスポットライトは、中小・中堅企業のECビジネスの構築、改善、運営の支援を専門とするコンサルティングオフィスです。
なかでも、
食品、調味料
飲料、酒類
化粧品
健康食品、サプリメント
など、「商品を長く購入していただくこと」が成長の要となる中小・中堅のBtoC製造業や小売製造業のEC支援を得意としています。
当オフィスは「企業のECビジネスを成長の軌道にのせること」をミッションとしています。
筆者は、18年間にわたるマーケティング経験を持ち、食品メーカーでほぼゼロからEC事業の再建に関わり、2年で年商1億円以上の店舗へ成長させた実績があります。
また、これまでに100社近くの企業のコンサルティングを行い、民間と公的機関でのセミナーや研修をとおして、300名以上のEC担当者と対面して直接、悩みを聞いてきました。
当オフィスは、下記の図1に示すように、中小・中堅企業の中で「会社命令でITに詳しい人が言われたように行っているECサイトの運営」を「企業の理念に基づき、お客さんの満足や感動を目指すECビジネスへ成長させる」ための支援を行っています。

本連載では、筆者の18年間のマーケティングの経験と知識から得たECビジネスを成長軌道に乗せるために必要な7つのことをお伝えしたいと思います。
《この連載記事でお伝えしたい7つのこと》
ECとはサイトではなく、ビジネスをつくるものである
EC事業に、想いを乗せる方法
私たちが買っているのは、モノではなく、夢や人生である
ECで販売する「商品のストーリー」のつくり方
持続的な成長に欠かせないリピート対策の方法
熱狂的なファンをつくり出す店舗の運営方法
企業が本気でECに取り組んだ時に得られる2つのこと
|企業のECビジネスに「共通する悩み」とは?
当オフィスに相談に訪れるお客さんの業界や規模、取り扱っている商品は多岐にわたり、それぞれに多様な悩みを抱えています。
しかし、企業でECを行っている責任者の多くの悩みは共通していると感じます。
それは「既存の事業が停滞する状況を打破するために、EC事業をはじめたものの、思うような結果が得られていないこと」です。
とくに、コロナ禍において、EC市場に参入することで「大きな成長」を期待していた企業ほど、悩みが深いと感じます。
実際に、下の図2で示すように、過去3年のコロナ禍の中で、物販を取り扱うECの市場規模は3.2兆円も拡大しました。

さらに、日本の物販系ECの市場は、ECが盛んなイギリスや韓国などの国を比較した時、今後、現在の約2倍の規模、30兆2653億円(当オフィスにて試算)まで拡大すると言われています。
下記に示す業界ごとの市場のEC化率を見ると、当オフィスが得意とする食品や調味料、飲料などの市場は、全体のEC化率が8.78パーセントに対して、EC化率3.77%とあまりECが普及していない分野のように思えます。
しかし、分母になる「食品、飲料、酒類」の市場規模は66.8兆円にもなります。ここからEC化率が0.1パーセント増えるごとに市場は668億円も拡大し、毎年3000億円も成長している巨大市場であることもわかります。

|地方企業にとっての「最後のフロンティア」
筆者は、自治体や公的な機関から依頼されて、地方でセミナーや講演を行うことがあります。
会場で受講者や主催者の方々の話をうかがうと、人口の減少が進む地方の中小・中堅企業にとってECは、「最後のフロンティア」と言わんばかりの期待を感じます。
また、メーカーの営業の責任者や商品の開発者の方は、ECは既存の商流では難しい下記のような試みができる場所として、期待を持たれています。
既存の流通に乗せる前に、開発した商品を小ロットで製造し、市場の反応を見る。
ニッチな商品を開発して、自社にとっての新たな顧客と市場を見つける。
ブログやSNSなどのツールを併用して、PRやブランディングを行い、これまで接触できなかった顧客とコミュニケーションを図る。
つまり、中小企業にとってもECは、スピーディーな商品開発とリリースだけでなく、市場ニーズの把握や、エンドユーザーとのコミュニケーションを行える絶好の機会であり、場であると認知されつつあるのです。
しかし、このような期待に反して、専門の部署をもうけたにも関わらず、ECに苦戦している中小企業は少なくありません。筆者は、次のような思い込みが、その失敗の原因ではないかと考えます。
目標を掲げ、ECの経験者を雇えば、売上は右肩あがりに増えるだろう。
商品はいいのだから、認知さえ広がれば、商品のファンが増えるだろう。
ECサイトのデザインをリニューアルすれば、勝手に売れていくだろう。
筆者は、まずこれらの先入観を払拭して、どのように企業のECを成長、改善させていけばいいのか、という道筋を示したいと考えます。
他にメインの事業を持っている企業が、EC事業を始めて、成功するためには、まず次の2つについて理解する必要があります。
ECとは、サイトではなく、ビジネスをつくるものである。
ECを成功させる鍵は、自社で人材やノウハウを育てることにある。
順番に解説していきましょう。
|ECとは、サイトではなく、ビジネスをつくるものである
10年、20年前、まだECが物珍しかった頃には、1人でECサイトを立ち上げたり、新しいプラットフォームに出店したりして、商品をアップすれば、爆発的にものが売れる時代がありました。
しかし、コロナ禍を経て、多くの企業や個人がECサイトを立ち上げるようになった現代、2020年時点で日本国内には343.6万(当オフィスにて試算)以上ものECサイトが存在します。
日本国内のコンビニの店舗数が5.7万店であることを考えると、343.6万サイト(コンビニ店舗の60倍)がいかに多いものであるかが分かると思います。
このような競合が多く存在する中で、ECはサイトをつくって、ただ更新を行っていくものから、企業として独自のビジネスをつくり、運営していくことが必要なものになっているのです。
|大手企業も参加して熾烈な競争が繰り広げているEC市場
たとえば、下の図に示す「業界ごとのEC化率」が示すように、本や家電といった業界などでは、もはやECは企業の業績を大きく左右するメインの販路であり、売り場となっています。

このような業界では、企業は積極的にECに取り組み、人材を確保し、広告を打ち、システムや物流の効率化に大きな投資を行い、熾烈な競争が繰り広げられています。
またEC化率は低いものの、アパレルの業界では、店舗とネットの垣根を取り払い、「全社をあげて、いかに自社のブランドを購入して貰えるかに取り組んでいる」といったニュースを読んだこともあるでしょう。
さらに、EC化率が低い食品、飲料、酒類の業界においても、業界の大手企業や優良企業がこぞって、ECへ参加して、消費者に向けての直販に力を入れていることもご存じかと思います。
ここでも、ECとは、労せずに多くを得られる一人でできるネットビジネスから、企業で取り組むリアルビジネスへと変化していることを実感できるのではないかと思います。
|ECビジネスの成功の鍵は、人の成長である
ここまでの説明で、
・EC市場では、大手や優良企業も参入し、熾烈な競争が繰り広げられている
・ECとはサイトではなく、ビジネスをつくっていくものである
ということが、よくご理解いただけたのではないかと思います。
では、中小・中堅企業がECを成功させるための最大の鍵とは何でしょうか。筆者は、これまでコンサルを通して出会ってきた様々な会社を思い浮かべて、「ECビジネスを行う中で、人を育てること」ではないか、と考えます。
自らECをはじめて成功している企業の経営者には間違いなく、バイタリティと行動力があります。またECの成功には、経営者のリードが欠かせないと感じます。
さらに、EC事業に成功している会社には、例外なく実務を引っ張っているリーダー役と、その仕事をサポートし、全体を円滑にまわす仕組みをつくるサポート役がいます。
さらに、そうした優れた経営者や人材は、自社だけにしかないノウハウをつくり出すことが上手く、それがビジネスを差別化する「最大の強み」となっていることが多いのです。
つまり、EC事業の成功には、「ビジネスを行う中で、人を育てること」が欠かせないのです。漫然と言われたことを、言われたようにできる人ではなく、自ら挑戦をして学び、事業の成長につながる「小さな手がかり」を見つけ出せる人が必要なのです。
逆に言えば、既存の事業を持つ企業の多くがEC事業に失敗している理由は、EC事業を取りまく市場の環境に関する認識が甘く、ビジネスも、人も育てることができていないからである、とも言えます。
|ECというビジネスと人の育て方
前述したように、これまでのECとは「サイトをつくり、更新していくこと」でした。
すこし前の時代まで、企業におけるEC担当者やスタッフに求められるのは、サイトのディレクションやデザイン、コーディング、受注の管理、顧客への対応力といった専門の知識や経験でした。
組織の中では、売上などの業績の責任は、役員や事業の責任者が負い、ECを担当するスタッフは定型的な業務を行うというようになっていました。また、経営者は「ITやECのことはよく分からないから任せた」という感じではないでしょうか。
しかし、コロナ禍を経て、ECはますますサイト制作や運営ではなく、メーカーまたは卸直販という「リアルな小売ビジネス」に近づいています。
一般論として、ビジネスを行うためには、目的と目標、それを実現するための戦略と戦術といった考えと、それを実行する組織が必要です。
何よりもまず、経営者や事業の責任者が「市場はどのくらい伸びているのか」、「競争はどれくらい激しいのか」、「どうしたら事業として成り立つか」という現状を正しく把握し、「ビジネスの目的」を明確にすることが大切です。
さらに、ECの担当者を含む全員が「どうしたら、このビジネスを成功させられるのか」という考え(戦略、戦術)を持つことが大切です。
ここでいう「現状把握」や「目的」、「戦略」や「戦術」とは、
現状把握:地図の上で、立っている位置を知る
目的:地図の上で、目的地を定める
戦略:地図を見て、歩く方角を決める
戦術:地図を見て、目標地点に辿りつくルートを選ぶ
と言い換えることもできます。
さらに、実際にビジネスを進めていく上では、いい意味でも、悪い意味でも「予期していなかったこと」が数多く発生します。
どんなに詳細な地図を持っていたとしても、俯瞰で見る景色と、実際に歩く景色は異なる、ということです。
そうした時に、EC事業を行う会社にも、人にも、置かれた状況に合わせて自ら進んでいく力とともに、引き返して別の道を選ぶ力が欠かせません。
さらに言えば、目的や目標に到達するためにいちばん重要な手がかりや問題は「歩いている人にしか見えていないことも多いという事実」も謙虚に理解する必要があります(これは筆者以上に、リアルにビジネスを経験してきた経営者の方々は肌身に染みて分かることではないでしょうか)。
前述したように、ECは、市場の規模も、伸びしろも大きい反面で、変化のスピードも、競争も激しい市場です。
こうした中で、中小企業の経営者は作戦本部で地図を見て、戦略を論じるだけでなく、自ら現場に身を置いて、EC事業の責任者や担当者が言う重要な手がかりや問題をていねいに聞き、判断を助ける必要があります。
しかし、ECではこの現在地を把握して、地図を描き、目的地を定め、そこにいたるためのルートを決め、さらには現場に行き、状況を肌で理解するというリアルビジネスに欠かせないプロセスが抜けていることが多いのです。
こうした中で、サイトを更新したり、ページをつくったりできる人材はいても、ビジネスを成長させることができる人材が育たない、という問題が起こっています。
繰り返しになりますが、その原因は、企業の中の誰の頭の中でも、ECサイトではなく、ビジネスの目的と目標、戦略、戦術といった考えが思い描かれておらず、それを実行、援護する組織もできていないためであると考えます。
逆に言えば、EC事業を成功させるためには、①ECに関わる人全員が目的、目標、戦略、戦術を共有し、②中小企業ならではのスピーディな意思決定によって現実に対応できる組織を準備することが欠かせないと筆者は考えます。
つまり、継続的にEC事業を成長させるためには、リアルな新規事業と同じように、ビジネスとそれを担う人を育てるという覚悟が必要になるのです。
EC業界を大きく成長させたコロナ禍を経た現在、ECの売上が伸び悩んでいる、前年比で落ち込んでしまったという会社ほど、自社のEC事業を見直す、いい機会が訪れていると筆者は考えます。
では、上記で述べたEC事業に関する現状把握、目的の明確化、事業の戦略や戦術はどのようにつくっていけばよいのでしょうか。また、経営者や営業の責任者だけでなく、関係する人全員を事業に参加させていけばよいのでしょうか。
次の記事では、その具体的な方法について、お伝えします。
長文の記事をお読みいただき、誠に有難うございます。
▼次の記事は、下記となります。
【第2回】EC事業に想いを乗せる方法
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▼7回連載記事の続きを読みたい方は、下記のリンクをご参照ください。
『中小企業のためのEC・ネットショップ立上げ・改善入門講座』【全7回】
【第2回】EC事業に想いを乗せる方法
【第3回】お客さんがECで購入しているのはモノではなく、夢や体験である
【第4回】ECで販売する商品のストーリーのつくり方
【第5回】持続的にECサイトを成長させるリピート購入の仕組みづくり
【第6回】熱狂的ファンをつくるEC店舗の運営方法
【第7回】企業がEC事業に本気で取り組んだ時に与えられる2つのもの