見出し画像

“敗者の哲学”の果てに🇨🇿チェコ版『巨人の星』マレク・フルプのバットに託された野球小国の未来図⚾️

星飛雄馬?星一徹?どちらが『巨人の星』のスパルタ親父で、どちらが火の玉目玉っ子ジャイアンくん本人なのかさえ教えてもらえないアンチ巨人軍・アンチ鉄拳制裁の温かい中流家庭で、僕はかなりチャランポランに育った。
『ドカベン』『一発貫太くん』『名門!第三野球部』辺りに、大いなる未来のビジョンを描かせてもらった少年時代である。
一方、去る9月25日、晴れて讀賣ジャイアンツとの育成契約にサインしたチェコ共和国の主砲、マレク・フルプは、ひょっとしたら星家のような厳しい環境の下、英才教育を施されながら、がむしゃらにバットを振らされて育った野球小僧だったのかもしれない。

父親世代がチェコの大地に野球の種を蒔いて、
息子達が芽を出して、花を咲かせる小国の夢。

マレク・フルプの父ヴラジミール・フルプは1972年3月15日、アメリカナイズされた自遊な云云なんて早晩、ニヒルな検閲に握り潰されし時代のチェコスロヴァキア社会主義共和国に生まれ落ちた。共産社会の憂鬱な潮流に抗って、アンチコミュニズムを自認するようなベースボールなんぞメリケンスポーツに打ち込む事自体がアブノーマルな時代の支配下である。CCCPの威圧的な傀儡を警棒代わりのバットでぶった斬る様な、侍の如き孤高な反骨心と闘志、USA的未来を切り拓く野望や情熱をメラメラと胸に秘めてプレー出来る幕末の志士の如き革命児でなければ、おそらく続けられなかった反共産分子的野球浪漫であろう。

現チェコ共和国代表監督のドクター、パヴェル・ハジム外野手同様に”右投げ左打ち”のフィールドプレーヤーとしては”左に倣え”の打撃スタイルを踏襲し、陽の当たらないチェコ野球界をしゃにむに牽引して来た。走攻守の技術のみならず、野球場の整備の面でもプロフェッショナルとなり、野球不毛のチェコの凍土に土台を築く原点から担ってきた真の開拓者と呼べる野球の蟲である。来季は監督として”チェコで最も美しい城”と謳われるフルボカー城のお膝元に本拠地を有するソコル・フルボカー軍の監督を務める予定であり、愛息に継ぐプロ野球選手の育成に心血を注ぐ熱血漢のアンチスパルティックな辣腕にも注目したい。

フルプ家の父子鷹はチェコ野球界の未来を担う。

“せがれ”のマレクは、野球選手としては実に大いなるポテンシャルと熱血親父に恵まれながら、その実像は実にシャイで寡黙な青年だなぁ...と僕は昨今、彼を見つめてきた。WBC最終予選や本戦TOKYOラウンドで見せつけたパワーやガッツからは想像のつかない人見知りした表情を、普段は頻繁に見せる選手でもある。昨秋、自国開催された欧州選手権で、全くバットにボールが掠りもしない極度の不振に喘いだ数日間は、声を掛けるどころか、近づくことさえ憚られるような暗澹たる奈落のオーラを漂わせ、深く沈み切っていた。

フルプのホームランを待ち侘びた欧州選手権の外野席

それでも、試合前のバッティング練習では、オールスターのホームラン競走を観ているかのように悉く打球が外野フェンスを越えていく。あんなに爽快な乾いた快音ばかりが響き渡るルーティーンの光景は、なかなか日本でもお目に掛かることが出来ない。「一本出れば爆発するのに...」とスタンドから眺めていたが、遂にその一本が出ないままに、いわゆる『大型扇風機』化して選手権を終えた。結果、五位に甘んじたチェコ代表の『戦犯』としての終戦は、彼のプライドをズタズタに切り裂いたであろう。

そんなスランプのドン底に沈んだフルプや2022年秋まで一向に陽の目を見なかったチェコ代表の無名な野球選手団を精神的に纏めている御仁が、メンタルコーチを務める心理学者のドゥシャン・ランダークである。ドクター”スランプ”と呼ぶにふさわしい存在かもしれない。アラレちゃん家の”のりまきせんべい博士”とは、だいぶ趣が異なりますがの。

メンタルコーチ・ランダーク氏の懐の深さが
小国チェコの名も無きアスリート達の精神的支柱。

暇な週末になると、スポーツのみならず漫画や音楽など両国の文化等に関して気軽にメッセージを交わし合う我が親友でもあるが、彼が、僕とのヤリトリの中で語ってくれた”敗者の哲学”が、マレク・フルプや雑草魂を持った不屈の野球人、小国チェコの”働く”二刀流アスリート達のメンタルを支えてきたのではないか、と僕は感じている。せっかくなのでチェコ語原文のままに引用しよう。

Učím je i přijímat porážky, aby porážka nebyla nepřítel, ale aby byla cestou ke zlepšení.
敗北は敵ではなく、改善への道のりだと受け容れるべきではないかと、いつも彼らに伝えているよ。

この輝かしいドクタータッグがチェコ代表の
ハートを支えている。右は、パベル・ハジム監督

フルプは、東京ドームで佐々木朗希から放った「あのツーベースが人生を変えた」と自身のInstagramでも語っているが、あの二塁打の後にも、前述の様な地獄さえ味わった。昨季はアメリカのノースグリーンビルカレッジで華々しい活躍を見せドラフト候補にも挙がったが、結局、指名漏れの憂き目さえ味わって、失意のままチェコに傷心帰国を余儀なくされた厳冬の時も流れた。チェコの国民的キャラクター・クルテクのように自身に吹き荒ぶ嵐が過ぎ去る春を、じっと祖国にモグって耐えた日々だったのかもしれない。それでも、今季はまたアメリカンドリームを追って米独立リーグに籍を置き、奮闘努力の日々に明け暮れていた。

昔から37番!チェコ代表では73番を背負う。

『チェコのアーロン・ジャッジ』とも異名を取る伊達な大器の履歴書は、再三再四華やいでは、また汚され、自身深く打ちひしがれながらも、また立ち上がり、ひたむきに自他と闘って来た。
そんな快晴後、横殴りの猛吹雪...まるで真冬のチェコを想わせるような野球人生に、あのWBCの春の園・東京ドームの興行主である讀賣ジャイアンツから、ふた夏を越えたこの秋、ジャパニーズドリームへの挑戦権が与えられた。チェコ版『巨人の星』に、アニメのようなロマンチックなシナリオをビッグエッグの天井に描き”037”とスパイコード007のような3桁の背番号とミッションを授けて。

GではなくCのユニフォームを着せてあげたかったが、
フルプとチョーノさんを応援します!

プラハから広島に戻り、東洋カープをお膝元で応援していると、ワシらのカープに対して、まるで宗教のような過熱気味の狂信的な声援を贈るファンも多く、いつしか僕は口癖のように「野球は日本の宗教、特にワシらの広島...」と自虐的に呟く歳月だった。が、昨今、プラハにゐるランダーク博士が”Hokej je přece naše náboženství”(ホッケーってチェコ人の宗教だよな〜)と笑って「それでいいと思うんだよ」と持論を説いてくれたのを機に、僕も少しだけ、自身や周囲のカープmaniaと向き合い、内心諦めの境地に陥ったような、悟りの境地に達したような、半端な心境に至っている。カープ坊やが我が教祖であることには、漫画天国の国民らしく自己満足していますが。

「ホッケーはチェコ人の宗教」と語る心理学者に、
「カープは広島人の宗教」と投合するワシ。

チェコ人のソウルフード・牛肉のグラーシュを美味しく煮込むようにグツグツと熱狂的なアイスホッケー熱とは対極的に、全く世間から蔑ろにされ冷遇され続けて来た野球小国・チェコの名も無き野球選手達。その群の中から、超絶叫的なファンに後押しされる東洋の野球大国・ニッポンで、チェコ野球史上初のサクセスストーリーを紡いで行く主役候補に躍り出たマレク・フルプ外野手。ボヘミア王国のプリンス役さえ務まりそうな洒脱な風貌とスター性と謎に満ちた風雲児の華麗なるサンライズに期待したい。

同時に、そんな謎めいたパイオニアの来季以降に、僕は『ドカベン』の葉っぱ・岩鬼のようなNPB離れした豪快な近未来を観てみたい、とも感じている。気持ちの浮き沈みが大きく、気分次第で葉っぱから花が咲いたり、枯れたりする可憐なキャラクターも重なる二人である。背番号から0が外れて37番を背負った暁には、目の玉から火の玉は出ない代わりに、バットから火を吹くような弾丸アーチを37発くらい描いてもらいたい。のみならず、三拍子揃ったチェコの岩鬼ならば、スワローズの”ヤーマダ〜!”のようなスマートな球界の顔にさえなれるかもしれない。先ずは讀賣『巨人の星』になって、チェコ野球界の未来図に、東洋球界への楔をガッツリ打ち込み、日台韓のプロ野球界でチェコ人プレーヤーどもが、わんさか割拠する近未来をもたらせ!で、大器晩成、その先に在るメジャーに渡れ!で、キャリアの最後にMLBの星の王子さまになれ、マルク!※
(※マレク《Marek》にチェコ語で呼び掛ける場合は”マルク《Marku》!”と語形が変化する🇨🇿)

你好❣️台湾のファンにも愛を振り撒くフルプ🇹🇼🇨🇿

末筆ながら、いつからかフォロー中のNoter藤家秋さんの、粋でディープで絵本のような短歌の世界感に、どっぷりハマっているので、拙者も”マレク・フルプ”をマルく詠んで、陰ながらエールを贈りたい♪

からまわり 打ちひしがれし 王子さま
稀く巨きな チェコのメルヘン⭐︎
らいとらいとる

巨人の星の王子様つーか侍⁈稀狗振夫氏の健闘を祈る🙏

いいなと思ったら応援しよう!