アンチスレでのYouTubeスクショは著作権侵害か?:発信者情報開示(認容)
ポイント
今回は、YouTuberである原告が、インターネット上の匿名掲示板のアンチスレに原告のYouTube動画のスクリーンショット画像等を投稿した第三者の発信者情報(本件発信者情報)について、アクセスプロバイダ3社に対して、著作権(複製権及び公衆送信権)を侵害するものであると主張し、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を求めた事案をご紹介します(東京地判令和4年11月10日令和4年(ワ)第11853号)。
東京地裁は、本件発信者情報の開示請求を認容しました。
本判決からの示唆は、以下の3点となります。
1. 事実関係
原告は、いわゆるYouTuberであり、自身のチャンネル(原告チャンネル)にテロップ付け等をして編集した動画を投稿していました。動画は、原告の子らの成長や教育の様子等の家族の日常を映したものであり、その中には、原告が怖い顔のお面を見て嫌がる子どもを揶揄するなどの言動がありました。そのため、原告チャンネルに対しては、次第に批判的な意見が増加し、原告は、原告チャンネルに対するコメント投稿を承認制としました。
その後、原告の子どもへの対応や教育に意見のある者らが、YouTubeとは異なる匿名掲示板サイトの「アンチスレ」(本件スレッド)内において、原告の投稿動画に対する投稿を行いました(本件投稿)。本件投稿の際、氏名不詳者は、原告のYouTube動画をスクリーンショットした画像(本件各画像)を添付しました。
これに対して、原告は、被告ら(アクセスプロバイダ複数社)を相手方として、原告の著作物に対する著作権(複製権及び公衆送信権)侵害があるとして、プロバイダ責任制限法4条1項に基づき、本件発信者情報の開示を裁判所に求めました。
(※発信者情報開示請求の要件等は、名誉毀損についての以下の記事参照)
なお、プロバイダ責任制限法(※令和6年(2024)改正法で情報流通プラットフォーム対処法[略称「情プラ法」]に名称変更)の令和3(2021)年改正前の事件であり、改正前の法令が適用されています。判決当時にすでに改正法は成立しており、施行を待つ状態でした。
2.本件投稿の内容(一部抜粋)
原告が、発信者情報開示を求めた投稿に付されたコメント(一部)は以下の通りです。本件投稿の際、以下のコメントと共にその場面が写っている本件各画像が添付されました。
3. 法的論点・判示
この事案では、著作権の「権利侵害の明白性」に関連して、主に以下の3点が争われました。
(1)日常の一部を撮影したにすぎない場合でも、「著作物」として保護されるか。
本判決は、原告の動画のいずれにも、著作物性が認められると判示しました。
そもそも、著作権法2条1項1号において、著作物とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」と定義付けられています。
本判決は、原告の動画について、撮影にあたり、子どもの成長の様子や子どもとのやり取りを通じた家族それぞれの表情等が伝わるように、撮影の場面や方法を工夫して制作されたものであることがうかがわれるとした上で、原告の動画には、撮影者の思想又は感情を創作的に表現したものとして、いずれにも著作物性が認められるとしました。
(2)アンチスレへの投稿は、複製権及び公衆送信権侵害となるか。
本判決は、本件投稿は複製権及び公衆送信権の侵害であると判示しました。
著作者である原告には、独占的に、著作物を複製できる権利(複製権:著作権法21条)やインターネットなどで送信できる権利(公衆送信権:著作権法23条1項) が認められます。
本判決は、本件投稿は、原告の動画の一部を利用許諾なく、有形的に再製するとともに、インターネットを通じて本件スレッド上の本件投稿にアクセスする不特定又は多数の者に対し、本件各画像を閲覧できる状態に置いたものであるとして、複製権及び公衆送信権を侵害する行為に該当するとしました。
(3)アンチスレへの投稿について、引用の抗弁(著作権法32条1項)は認められるか。
本判決は、本件投稿は、公正な慣行に合致し、引用の目的上正当な範囲内のものであるということはできないとし、引用の抗弁を認めませんでした。
本判決で考慮された要素の概要は以下の通りです。
なお、画像の添付は批評対象の明確化のため必要であるとの被告の主張は受け入れられませんでした。
以上に基づき、本判決では著作権侵害を理由とする発信者情報の開示が認められました。
4. さいごに
著作権侵害を理由とした発信者情報開示の可能性
近年、発信手段としてのSNSの影響力は年々増しており、企業のマーケティング活動において、SNSへの動画投稿は欠かせないものになってきています。企業の動画投稿へのユーザーのコメントや、ユーザーによる拡散行為は、自社の商材を宣伝することに繋がります。このような場合に、企業がSNSに投稿した動画が、ユーザーにスクリーンショットされている事例も多く存在します。
しかし、匿名性を利用して企業を攻撃するコメントや、拡散行為も存在し、企業価値や商品価値を著しく低下させる可能性があります。
このような悪質なコメントや拡散行為にスクリーンショット画像が添付されている場合には、本判決の事案のように、著作権侵害を理由に発信者情報開示が認められる可能性があります。
名誉毀損と著作権侵害のいずれの構成をとるべきか
一般には発信者情報開示請求は、名誉毀損に基づくものが大多数であると言われています(※1)。ただし、名誉毀損に基づく発信者情報開示請求は、社会的評価の低下という実質判断という難易度が高い判断や真実性の問題も検討が必要となります。これに対して、「著作物」の判断は緩やかであることも多く、手持ちの著作物との比較対照も容易です。事案によっては名誉毀損だけでなく、著作権侵害に基づく発信者情報開示請求という構成をとるということも訴訟戦略上考慮されるべきと思われます。
自社の企業価値等を守り、向上させるためには、コメント欄の運用方法の検討等、平時からSNSでの一般ユーザーとの戦略的な向き合い方を検討するとともに、有事に不適切な投稿へ適切に対応することが求められています。
当事務所のネットワークには、リスク管理のプロフェッショナルが揃っております。リスク管理に関するお悩み事項についても、遠慮なくお問い合わせください。