「二つの故郷の間で旅を続ける人たちの物語~『おじいさんの旅』~」【YA74】
『おじいさんの旅』アレン・セイ 文・絵 ほるぷ出版
2003.3読了
毎日暑苦しい日が続いていますが、みなさまいかがお過ごしでしょうか。
蒸し暑い日本は、毎年毎年体感でも気温が上がっているのがわかり、息苦しさを感じます。
どうにか頑張って、みんなで暑い夏を乗り切っていきましょう。
夏があまり得意ではない私は、本気で秋を待ち遠しく思っていますが、この数年は秋らしい日々はあっという間に過ぎていきます。
しかしこれでも立秋は8月8日だったので、すでに暦の上では秋です。
こんなに暑いのに秋だなんてありえない!と思いますが、そもそも二十四節気が昔中国から入ってきたものですから、今の日本とは気候が合わないのは仕方ないですね。
さて今回の“勝手に夏曲”は、すごく暑い中ではありますが、ご紹介する絵本に関係する国がアメリカということで、立秋の日本で少しばかり秋の風情さえ感じられる曲、クリストファー・クロスの『ニューヨークシティ・セレナーデ』をご紹介したいと思います。
原題は『Arthur's Theme』で、映画『ミスター・アーサー』の主題歌です。
美しい歌声は唯一無二ですね。心と記憶に残る曲です。
そして今回ご紹介するのは絵本です。
絵本と言っても、中には子どもだけでなく中高生などのYA世代や、大人が読んでもおもしろいもの、興味惹かれるもの、考えさせられるものがたくさんあります。
むしろ、あえて大人を対象とした内容の絵本さえありますが、絵本という形態だけに多くの人々に知られる機会が少ないことがやや残念ではあります。
かつて日本からも多くの人たちが移民として様々な国に新天地を目指し、苦難の中で開拓して定住していった人たちが多くいるのに対し、この絵本に出てくる人物の状況と心境は少しだけ違っていたようです。
戦前、日本から多くの人々が異国を目指して旅立っていきました。
この本の作者のおじいさんも若い頃、世界を見てみたくなってアメリカに渡られました。
そこでいろんな人と出会い、日本にはない街並や自然を見て回り旅を続けました。
その間幼馴染の日本人女性と結婚をし、娘も生まれましたが、そのうちカリフォルニアに腰を落ち着け生活を続けました。
娘が成長するのを見るにつけ、故郷の日本のことがよぎると頭から離れなくなり、今度は家族みんなで日本に戻りました。
田舎の故郷は懐かしかったのですが、娘の子どもで孫である作者にアメリカの話をしているうちにおじいさんはまた旅に出たくなります。
しかしそのうち戦争があったりして、おじいさんのカリフォルニアへ戻りたいという願いはとうとう成し遂げられることはありませんでした。
さて孫である作者が青年になった時、彼も同じようにアメリカへ渡るのです。
そしてカリフォルニアが大好きになり、それでも故郷の日本は忘れられず、日本へ戻ったりまたアメリカが恋しくなったり…。
作者はおじいさんと同じ道を歩み、同じ気持ちで二つの故郷をそれぞれに愛してやまないようです。
アメリカにはいろんな国からの移民が多く、このような本来の故郷に対する気持ちを抱く人たちであふれているようです。
体も心も二つの国を行ったり来たりするという、一か所に留まらない生き方はどこか落ち着かない印象を受けますが、当事者にしかわからない感情なのかもしれません。
祖国も移り住んだ国もその人にとってはどちらも“ふるさと”で、どちらの国民でもないという妙な違和感があるのでしょうね。
移民の国アメリカで、この絵本はその年出版された最も優秀な絵本に与えられるコルデコット賞を受賞しています。
この絵本に同じ気持ちをむけられる人たちがいかに多いか、ということなのでしょうね。
小さい子ども向けの絵本のようですが、作者やおじいさん、移民の人たちの気持ちを慮るのに、中学生以上の人たちがより読み取りやすいのかなと思い、ここではYA本としました。
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