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「ファンタジーながら様々な伏線と謎が楽しめる青春小説~『パドルの子』~」【YA64】

『パドルの子』 虻川 枕 著  (ポプラ社)
                          2017.10.21読了
 

本作は第6回ポプラ社小説新人賞の受賞作のファンタジーです。
途中、うん??と思わせる部分もありましたが、全体的にはなかなかに読み応えがありました。
 
 
“パドル”とは、主人公・水野の通う中学校の屋上にある不思議で巨大な水たまりの中で、世の中をかき混ぜて、自分の思うような世界に変えることを言うようです。
 
水野が今暮らしている世界には、ケータイは無く“伝話”という装置を使用します。
そして雨が降りません。
なんともおかしな世界ではありますが、その他はいたって普通で私たちの世界と同じ。
 
最初に水野が水たまりを見た時、そこで“パドル”していたのは、学校一美人と言われる水原という同学年の女子でした。
水野に見られてしまった水原は、彼にパドルのことを教えその後、
「次の日に何か違和感を感じることがあるかどうか気をつけていて」
と、ことづけて去っていくのでした。
 
 
水野には、とても仲が良かった三輪くんという親友がいたのですが、せっかく仲良かったのに、三輪くんは引っ越すことになりました。
そのとたん、別れが切なくて、なんて言って会話したら良いのかわからなくなったのです。
 
自分でも変だと思うのですがそれまでのように普通に会話することなく、ちゃんと別れの言葉も言えないままになっていたのが、気がかりで仕方がないと悩んでいました。
 
また、なぜだか自分にだけ冷たく当たる担任や、ゴシップネタを集めるのが大好きな隣の席の“奥”というクラスメートにも、その後自分が持つことになった秘密がいつバレるかとヒヤヒヤしている毎日です。
 
そんな中でも、水野は相変わらずパドルをして、“伝話”に100円入れておつりが返ってくるようにしましたし、一度は雨の降る世界にしたのです。(後で、また雨の降らない世界になぜか戻っていましたが…)
 
でも、やはり三輪くんとちゃんと話をしたいという気持ちと、水原のことも次第に好きになっていく自分と、悩みは少しずつ大きくなっていきます。
 
しかし三輪くんと水原は実は幼馴染で、彼らはどうやらある秘密を共有していたらしいのです。
様々な秘密と悩みを解決するべく、三輪くんの引越し先に向かった水野は、まさかの真実を知ることになるのですが…。
 



かなり複雑な青春ファンタジーではありますが、不思議な雰囲気を持つ文章と展開を、意外とスムーズに読むことが出来ました。
 
この物語を包む奇妙な世界に、登場人物がちゃんと関わっていて、丁寧に読まないと不思議なままで終わってしまいます。
きっと読み直しの二度目にはスムーズに話の内容が入ってくるのではないでしょうか。
 

読み進めるとどこか違和感が出てきます。
登場しては消えていく人物もいるのです。
 
読みながら、「あれ?え?そうだっけ??」
と、読者もちょっと騙されてしまうのです。しかし、それは後半ちゃんと説明され納得できます。

爽やかで気持ち良い終わり方だと思います。
(ま、あまり詳しく書けないのが申し訳ないのですけど…)
 
モヤモヤしたものが多少残るのですが、なかなか珍しい形のファンタジーとなっています。
ありがちな青春小説ではなく、ひとくせあるようなものがお好きな方は読んでみるのもいいのかなと思いますよ。

 


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