「自ら自立することを選んだ少年が作り上げた王国とは?~『海辺の王国』~」【YA㉝】
『海辺の王国』 ロバート・ウェストール 作 坂崎麻子 訳 (徳間書店)
2007.4.4読了
第二次大戦中のイギリス北部の町を襲った空襲で、12歳のハリーは一人生き残りました。
自分の家のすぐ近くに爆弾が落ちて、家のレンガが崩れガスが噴出し青い炎がチロチロ燃えているのを見て、家族がみんな死んでしまったことを確信し衝撃を受けたハリーは、自警団の救助の手から逃げるように走り去ったのです。
なぜなら、たった一人の身寄りのエルジーおばさんの所だけは死んでも行くのが嫌だったし、かなり頭が混乱していたから。
一人近くの海岸についたときに寄ってきた犬と仲良くなり、それから彼らは離れることができない友となったのでした。
ハリーは一人で生きていくことを決心しました。
そのうち街でうまく大人をやり過ごすことを学び、また海岸では浮浪者のジョゼフから生きていくための最低限のことを学びます。
それから、戦争で愛する家族をなくした人たちからは情けを受け、軍の砲台で勤務しているという兵士たちと会い、すごく親切な人がいるかと思えば、すごく危険な人物もいるということを知りました。
希望を見出すために向かった島では逆にひどい目にあわされることになります。
海であわや行きるか死ぬかの災難に会いますが、どうにか生き延びます。
そして最後に出会った、やはり息子を戦争でなくした風変わりな男性とやっと人間らしいほっとする暮らしを得たかに見えたハリーに待っていた結末は、なんとも皮肉なものでした…。
一人で生きていく決心をしたハリーは、どんな大人よりも成長していったのかもしれません。
力強く、そして人を思いやることができます。
海辺をさ迷い歩き生き延びた彼は、きっと後々自分が海辺で築いた王国に帰っていくのでしょう。
そして彼を待っているものも必ずいるのです。
それは家族でもない、生死のはざまをいっしょに生きた友と、血のつながらない、しかし心を通い合わせた人たちなのです。
以前も紹介したイギリスの作家ウェストールは、戦時中にある子どもたちの悲劇や成長や葛藤などを多く描いています。時にはファンタジーめいた話も盛り込みながら、読者をぐいぐいと物語の中に引き込んでいく力に長けています。
このお話は比較的リアルに近い形で、少年を独立させて、失敗しながらも多く学びながら大人になっていく過程を描いています。最後はまさかの現実が待っていますが、でも一人で行動していくうちに判断力や決断力を蓄えてさらに成長していきます。
読者は彼がいったいどうなるのだろう、どこを目指すのだろうとハラハラさせられますが、最後はそうか!と納得の結末に安堵さえ覚えるのです。