「私にもいつかは明るい未来が訪れるのだろうか?~『スマイル・ムーンの夜に』~」【YA㊼】
『スマイル・ムーンの夜に』 宮下 恵茉 著 (ポプラ社)
2018.7.23読了
中学3年生の麻帆・沙羅・翔太・のぞみが登場人物。
麻帆・沙羅・翔太の3人は、同じ小さなテニススクールに所属しています。
のぞみは、麻帆と沙羅が通う中学校で麻帆のクラスの委員長です。
麻帆は教室に自分の居場所を見つけられずに、休み時間になるとトイレにこもってスマホゲームをして時間を潰しています。
そして、スクールカーストでトップに君臨する女子グループから馬鹿にされているのです。
そんな麻帆とは違うクラスですが親友でもないけれど、テニスでダブルスを組んでいるというだけという間柄の沙羅。
見た目はモデル並みの美人なのですが、自由奔放で派手な格好をして学校自体に馴染めず、不登校気味になっています。気分が乗ったときしか、とりあえずの居場所になっている特別クラスにも出てきません。
翔太は別の中学校ですが、その学校というのは頑張ればスポーツ強化選手にもなれる環境というのにもかかわらず本人は目もくれずに、何に対しても真剣に取り組めないでいます。
テニススクールでもそこそこの成績が出せるのに、練習をちゃんとしないので、周囲の反感を買っています。
のぞみは、ある家庭環境の理由から優等生を演じ、平和主義で学校の諍いを最小限度に止めようと奔走するタイプの女の子です。
そんなのぞみを麻帆は尊敬しています。
この4人は、どこにも自分の本当の居場所を見つけられずにいるのです。
しかし周囲の環境の流動的な変化は、彼らには止められません。
いつまでも子供のままではいられないのです。
それでも親しい人にも話せない、話さない自分の裏側、秘めたる思いはずっとそのままなのです。
でもそんな彼らにも時間は同じように流れていき、いずれくる未来が次第に見えてきます。
そこに自分の問題を解決できる何かは、存在するのでしょうか?
一年を通して描かれる4人の中学生活。
一人ひとりの視点でそれぞれの思いが描かれています。
現代における思春期の子どもたちの等身大の姿が瑞々しく、どこか自分に当てはめてみることができる登場人物がきっといるに違いありません。
ちょっとしたこと、些細なことが大きな問題に思えて、悩み苦しむそんな姿がきっと誰にもあったはず。
その苦しい時期は、当時はとてつもなく長くゴールが見えないように思えます。
でも少しずつ時間は流れているのです。
本人が気づかないうちに現状は変化していき、いつのまにか解決に向かっていることもあります。
一年前とはちょっぴり大人に近づいた彼らには、また別の新たな未来が見えたのかもしれません。
多くの青少年が大小問わずなにかしらの悩みを抱えています。
大人は自分もそのような時期を過ごしてきた経験があるのにも関わらず、のど元過ぎれば子どもたちの悩みをまるで他人事のように扱いがちです。
自分事として考えるのならば、ご紹介しているようなYA(ヤングアダルト)本を読んでみると、その内面を知ったり具体策などが見つかるかもしれませんよ。
大人こそYA本を読んで欲しいと思います。