「普通の人々が戦争中どう生き延びたかを知って後世に伝える~『ガラスの梨 ちいやんの戦争』~」【YA㉖】
『ガラスの梨 ちいやんの戦争』 越水 利江子 著 牧野 千穂 画 (ポプラ社)
2018.11.13読了
これまでにもいくつか先の戦争を扱った児童書やYAを読んでいるが、ここまでリアルな描写のものはありませんでした。
映画にもなった小説「火垂るの墓」(野坂昭如 著)は残念ながら未読ですが、映画は観ているので、あの米軍による空襲のすさまじさはわかったつもりでいました。
しかし今回の内容は想像を絶するもので、それでもこれが実際に起こり、当時被災した人々は目の当たりにし体験したのだと思うと、知らなかったのが申し訳ないとまで感じてしまいます。
いよいよ戦況が悪化しつつある大阪の町が舞台です。
笑生子(ちいやんというのは愛称)は国民学校の三年生で、一年生の弟と父母と優しい十九歳の成年兄やんと拾い犬のキラとともに、和やかな日々を送っていました。
しかしついに太平洋戦争に突入すると、どんどん窮屈な生活になっていきます。
食料は配給制へ、金属の物品や犬たちは軍に供出、動物園の猛獣たちも殺処分されていくのです。
とうとう成年兄やんに召集令状が届いてしまいます。
しかし召集されて間もなく、戦死の知らせが届くのでした。
そして空襲警報の発令が次第に多くなっていき、逃げまどうちいやんたちを、容赦なく焼夷弾が雨のように降って襲ってきます。
その時の描写は、激しさと恐怖とで読むものを引きつけます。
きっと事実だったのだと。
このようなむごい光景を、当時の人々は見て、そして逃げて、自分たちの命を守るべく必死に生き抜いたのだと。
それは子供でも同じことでした。
まわりのあまりに残酷な事実に、平和な中に生きている私たちだったら、きっとどうにかなってしまったに違いないと思います。
それでも生きるために、がむしゃらに逃げたのです。
逃げて、生き延びて、どうにか食いつないで、雨露しのいで、新しい生活を始めなければいけなかったのです。
やっと家族が食べられる分しか確保できないような時代でした。
疎開してきた身内に対してさえも、やさしくしたくても次第に生きづらい毎日にいて、親戚とはいえ鬼にもなるのでしょう。
(こういうシーンも、映画『火垂るの墓』でも観て、もどかしく思ったものです。)
やはり戦争はどう転んでも地獄に違いないのです。
それでもたくましくなんとか生き抜いて、あかるい未来を取り戻そうとするちいやんたちです。
これまでTV番組などで取り上げられた兵士たちの惨憺たる戦いの話も、その兵士を見送る残された悲劇的な家族の話も、もちろん幾分かの戦争の抑止力になります。
それに加えて子どもたちが、弱者が、市井の人たちが、事実としてどんな戦時下を送ったかを知らないと、自分のこととして考えられないでしょう。
そして何があっても戦争だけは始めてはならないと心に誓うのです。
ぜひとも、多くの人に読んでほしいと願います。