文学フリマを終えて │A Summer Place.
Aug.2024
あわただしく過ごしていたら、いつのまにか8月も終わりに近づいていた。あいかわらずの暑さだけれど、風に秋の気配も感じていて。
ようやく落ち着いて、文章を書けることに安堵する。
去年の夏のことは、正直あまり思い出せないけれど
今年の夏を忘れることはないだろう。
7月28日、高松シンボルタワーにて『文学フリマ香川』が開催された。東京をはじめとする大都市ではもう何度も開催されている文学イベントだけれど、四国においては初開催、その第一回として「香川」が選ばれた。
自分の本を作り、みずからの手で販売するイベント。
本を作ったこともなく、右も左もわからないところからはじめたけれど、友人からの助けもあり、無事に一冊の本を作り終えることができた。
彼女は文学フリマに何度も出ていたが、今回は手製本のために時間がかかり、なんとかその場にいた人間総出で作業を間に合わせた。開催前夜のことである。
そうしてお互いの作品を1つずつ、ふたりで作った本を1つ、合計3つの本をスーツケースいっぱいに詰め込んで、直島からフェリーに乗り込んだ。
「 どうしよう、普通に帰りたい。緊張してきた 」
「 わかる。今日のために作ってきたのにね 」
フェリーを降りると、高松シンボルタワーはもう目の前である。なにやら感じたことのない緊張と不安にさいなまれ、足取りが遅くなっていく。
香川は文学フリマ初開催のため、来場者数の予測がつかない。なによりここは四国で、本州から見れば辺境の地(そんな香川を愛しています)。おまけにこちらはサークルとしても初参加で、知名度も何もない。
冷静に考えて、「本を手にとってもらえるのだろうか」という、そもそもの疑問に立ち返ることになってしまった。にも関わらず、紙の発注ミスをしてしまったために予定の倍の部数を刷ってしまっている。スーツケースが心の底から重い。
「大丈夫。うちらのサークルは初参加なんだから、売れなくても全然あたりまえだよ。隣接はベテランサークルさんだから人がたくさん来ると思うけど、折れずにいこう!」
「そうだよね、とりあえずマスターと、愛媛からも会いに来てくれる人がいるから、二人は確実に見てもらえるよ…!」
二人で謎の励まし合いをしながら、出店者として、会場に足を踏み入れた。
そのアナウンスに、会場がどよめいた。
出店サークル数は 142 。それに対する数としては予想外のことである。「 香川やで? 100人も来んやろ 」とマスターが冗談半分で言っていたが、すでに開場前からその人数が達成されていた。
開場11時と同時に、一斉に人が流れ込んでくる。
彼らには目的のサークルがあるのか、一目散に通りすぎていった。「しばらくは人が来ないだろう」という友人の言葉に一息つくと、2分とたたないうちに、ひとりの女性がやってきた。
中身を見ずに、自身の本を迷いなく指差されて驚く。
思わず「試し読みをしなくてよろしいのですか?」と尋ねると、「 Twitterでみて、買うと決めていました!」との答えにさらに驚いた。
Twitter。本を作るにあたって少し前からはじめていたのだけれど、まさかそれを見て来てくれる人がいるとは思わなかった。少しの呟きと写真しか載せていないにも関わらず、それに惹かれたと言ってくれた方もいた。
そしてその後も「中身を見ずに買う」お客さんが何人も現れることに、ただ驚くばかりだった。
会場には多くの人が行き交い、その熱気に圧倒される。そんななか、出店者の側の方々が何人も買いに来てくれることにも驚いた。ご自身の持ち場を離れてまで、はじめて参加している人間の本を買いにきてくれるということ。とても光栄で、有り難い。
なかには「 今回の文学フリマに落選してしまった 」という男性も、本を買いに来てくれた。想像よりも出店者が殺到していたようで、これだけ熱意のある作り手がたくさんいるのだということに、なんだか胸が熱くなる。
ひっきりなしに人がやって来てくれて、めまぐるしい状況に追いつくのがやっとだった。接客で手一杯になっていたわたしに代わって、友人が手際よく会計を分業してくれた。
彼女の本を買う人は、わたしとはまるで違った層の方々だった。黒地に黒の文字で印刷しているためほとんど読めない、にも関わらず文章量がえげつないという尖った本なのだけれど、ちゃんと買っていく人がいるのだ。
コンセプチュアルアートとも呼べるアートブックに仕上がっていて、買う人のほとんどが男性だった。さらに「今度のアートイベントに持っていくから、3冊ちょうだい」という本屋さんまでいた(すごい)。
『 直島 』という同じテーマで作品をつくっているのに、こんなに個性の違う友人といっしょに肩をならべて出店しているのが、なんだか本当に面白かった。
実際の生活はおろか、本の名前ともちがう自分の名前を呼びかけられて驚いた。note でしか使ってこなかった名前を、目の前の女性が知っている。しかも、わたしだとわかって来てくれている。
文学フリマ香川への出店が決まったとき、たしかにそのことを note に書いたのだけれど、そのときはサークル名も、自分の名前さえも決めていなかった。どうして分かったんだろうという疑問よりも先に、嬉しくてそんなことはどうでも良くなってしまった。
東京の方、神戸の方、そして香川に住んでいる方々。note を書いているときには知りようのなかった沢山の方の顔をみて、お話ができること。こんなに嬉しいことがあるなんて、想像もしていなかった。
直島や小豆島からは、たくさんの友人が来てくれた。本に共感してもらえることや、あたらしい発見をしてくれること。それは「島」という場所で、生活をしてきた者同士だからこそかもしれない。
" 嬉しかったことも、苦しかったこともすべて書こう。"
そんな思いをもって作った直島の本を、同じ場所や島々で暮らしてきた人たちに手に取ってもらえることも、とても有り難いことだった。
あっという間に時間が過ぎていき、あと30分で終了するという段になっても、人が途切れることはなかった。来ていただいた出店者の方々のブースをまわり、10分ほどの時間で急いで本を買いにいく。不馴れのために、見落としてしまったブースもあった。
撤収をはじめる人もいるなかで、ラスト10分に差し掛かったとき、一人の女性が飛び込んできた。
息を切らすように来てくれたその人は、直島を観光した帰りだったようだ。偶然このイベントを見つけて、入口に置いていたわたしの本を見て、会場まで来てくれたのだという。
この本を作ったとき、直島のことを知らない方はもちろん、" 直島に行った方に、思い出として持ち帰ってもらえるような本にしたい " という思いがあった。それをうけとってくれる方が最後にあわられたことが、心から嬉しかった。
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note に 素敵な感想を書いてくださいました。
本当にありがとうございます。
◇ あいうえ おかき🍘さん
◇ のりやまさん
当日は出店者としても参加されていました。
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こうして『 文学フリマ香川 1 』は無事に終了し、
怒涛のような5時間の幕が閉じた。
そして司会の方から、来場者数が 1200人を超えていたこと、さらに次回、第二回である『文学フリマ香川 2』が、来年 8月3日に開催されることが決定したというアナウンスが、感極まったような声でなされた。
四国初開催、都市部とは異なる小さなキャパシティのなか、ここまで大きなトラブルなく運営していただいたことに、感謝の言葉しかない。
わたしたちのサークルは 80冊の本を手にとって頂いていたことが、帰りのフェリーの中でわかった。
見慣れた高松フェリーポートのシンボル。いつも見上げていたそのオブジェを、会場に入るとき、はじめて上から眺めた。同じ風景のはずなのに、すこし見る場所を変えただけで「こんなに違って見えるのか」と思ったことを、いまでも鮮明に覚えている。
本を作ること、それを販売すること、そして手にとっていただいた方の顔をみて、お話ができること… それはきっと『文学フリマ』というイベントだからこそ、味わえたものだった。
お越しいただいた方々、運営していただいたスタッフの皆さま、そして何よりも「一緒に本を作ろう」と誘ってくれた友人に、感謝の言葉を伝えたい。
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2025年 2月9日、『文学フリマ広島7』に
友人とともに参加することが決定しました。
サークル名『海と石』
瀬戸内海のむこう側で、またお会いできる日を
楽しみにしています。
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◇ 海と石 online shop