読後感想5 学生を戦地へ送るには―田辺元「悪魔の京大講義」を読む(佐藤優)
タイトルだけでもかなり強烈な本である事が分かると思います。この本の元は社会人向けに著者の佐藤優さんが講義した内容を編集しまとめた物になります。その講義の内容は戦前エリートの学生に大きな影響を与えた田邊元の「歴史的現実」を読みながら著者独自の解釈を加えながら解説していくというものです。
著者曰くこの講義の目的は意地の悪い天才に騙されないようにする為らしいです。何故こういうことを書いているかというと田邊元は日本を代表する哲学者西田幾太郎率いる京都学派の一員であり自身も当時を代表する哲学者であったからです。しかも田邊の本に感化された京大生達は「歴史的現実」をポケットに入れ最後の特攻に向かって行った程の影響力を及ぼしました。
この本は「歴史的現実」の内容に沿って話が展開されていきます。まず一章では歴史というものは自分の立場によって制限されているものだと田邊は言います。例えば一つの戦争をテーマにしても攻められる側と攻め入る側、勝った側と負けた側ではその戦いに対する考えは事実は一つでも変わってくるはずです。更には時代的制約もあります。足利尊氏という室町幕府の将軍がいましたが、戦前は天皇を一度裏切った武将として酷評されていましたが戦後になって評価が改められ有能な武将であるという認識になっていきました。この様に時代の流れによって歴史的な認識も変化していく事が分かります。ここで明らかになるのは「歴史的現実」という本は決して最初から「国家の為に戦って散れ!」というような当時の本にありがちな事は書いていません。そこがある意味恐ろしい所で95%は論理的に通る事を書いていて、残りの5%で思い切り飛躍します。
この過程を紹介すると長くなるし、ネタバレになるのでやめておきます。田邊の話が終わって、最後の辺りは柄谷行人の本や当時の国策映画についての話もあったりします。