うわさのエブエブを見に行った 20世紀少年の感慨
うわさの「エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス」を見た。
前から気にはなっていたのだが、映画館の情報を見たら、何と1日1回の上映! アカデミー賞作品なのに、全然人気がない。そこで天邪鬼の私は俄然興味が湧いてきた。「こんなに人気がないということは、きっとおもしろい映画に違いない!」と思った。ということで、最近知り合いになった聡明なお姉さんに電話をかけて、強引に見に行くことに決めた。
一応、ざっくりとどんな映画なのか、情報は得ていた。そこには「徹底的なドタバタ映画」と書いてあった。ん? 単なるドタバタ映画がアカデミー賞を受賞しないだろ? たぶん違うんじゃないか? と思っていた。
それで、見たのだが、確かにわけのわからない展開である。しかし、初めのうちから「これって、ひょっとしてキューブリックっぽいんじゃないの?」と思っていた。そう思いながら見てたら、何とお猿さんが出て来るシーンが登場。「2001年宇宙の旅」のパロディだ! やっぱりねぇ、と思って、そこから安心して見ることができた。
ざっくりいうと、これは完全にスタンリー・キューブリックへのオマージュ作品である。ベースは「時計じかけのオレンジ」で、それにあちこち「2001年」がまぶしてある、という感じ? 私は映画マニアではないので、それくらいしかわからなかったが、おそらくあちこちにいろんな映画のオマージュやパロディがあるのだろう。気づいた人は教えていただきたい。これを「ドタバタ映画」と評した人はどんな人なのだろう? 映画とか見たことがないんじゃないの?
構成としては、コラージュというかパッチワークというか。あり得べき人生や、過去と現在、来世か前世か、あるいは多元宇宙(マルチバース)なんかにも主人公が自由自在、変幻自在に「ジャンプ」しまくる。
ちょっと深読みをしてみると、「2001年」から既に20年余りが経過した。我々はキューブリックが描いた(そして、大多数の20世紀少年が思い描いていた)「未来」である21世紀に生きているわけだが、その不思議な感じというか、居心地の悪さというか、違和感というか、裏切られた感じというか、そんな「感じ」を描いていると言えなくもないと思う。
そして、その未来たる21世紀には、キューブリックの描いた「コンピュータHAL-9000の反乱」を予感させる事象がないわけではないが、それ以上に、「家族の崩壊」という、優れてアナログな、それ故に人間臭い問題が立ちはだかっていたりする。
その意味で、この作品は、「2001年宇宙の旅」の後日談、いや、アンサー.シネマというべきか?
「キューブリックさん、あんたの未来予想は、残念ながらちょっと外れてたよ」って映画なのかな?
そうそう、書くのを忘れていたが、1日1回上映にも驚いたが、館内に入ると、ガラガラ。私たちを含め5人ぐらいしかいないのにはびっくりした。
まあ、内容から考えて一般受けは絶対しないだろうが、あのプラグマチックなハリウッドで、よくもこんな観客動員を拒否するようなアート系の映画企画が通ったものだ。アカデミー賞を受賞しても、絶対大赤字間違いなしだよ。
【追記】
ググってわかったけど、「時計じかけのオレンジ」は大ヒットしたそうだ。
あんなワケワカメの映画が‥‥。あの頃は尖った知的ファッションが流行っていたいたんだなあ。今の「わかりやすさ」の時代とは真逆で、「わかりにくさ」が正義だったんだ。
まあ、キューブリックが人気監督だったこと自体が異常と言えば異常だ。
そう言えば、日本でも、寺山修司の映画とか芝居とか、夢の遊眠社が人気があったりしたもんな。
すごい時代だったんだねぇ。