マージナルマン・ブルーズ #1
島の男たちは怠け者だった。
いろんなことにかこつけては昼日中から酒を呑み、歌を歌い、権力や出世に興味を持たず、一応働き、よそ者によくだまされ、だまされたと気づくこともほとんどなかった。
島の女たちは働き者だった。
甘えた理屈をこねたりせず、手を抜かず、よく気がつき、都合のいいときだけオンナを持ち出したりせず、働いていることに特別な意地も我も張らず、当たり前に働いていた。
夜、怠け者の男たちがいつもの浜辺に集まり、火を囲み、三線にあわせて歌を歌い出すと、必ず働き者の女たちがやって来て、カチャーシーを踊り出すのだった。三線のレラ抜きの琉球音階に指笛が鳴り響き、怠け者の男たちも、働き者の女たちも、愉快そうに、美しい姿で踊っていた。
島の人たちは総じて貧しかったが、「てーげー」な毎日の中で「ゆんたく」しながら、怠け者の男たちも、働き者の女たちも、仲良く、倖せそうだった。彼らは「いいさー、いいさー」と言いながら、無い物ねだりをせず、思い上がらず、いまそこに在るものを受け入れて生活していた。
虚栄心に魂を売り、他人から借りたり盗んだりしたもので身を固め、口ばかりで頭も中味もない薄っぺらな生きざましかできていない退屈な都会の男たちや、無神経で、権利の化物となり、他者依存している自分に気づかず、開き直りとわがままを通すための理屈ばかりが達者な都会の女たちにはない、生活者としての賢さを持っていた。
しかし同時に、仕事に人生とか生きざまとか発展途上時代の価値観を引きずらず、家族や個人の時間や趣味を大切にし、毎日の生活をマネジメントできている都会の一流の男たちや、自立し自律していることに肩肘張らずにお洒落や教養を楽しみながら毎日の生活を楽しんでいる都会のしなやかな女たちが必ず持っている、品格や誇りを全く持ち合わせていなかった。
だから、およそ地場産業は発展することなく、本土資本と中央行政のいいなりになり、働き者の女たちやまだ幼いその娘たちがあめりかーの兵隊に乱暴されても、やはりあめりかーのベースで働かざるを得ない状況を強いられていた。
島が抱えた矛盾を、あめりかーのせいだと言う人もいた。
政府のせいだと言う人もいた。
いや戦争のせいだと言う人もいた。
いやいや我々自身のせいだと言う人もいた。
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