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ヘドロの創作

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フィクションの創作です。
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2025年2月の記事一覧

ヘドロの創作 2025/2/23

ヘドロの創作 2025/2/23

 【猫の喫茶店】

 喫茶「灰猫」のマスターは鼻風邪を引いた。しじゅうグスグス鼻を鳴らし、しょっちゅうくしゃみをし、目やにが出て、「ああこれはまずいな」と自分でも思った。
 猫世界の猫の医者よりなら、人間世界の獣医のほうがよっぽど腕が立つのだが、猫としては人間世界の獣医というのは基本的に行きたくないところである。猫は獣医が嫌いだ。無遠慮に触るし注射するし、薬を飲ませてくる。
 しかしこの鼻のグスグ

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ヘドロの創作 2025/2/16

ヘドロの創作 2025/2/16

 【猫の喫茶店】

 ここで、この物語の大事な、しかしいままでずっと黙ってきた事実を語ろうと思う。
 この「猫の喫茶店」こと喫茶「灰猫」のマスターは、人間世界において飼い猫である。子猫のころ人間の家にやってきて、去勢され、首輪をつけられ、猫可愛がりされている猫である。
 子猫のころのマスターは、こまっしゃくれた顔をした子猫で、グレーの毛はぱやぱやとしており、人間がくれたボールを楽しくドツキ回す子猫

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ヘドロの創作 2025/2/9

ヘドロの創作 2025/2/9

 【猫の喫茶店】

 エノコロ小路にある名画座に、インド映画がかかるよ、と名画座のもぎりのお姉さんがコーヒーを飲みつつ、マスターに教えてくれた。
 インド映画、と簡単にいうが、インドの映画産業というのはスケールが大きく、制作された地方によって、ハートウォーミングな現代ものだったり、神話に基づいた激しいアクションものだったり、作風がぜんぜん違うらしい。
 今回名画座にかかるのは、過去何度も世界的大ヒ

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ヘドロの創作 2025/2/2

ヘドロの創作 2025/2/2

 【猫の喫茶店】

 マタタビ市も節分である。エノコロ小路商店街では豆まきが行われていた。
 毎年恒例のこの豆まきは猫世界の伝統に則って行われ、福は猫本人たちが招くので「鬼は外」しか言わないことが知られている。
 豆まきに使うのは大豆で、猫世界のスーパーに節分の時期にいくと10粒程度を一つのパックに入れたものをいくつか包装したタイプの、片付けが簡単な豆が売られている。
 マスターたちは近くに住んで

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