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【感想・あらすじ】おそろし 宮部みゆき

時は江戸時代。

おちかはとある事件をきっかけに、実家を出て親戚の袋問屋へ奉公に出ていた。

地元での事件で心に深い闇を抱えたおちか。

お嬢さんとしてではなく、奉公人として働くことを選んだ。

必死に働くことで過去を遠ざけようとしていた。

しかし、おちかはある接待をきっかけに、怪異にまつわる物語を聞く役目を任じられる。

不思議で恐ろしい話を聞くうちに、一筋の光を見出してゆく。


恐ろしくも悲しい事件を耳にする中、おちか自身が成長し過去を受け入れていく物語。




悲しくも優しい怪談話

おちかの身に起きた事件を始め、怪異にまつわる話にはどれも悲しい事実が隠されている。

しかし、悲しさだけでは終わらず、人の優しさがありほっと心が温まる。

悲しい現実に涙するのではなく、優しい結果に心が救われる。

難しい問題もあるけれど、すべてが悪意だけで起きたわけではない、という登場人物への救いもある。

展開が気になり、ページをめくる手が止まらなかった。


時代風景の描写が素敵

江戸時代が舞台。

この時代が舞台となった小説はたくさん読んできた。

なんといっても、町の賑やかさや人と人のつながりがたくさん描かれているのが特徴。

本作を始め、どの小説でも人が互いを気遣い、思いやる様子が描かれている。

今も昔も、いろんな人がいるのは共通なのだけど、

なんだか、今以上に人の温かみを感じる。

隣近所は助け合って生きていく、

親戚通し商売を支えあっていく、

遭難者が出たらみんなで助けに行く。

今となっては職業の違いもあり、そうはいかないことも多い。

でも、やっぱり人としての温度が温かくて心に残った。


主人公:おちかの成長

おちかはとある事件のために心を閉ざしがちなんだけど、

人とのふれあいや会話でジワジワ心を開いていく。

きっかけとなった事件はとてもショッキングなもので

「そりゃ、ふさぎ込むよ…」

と心配になるほどのものだった。

それでも、ゆっくりと過去に向き合っていこうとする。

おちかの心に変化が起きたきっかけは、怪異物語を拝聴するお役目。

「どうしてそうなった」

とつっこみをいれたくなるような叔父の提案だったけど、

おちかには向いていたよう。

怪異や経験者の心に触れるうちに、おちか自身の心にも変化が起きた。

お客人を支えるおちか、おちかを支えるお客人

やっぱり、人の温かさって偉大だな、と感じた。

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