マガジンのカバー画像

短編小説

64
運営しているクリエイター

2025年2月の記事一覧

【短編小説】繊細な職場の後輩

【短編小説】繊細な職場の後輩

「…回覧している資料を渡すときって、その席の方が着席していた場合、手渡しがいいですか。机に置くのがいいですか」

火曜日、午前9時35分。連休明けでただでさえ体が起きていない時だったので、思わずんお、と呟いてしまった。質問してきた後輩は、聞こえなかったらしく下を向いたままだった。

何やら悩んでるようだったので、小休憩がてら事務室から抜け、自販機に誘い込んでみたらこれだ。なりたくもないのになってし

もっとみる
【短編小説】はしる

【短編小説】はしる

走るのが苦手だと言う人は多いが、私は大好きだ。小学生の頃、ヒエラルキーの上の方には足の速いやつがいた。つまり私だ。それが中学校高校と上がるごとに、どんどんとそのランクは下がっていき、頭の良いやつ、顔の良い人が、結局最終的には山頂に立っていた。旗を持っていたはずの右手は、いつのまにか空を握っていた。
私は見上げるしかない人生に落ち着いた。

足が速い事は良いことではある。別に普通に褒められるし、うら

もっとみる
【短編小説】やん

【短編小説】やん

今日何度目か分からない落胆がテーブルの上に落ちる。
やってきていたハンバーグ定食に手を付けようと、箸を持ったところだった。
粘膜で動きを封じられたみたいに私の動きが鈍くなる。
 
「そういえばこの間『やん』とね…」
向かい合った先で、彩音が机上を眺めながら口をまた開いた。「ここ来たんだー。窓際の席だったかな。ドリンクバーだけでめちゃくちゃ居座っちゃったの」
ドリンクバーだけ。注文は席に置いてある液

もっとみる