2024年4月の記事一覧
【短編小説】翼をくれよ
ピアノの旋律が美しくはじまりを奏でる。
興味がなくて半開きのままの目をなんとか閉じないように気をつけながら、口を開く。
「今私の願い事が叶うならば、翼が欲しい…」
歌に乗せると無くなる違和感は、文字で考えると、やけにわがままに、俺には映る。
この歌がどんな風に作られたのかなんて知らない。だからこんな風に残酷に思えるのかもしれないけど、だからって誰かに責められたとしてもそこには何の責任も伴わ
【短編小説】「無理しないでね」という言葉の難しさ
「まあ、無理せず」
課長からそう肩を叩かれた。窓の外は真っ暗になってもうしばらく経つ。
とりあえず、ありがとうございます、と返事をしたけど、無理ってなんだよと口内で悪態をついた。
パワハラなんてされたことも無く、評判も良い課長なので、別に心から嫌がっているわけじゃない。課長自身もこの部署に赴任してきたばかりで、たまに自分の方が『先輩』とからかわれるくらいだった。そんなこと知らねえよ、という先
【短編小説】桜の降る昼は
先週まであんなに満開だった桜は、もうかなり葉桜に変わってしまった。桜並木だった公園の一角は、夏に向かって準備しているように、太陽をさんさんと浴びていた。天気も良くて、正直暑い。桜の花びらの絨毯がそこかしこにあるけど、体が春と夏の間で困惑している。
声が聞こえたので目を向けると、花見をしそびれてしまった人たちが写真撮影をしている。かくいう自分も、そこに混ざりたいくらいだった。仕事が忙しくて、この公
【短編小説】ポニーテールを眺めるだけの夜があったっていいのに
頭のてっぺんに近いあたりで髪を結んでいる、華奢な体が目に入った。ポッキーみたいな足がショートパンツから生えている。
体の線とは裏腹に快活そうに、少女は親らしき男性と喋りながらアイスを選んでいた。羨ましいとまでは思わなかったけど、選べば誰かが買ってくれるのってすごいことだよな、と改めて感じる。
少女はこっちの視線にも気が付かず、一瞥もされなかった。父親(多分)との距離が近く、仲の良さそうな雰囲気