『穢れた聖地巡礼について』ガチ考察|「あなたの番」の正体は?
「げんきなあなたがうまれます」
——背筋さんの新作『穢れた聖地巡礼について』。
本作を考察していきたい。
本書の帯に書かれたあらすじを引用する。
見るからに面白そうだ・・・!
背筋さんは前作『近畿地方のある場所について』で一躍有名に。
『近畿地方の・・・』は、近頃流行り?の「モキュメンタリー」(ドキュメンタリー形式のフィクション作品)で、それこそ「背筋」を凍らせる作品だった。(かなり怖い)
で、本作『穢れた聖地巡礼について』だが、、、
本記事では、おそらく本書を読んだ方が皆抱くであろう、ある一つの問いに答えるべく、考察を進めていく。
その問いは、これだ。
小林と宝条の力を借りて、なんとか怪異を逃れたように思えたチャンイケ。
これにて一件落着!と思いきや。
物語の最後には、ゾッとする展開が待っていた。
この「あなたの番」のいたずら電話。
いったい、誰がかけたのだろう?
考察は後段に譲るとして、ここで先に私の推測をお伝えしたい。
——おそらく、同じ推測をした人もいるだろう。
(実際、ネット上の本書の感想やブログで、上記の推測をしている人がいる)
その上で、この記事では、なぜ上記が言えそうなのか、その根拠を深掘り・考察していこうと思う。
キーワードは3つある。
このキーワードに沿って、考察を進めたい。
なお、本記事の最後で、上記の考察(電話の正体=鈴木優子説)への反論、いわば「考察の穴」があること、それによって別の考察の可能性があることも指摘したい。
今時点で「鈴木優子じゃないのでは?」と、疑問を持っているあなたも、この「考察の穴」までお付き合いいただければと思う。
それでは、さっそく行ってみよう!!
◆キーワード(1):「六部殺し」
①「六部殺し」と作中の「怖い話」のつながり
いきなりのネタバレと行こう。
・「変態小屋」
・「天国病院」
・「輪廻ラブホ」
これら3つの物語は、実は共通のストーリーになっている。
で、そのストーリーは、ある民話をもとにしたものだった。
その民話は、「六部殺し」である。
まず、「六部殺し」とは何ぞや?を確認しよう。
有名な(?)民話らしく、本書ではこんな物語として紹介されている。
これをざっくり整理すると、こんなストーリーだ。
では、作中に出てきた「怖い話」は、どんなストーリーだっだだろうか?
「変態小屋」と「天国病院」に出てきた「怖い話」は、こんな感じだ。
(「輪廻ラブホ」の話を取り上げないのには理由がある。後述。)
この3つの物語、一般化するとこんな感じだ。
上記の整理は私の憶測ではなく、作中で小林が語っている内容だ。
その箇所を引用する。
小林の発言と、「六部殺し」のストーリーを参考に、
先ほどの一般化を書き換えてみよう。
「六部殺し」とのつながりを考えるにあたり、もう一つ重要なキーワードがある。
「異人」だ。
これを考えることで、上記の「A(奪う人)」と「B(奪われる人)」に意味がつけ加えられるのだ。
②「異人」と輪廻転生
ここで、「六部殺し」の小さいが無視できない要素をに触れたい。
六部は旅人=村人から見ると、「外部の人」「よそもの」だと言う点だ。
「異人」との言葉で表現するらしい。
作中で、小林が宝条に対してこんなことを言っている。
異人は、村人に、「自分が持ちえないもの」と子種をもたらす。
ここで言いたいのは、異人(殺された人)が生まれ変わる(輪廻転生する)ということだ。
◆キーワード(2):「生まれ変わり」と「乗り移り」
①「六部殺し」との共通点と相違点
それを踏まえて、改めて「変態小屋」「天国病院」に登場した怖い話を整理してみよう。
下表の一番上の段が「六部殺し、以下の段が「変態小屋」「天国病院」に登場した怖い話である。
ここで、またしても小さいが無視できないポイントに言及したい。
作中で、「異人(殺された人)」は、「転生(生まれ変わり)」だけでなく「転移(乗り移り)」もしているのだ。
「変態小屋」も「天国病院」も、大筋は「六部殺し」と同じ形式だ。
しかし、一点大きな違いがある。
それは、
「六部殺し」は「生まれ変わり」なのに対し、
「天国病院」のナースの話は「乗り移り」である。
——という点だ。
詳しく説明しよう。
・「変態小屋」の話
・「天国病院」のナースの話
・「天国病院」のおばあちゃんの話
上表の3つの怪談は、同じようで2つのグループに分けられるのだ。
「生まれ変わり」の方は、「異人」と「取り憑かれた人」は、同時には生きていない。
異人が死ぬ→その後生まれてくる→そして取り憑かれる、の順番なのだ。
「六部殺し」もこのパターンで、
六部が死ぬ→その後子どもが生まれてくる→子どもが六部に取り憑かれる、という構成になっている。
しかし、「乗り移り」のほうは、
「異人」と「取り憑かれた人」が、同時に生きている。
ここが「六部殺し」とはズレるポイントだ。
先ほどの表に、グループ分けを付け加えよう。
これが意味するところは・・・?
なぜ、著者の背筋さんは、あえて「ナースの話」だけ「乗り移り」のストーリーで描いたんだろう?
考察は後段に譲り、3つ目のキーワードの紹介に移ろう。
◆キーワード(3):2人の「鈴木優子」
チャンイケには、大学生の頃に好きな人がいた。
鈴木優子。チャンイケと同じ大学の学生だ。
学科が違う2人だが、一般教養の授業がきっかけで、つながりが生まれる。
ある日チャンイケは彼女に告白するが、意味深なことを言われて振られてしまう。
その後、チャンイケは「カナエさん」——「こっくりさん」のようなおまじない——で、彼女のことを呪う。
しばらくして、彼女は大学に来なくなった。
そして、「鈴木優子」がひき逃げで亡くなった、とのニュースが。
自分が「カナエさん」で呪いをかけたせいで、彼女は死んでしまった——?
そんな「事実」を否定したい一心で、幽霊の存在を否定したい一心で、彼は心霊スポット突撃Youtuber「チャンイケ」となったのだった。
・・・
しかし、物語の最後で、鈴木優子が実は生きていたと明かされる。
あの時のニュースで報道されていたのは、同姓同名の、別の「鈴木優子さん」だったのだ。
そしてこの後——本記事で考察する場面だ——、チャンイケにかかってきた、いたずら電話の話題になる。
「あんなやつ、死ねばいいのに」
一瞬「なにか」に取り憑かれたかのようなチャンイケの言動に、ゾッとした。
・・・
と、長々とあらすじを追ってきたが、
ここで話しておきたかったのは、
と言うことだ。
さて、キーワードの紹介が終わったところで、
ここまでのまとめをしておこう。
本題の考察に入るにあたって、以下を覚えておいていただきたい。
さあ、いよいよ考察に入ろう。
◆考察|「あなたの番」の正体は?
冒頭でも話した通り、私の推測の結論は以下である。
では、こう考える根拠はなんだろうか?
詳細な説明の前に、その概要を列挙しよう。
※ここで、「鈴木優子」の名前の女性が2人出てきてややこしいので、こう呼び分ける。
まず、結論が成り立つためには、
下記の仮説が正しい、と言える必要がある。
——つまり、こういう関係性になっている、と考えるのだ。
いちおう、この仮説はただの「当てずっぽう」というわけではない。
上記を裏付ける描写が、作中にあるのだ。(該当箇所は後段で引用。)
では、該当箇所を見てみよう。
仮説の裏付け
①敬一の元カノが輪廻転生すると思しきシーン
——ここ、本書の中でも超!超!超!重要な箇所だと思っている。
キーワードが続々と登場するからだ。
この敬一の元カノ、名前が描かれていない。
ただ、トラックに轢かれて死んだことから、「同姓同名の鈴木優子」では?——との推測が立てられる。
では、この女性が「優子」に乗り移った、と推測できるのはなぜだろう?
根拠となる箇所を見てみよう。
仮説の裏付け
②敬一の元カノと「優子」の共通点
もう一度、敬一の元カノがトラックに轢かれたシーンを見てみよう。
ここでなぜか泥団子が描かれる。
思い出してほしい。「優子」は美大の中でも彫刻科に所属している。
チャンイケの「からっぽ」事件(!?)のキッカケとなったシーンを引用する。
泥団子と粘土、「こねて造る」、「人間の中身を表現したい」——
偶然の一致かもしれないが、敬一の元カノと「優子」は、「泥団子(粘土)」の共通項があるのだ。
さらに。
敬一の元カノがトラックに轢かれたシーンで、重要なことを言っている。
——繋がっただろうか?
そう。物語の最後のシーンだ。
「あなたの番」「死ねばいいのに」の2つのワード。
これらが、敬一の元カノとチャンイケ、そして「いたずら電話の正体」を結びつけるのだ。
このことから、敬一の元カノ(=同姓同名の鈴木優子)が、「優子」に乗り移ったのでは?と推測できるわけだ。
——以上で、仮説の裏付けを終わりとする。
以上を踏まえて、私は以下の「仮説」が正しいのでは?と考える。
で、この仮説が正しいならば、冒頭に示した結論も正しいと言えそうだ
——というわけだ。
以上で、「『あなたの番』のいたずら電話の正体は?」の考察を終わりとする。
ここからは、上記の考察をより補強する材料として、敬一とその元カノ(=同姓同名の鈴木優子)、そして「優子」の関係が、「六部殺し」のストーリーに沿っているのかを確認したい。
◆考察の補強|「六部殺し」とのつながり——敬一とその元カノ、そして「優子」
まず、私は上記の考察が絶対正しい!なんて思っていない。
きっと様々な反論があるだろう。
その中でも、予想される反論を挙げてみる。
——確かに。
私が上記であげた根拠は、あくまで「状況証拠」に過ぎないのだ。
おさらいを兼ねて再掲する。
・敬一の元カノと「同姓同名の鈴木優子」は、「車に轢かれた」が共通している
・敬一の元カノと「優子」は、「泥団子(粘土)」が共通している
のように、あくまで「共通点」があるに過ぎない。
ズバリ「この人とこの人が同一人物ですよ〜」のように、本書に記述があるわけではない以上、推測の域を出ない。
しかし、その「推測」を可能な限り補強しようと試みたいのだ。
その一助となるのが、「六部殺し」だ。
考察の前に、こんな表で「六部殺し」と「変態小屋」「天国病院」の怪談を整理した。
この表に、上記の考察を付け加えるのだ。
つまり、敬一とその元カノ、「優子」のエピソードを付け加えてみると、こんな感じになる。
——どうだろうか?
「輪廻ラブホ」で、敬一が誰かの生まれ変わりであるような描写がある。
(誰の、かは不明。表内でも「?」と記載している)
敬一が「あのとき言ったこと」を、敬一自身は覚えていない。
それは「誰か」に乗り移られて、「こんな晩に・・・」と口にする、「六部殺し」のストーリーと一致している。
そして、その敬一自身は、「親の愛情」という「自分が持ちえないもの」を手に入れたくて、執拗に元カノに執着する。
そして、「自分が持ちえないもの」を奪うために、敬一は彼女を呪ってしまう。
見事に?呪われた彼女は、トラックに轢かれて死んでしまう。
そして、「私は生まれ変わることにした(p226)」と決意するのだ。
——これは、「六部殺し」のストーリーと一致している。
さらにいうと、チャンイケと「優子」の関係もまた、「六部殺し」と一致するのだ。
「自分が持ちえない」もの——才能——を手に入れたくて、チャンイケは「優子」を呪ってしまう。
結果的に「優子」は死ななかったものの、
「優子」に別の人間——敬一の元カノ=同姓同名の鈴木優子——が乗り移ってしまうのだ。
このように、
敬一、敬一と元カノ、「優子」は、みな「六部殺し」と同じエピソードとして描かれている。
この事実が、「状況証拠」に加えて、「優子に敬一の元カノが乗り移った説」を補強している、と私は思うのである。
——以上で、私の考察を終わりにする。
最後に、上記の私の考察の「穴」を最後に示そうと思う。
その「穴」を除くことで、他の考察の余地がないかを考えてみたい。
◆考察の穴|「泥団子」の共通点
以下の「結論」を示すべく、私は「仮説を裏付ける描写」を紹介した。
この「泥団子」の件だが、
実は——自分で主張しておいてなんだけど——論理が破綻している。
というのも、時系列がおかしいのだ。
本当に、敬一の元カノが「優子」に乗り移っていた、と仮定しよう。
そうすると、「優子」に「敬一の元カノ」の要素が現れる(乗り移られる)のは、「敬一の元カノ」が死んでから、じゃないとおかしい。
しかし、私の考察だと、
どうやっても、敬一の元カノが乗り移る「前」から、優子が「泥団子(粘土)」の要素を持っている、ことになってしまうのだ。
——これが私の考察の「穴」である。
導きたい結論を変えずに、この「穴」を矛盾なく説明するために・・・
次の2つの可能性を考えてみたい。
詳細は後述するが、作中の描写から考えると、②はあり得ないのだ。
その理由も併せて、①と②をそれぞれ見てみよう。
①優子が「泥団子」の要素を持っているのは「偶然」で、敬一の元カノの乗り移りとは全く関係がない。
これはあり得ると思う。
言い換えると、こう言える。
優子は「たまたま」塑造をやっていただけだ、と考えれば、辻褄は合う。
②敬一の元カノと「同姓同名の鈴木優子」は、同一人物ではなく別人で、敬一の元カノは優子が生まれる前に、とっくに死んでいた
こちらは少しややこしい。
元々の考察では、優子、同姓同名の鈴木優子、敬一の元カノを、次のように整理していた。
が、ここで言おうとしているのは、別の可能性だ。
これも、あり得ない話ではない。
・敬一の元カノは、優子(や、同姓同名の鈴木優子)が生まれる前に、すでに死んでいた
と考えれば、辻褄が合うのだ。
時系列で表現すると、こんな関係になる。
実は、敬一の元カノのエピソードは、いつの時代の話か書かれていない。
ので、チャンイケや優子が生きている「今」の話ではなく、もっと昔の話なのだ!と解釈することができる。
では、敬一の元カノが生きていた時代は、いつなのだろう?
作中の描写から、以下のことがわかる。
該当の描写を引用しよう。
では、チャンイケは今何歳くらいなんだろう?
それが分かれば、彼と同級生だった、優子、同姓同名の鈴木優子の年齢もわかる。
チャンイケの経歴を作中の描写からまとめると、こんな感じになる。
※なお、浪人とか留年とか、作中で描かれていない年齢のズレは、推測できないため考慮しない。
・美大で2年生の時、優子に出会う(20歳)
・3年生のとき、優子を「カナエさん」で呪う。(21歳)
・美大を卒業後、一般企業に入社(23歳)
・数年後、会社を辞めて、Youtuberに転身(2X歳?)
・作中の「今」に至る(2X歳?)
以上から、敬一の元カノとチャンイケ(と、チャンイケと同い年の優子)の生きていた時代を整理してみよう。
結論、
・チャンイケと優子は、「敬一の元カノが死ぬより前に、既に生まれている」
・だから、「優子=敬一の元カノの生まれ変わり説」はあり得ない
・つまり、「優子=敬一の元カノの乗り移り説」が濃厚になる
ことがわかるのだ。
図で表すとこんな感じ。
では、詳細を順を追って説明しよう。
——以上より、「②敬一の元カノと「同姓同名の鈴木優子」は、同一人物ではなく別人で、敬一の元カノは優子が生まれる前に、とっくに死んでいた」の説はあり得ないことがわかった。
つまり、優子の「泥団子」の要素を矛盾なく説明するには、
「優子が「泥団子」の要素を持っているのは「偶然」で、敬一の元カノの乗り移りとは全く関係がない。」
と考えるのが妥当だ、ということだ。
◆余談|「天国病院」に、なぜ「乗り移り」の話を入れたのか?
本筋には関係しないかもしれないが、余談をば。
上述したが、「天国病院」のナースの話は、「生まれ変わり」ではなく、「乗り移り」のパターンだった。
これは、本書の怪談のモデルとなっている「六部殺し」のテンプレと異なる。
「六部殺し」は「生まれ変わり」のパターンなのだから。
ここでこんな疑問が湧いてくる。
なぜ、あえて「乗り移り」の話を入れたのだろうか?
メタ的な話を挟むと、
別に、「ナースの話」だって、「生まれ変わり」の話として、描くことだってできたはずだ。
それなのに、なぜ著者は、「六部殺し」とは異なる「乗り移り」の要素を入れたのだろうか?
ここからは私の推測だが、
ココ、本作の結末に大きく関わっているのでは?と思うのだ。
もし、上記の怪談が、全て「生まれ変わり」のストーリーだったら、どうだろう?
敬一の元カノ→優子への乗り移りは、どう映るだろうか?
読者が小林みたいな(!?)人だったら、それこそ「いや、それは怪談じゃなくて・・」と、もっともらしい「理屈」を考えてしまいそうだ。
「XXXって説明がつく。故に幽霊なんていない!」と。
それを防ぐために、——つまり、「マジの乗り移りだぜ」と強調したいがために——、天国病院で「乗り移り」の話を入れたんじゃないだろうか?
まとめるとこんな感じ。
——メタ的な話なので、本筋には関係ないが、ありそうな話ではなかろうか。
◆残された問い
最後に。
余力が生まれた時に考えたい、「残された問い」を記しておく。
・「カナエさん」の意味
→ただの挿話?それとも何か伏線がある?
・敬一は、誰の生まれ変わりor乗り移りなのか?
→「誰」が生まれ変わってor乗り移って「あのとき言ったこと」(p191)を言ったのか?(敬一は輪廻転生のスタートではない?あくまで途中?)
・「聖地」とはどこか?
・「穢れた聖地巡礼」をしたのは誰か?
あと、
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