期待値がプラスの宝くじ?!注目のビジネスモデル「ハイパーカジュアルゲーム」と1億の赤字がでた話。
「ハイパーカジュアルゲーム」をご存じでしょうか。
日本ではまだあまり浸透していないビジネスモデルなので、初めて聞いた人も多いと思います。
実は世界的にみると、30億ドル(3000億円)の市場規模があり、2018年から2019年の成長率が30%以上の、ゲーム事業の中でも屈指の成長率を誇る新しいビジネスモデルなんです。
「ゲーム」なのにビジネスモデル…?
「ハイパーカジュアルゲーム」はゲームジャンルの名称として使われるより、ビジネスモデルの名称として使われているケースが多いです。
そのため、ユーザーが自身の遊んでいるゲームを「ハイパーカジュアルゲーム」と認識していることはあまりないかと思います。
ユーザーが認識していないので、「ハイパーカジュアルゲーム」という名称はあまり広まっていないのです。
本記事では大きく4つのパートにわけて、ハイパーカジュアルゲームについて、できるだけわかりやすく解説していきます。
1.この記事の目的やどんなひとに読んでほしいか
この記事の目的
この記事はハイパーカジュアルゲームのビジネスモデルについて、だれが読んでもわかりやすいように紹介する目的で書いています。
筆者自身も実際にハイパーカジュアルゲームに携わりましたが、理論的な考え方に基づいた超合理主義的なビジネスモデルはとても勉強になりました。
ハイパーカジュアルゲームはゲームビジネスに分類されると思いますが、モノを売ることに携わるすべての人にとって、なにかしらのヒントになりうる内容だと思います。
少しでも興味がある方は読んでみてもよいかもしれません。
注意事項
・あくまでビジネスモデルを詳らかにするのが目的です。実務的な内容にはあまり触れておりません。
・美しい成功談やかっこいい人生逆転劇は一切でてきませんので、物語的な面白さは一切ないです。
・絶対成功できる秘訣やなにか特別なメソッドみたいなものも一切でてきません。
上記のような内容が知りたい方は「ハイパーカジュアルゲーム 成功」とググるとたくさんでてきますので、そちらの記事を読むと良いと思います。
この記事はこんな人にオススメ
・ハイパーカジュアルゲームというビジネスモデルに興味がある人
・儲かるビジネスと聞いたけど全然儲からないんだけど?と思っている人
・理論に基づいた合理的なビジネスモデルに興味がある人
この記事はこんな人にはオススメできない
・ハイパーカジュアルゲーム事業で成功したいと思っている人
・成功談や人生逆転談を読みたい人
・精神論が好きな人
2.ハイパーカジュアルゲームについて
ハイパーカジュアルゲームとは
この章ではハイパーカジュアルゲームとは、どんなものかについて紹介します。すでに知っている方は時間の無駄になりますので、「3.ビジネスモデルとその偏移について」からお読みください。
ハイパーカジュアルゲームはRPGやSTG等のゲームジャンルの名称ではなく、特定の集客モデル、収益モデルをとるゲームやそのビジネスモデルのことを言います。
ちょっとわかりづらいので、「タピオカブーム」で例えてみます。
A「このタピオカおいしいよね!」といった場合
「このタピオカミルクティーはとてもおいしいです」という意味なので、ここでの「タピオカ」はそのドリンク自体のことを指しています。
B「そういや、タピオカって儲かるの?」といった場合
→「タピオカミルクティーを売る商売って儲かりますか?」という意味なので、ここでの「タピオカ」は商売やビジネスモデルのことを指しています。
「ハイパーカジュアルゲーム」はユーザーに浸透していないので、上記の例でいうと、Bの意味で広く使われています。
前述のとおり特定のゲームジャンル指すものではないため、ハイパーカジュアルゲームにはアクションもあればパズルもあれば、リズムゲームだってあります。
どんなゲームでも、その「集客モデル、収益モデル」をとれば、それはハイパーカジュアルゲームと呼べるのです。
ハイパーカジュアルゲームと似ているものに、カジュアルゲームがありますが、集客モデル、収益モデルによって区別できます。カジュアルゲームにハイパーカジュアルゲームの集客、収益モデルを適用すれば、そのゲームはカジュアルゲームであり、ハイパーカジュアルゲームとも言えます。
例えは古いですが、有名なカジュアルゲームの『チャリ走』にハイパーカジュアルゲームの集客、収益モデルを適用すればハイパーカジュアルゲームとも言えるようになるのです。
「集客モデル、収益モデル」は具体的にどんなの
日本のハイパーカジュアルゲームディベロッパー(開発会社)兼パブリッシャー(出版会社)さんの芸者東京さんはインタビュー記事でこのように答えています。
ーーまず、そもそも「ハイパーカジュアルゲーム」とはなんですか?
集客およびマネタイズの両方で、アドネットワークをプラットフォームとして利用するカジュアルゲーム、と僕たちは定義しています。
『【一問一答】「 ハイパーカジュアルゲーム 」とは? : 芸者東京・田中泰生氏に訊く、成功の条件 』| DIGIDAY[日本版(https://digiday.jp/?p=228878)から引用
私は、このインタビューのように難しいカタカナ語が多いと途端に文章の意味を理解できなくなってしまいます。同じような人のためにも、この記事ではなるべく日本語に置き換えたり、説明を加えます。
「集客およびマネタイズの両方で、アドネットワークをプラットフォームとして利用するカジュアルゲーム」をわかりやすく言い換えると「集客も収益も広告に依存しているカジュアルゲーム」となります。
※アドネットワークは正確には広告のまとめサイトみたいな感じのものですが、ビジネスモデルを理解する分には広告と思って差し支えないとおもいます。ちなみに、広告とアドネットワークは旅行代理店とトリバゴみたいな関係です。
どんなゲームがあるの?
定義はなんとなくわかったんだけど、具体的にはどういうゲームのことだよ!と気になってきた方は以下の4つを見てみてください。
Stack Colors! (Voodoo) アクション?
Blendy! - Juicy Simulation (LionStudio) パズル?シミュレーション?
Park Master (KAYAC) パズル?
Ball Action (PONOS) アクション?
4つのうち、上の二つは海外パブリッシャーさんが出しているゲームで、下の二つは日本のディベロッパー兼パブリッシャーさんが出しているゲームです。
見てもらうとわかりますが、ゲームのジャンルはバラバラです。
ちなみにPONOSさんはあの『にゃんこ大戦争』の会社です。PONOSさんを知らなくても『にゃんこ大戦争』は知っているという方が多いのではないでしょうか。
日本企業なのになんだよParkMasterとかBallActionって、かぶれてんじゃねぇと思った方もいるかと思いますが、私が勝手に弁明します。
ハイパーカジュアルゲームで収益を上げるには、多くの国に配信する必要があり、特にアメリカ市場が一番重要な位置づけになっているので、ゲームのタイトルは英語であることが多いんです。ゲーム内で使われている言語もほとんど英語です。別にかぶれてるわけではないんです。
3.ビジネスモデル
基本的なビジネスモデル
ハイパーカジュアルゲームがなんとなくわかったところで、じゃぁこれでどうやって収益を上げるのかを解説します。
CPI < LTV
これはハイパーカジュアルゲームではE = mc2より重要な公式です。
ハイパーカジュアルゲームは広告に依存しているビジネスモデルなので、広告用語もたくさんでてきます。CPIもLTVも主に広告業界で使われる用語です。ハイパーカジュアルゲームについて調べると、とにかくこんな単語が山ほど出てきます。CPI、LTV、eCPM、CTR、RR、ROAS……etc.
そんなのわかんねーよって方でも読めるようにこの記事では説明をつけながら解説していきますので、ご安心ください。
それでは、「CPI < LTV」について説明します。
CPIはCost per Instalの略です。ここでいうCostは広告出稿にかかった金額のことです。perはたぶんパーセントのperです。Installはゲームをインストールするのインストールです。CPIはユーザーを1人獲得するのにいくらかかったか、という意味です。
CPI1$は1ユーザーを獲得するのに1ドルかかったよってことになります。逆に100人を100$で獲得できた場合もCPI1$ということになります。
LTVはLife Time Valueの略です。一人のお客さんが死ぬまでにいくら使ってくれたかという意味です。わかりやすく例えると、あなたがパズドラを始めて1,000円課金して、すぐに引退したらあなたのLTVは1,000円ということになります。「CPI < LTV」の公式では獲得ユーザーの平均LTVという意味で使われています。
例を挙げると、LTV500円のユーザーが50人、1000円のユーザーが50人いたとしたらLTVは750円ということになります。
ここまで読めば 「CPI < LTV」 の意味はわかりましたよね。
ユーザー一人あたりが広告を見ることで生む金額(LTV)が、獲得金額(CPI)より大きかったら、利益がでるよねという意味の公式になります。
集客も収益も広告に依存しているので 「CPI < LTV」 はハイパーカジュアルゲームで収益をあげるには死守しないといけない唯一かつ絶対の条件なのです。
じゃぁ実際 CPIとLTVはどんなもんになるかというと、
CPIが0.15~0.6$ でLTVは0.3~0.8$程度です。ゲームのジャンルによって多少前後しますが、収益化に成功しているハイパーカジュアルゲームは9割くらいはこの範囲に収まっていると思ってよいでしょう。
$だとよくわからないので、CPI0.6$ と LTV0.8$を適当に円換算してみます……。CPIが60円でLTVが80円で差額が20円。やったね20円儲けた!!って感じです。
……。
はい、20円です。 くそじゃん。って思った人、いませんか?
でも考えてみてください。翌日絶対購入額の20円増しで売れる株があったら無限に買いたくないですか?
そんなん買うに決まってんじゃん!!といってそれに何億円もつぎ込むのがハイパーカジュアルゲームなんです。
実際、一日数万~数十万インストールされるように広告展開をするので1か月かそこらで1000万以上はインストールされます。
単純計算で1000万*(80円-60円)=2億円!!! やった~~!!という小学生でもわかるような超単純な稼ぎ方なんです。
(この例だと コスト6億 売上8億 利益2億)
先ほど例に挙げたStackColors!なんて正直誰でも作れそうじゃないですか?それでもiOS,Android(GooglePlay)で累計3000万インストール以上されています。ざっと6億以上儲けてますね……わお!!
ここまでが基本的なビジネスモデルの解説でした。
「おいおい、こんなぼろ儲けじゃん。うらやまし~~」と思った方もいるのではないでしょうか。
でも、安心してください。世の中そんな甘くはないんです。
ハイパーカジュアルゲームのヒット作をみてみると、確かに簡単に作れそうなものばかりです。なので多くの企業やチーム、個人が同じようにゲームを作っては広告出稿をしたんです。
が、、、それはそれは…うまくいきませんでした。ほんの一握りのゲームしか CPI > LTV にならないことがわかったんです。
加えてどういうゲームが「CPI > LTV」になるか、誰も全く予想がつかなかったんです。(わかったら、億万長者になれるんですが・・・だれか教えて~!)
ここまででわかったハイパーカジュアルゲームの特徴をまとめます。
ハイパーカジュアルゲームの特徴
・作るのは比較的簡単なものが多い
・一握りのゲームしか「CPI > LTV」にならない
・なにが当たるかわからない
・当たったら数億円儲けられる
このような特徴から、ハイパーカジュアルゲームは宝くじに例えられることが多いです。
宝くじなら儲かっても儲からなくっても運だよね……。FXとか株とかならまだ勝算はあるけど、こんなんまるでギャンブルじゃないか!怖や……怖や……。と引いてしまうのが我々一般人で、いっちょ稼いだろか~と思えるのが有能な資本家です。
資本家の方々は、まずこの宝くじの期待値はどれくらいかと考え、
もしも期待値がプラスであるなら、絶対に儲かるビジネスになるんじゃないか?と考えたのです。
期待値がプラスってどういうこと?
まず、期待値とは掛け金に対して戻る見込み金額のことです。
期待値がプラスというのは、掛け金に対してそれより多い金額が返ってくる見込みがあるということです。
例えば15%で1000円当たる宝くじが1枚100円売られていたとしたら、くじ一枚あたり150円返ってくる見込みができますから、期待値はプラス50円となります。そんな宝くじが売っていたら山ほど買うんですけど、一般的に宝くじは販売者のミスがない限りは、期待値がマイナスになるようになっています。
ビジネスモデル応用編
ここからは応用編です。さきほどの基本編では、なんだか儲かりそうだけどハズレも多いからリスキーという印象でしたが、この応用モデルを適用すれば、ほぼ確実に儲かるビジネスモデルに大変身します。
現在ハイパーカジュアルゲームでビジネスをしている人は、この応用編のビジネスモデルが使われてます。どんな風に応用されたかというと、基本編の公式 CPI > LTVを守りつつ、さらに二つのやり方を加えました。
1つは「共同購入」そしてもう1つが「アタリくじかどうかを事前調べる」という手法です。
まず共同購入から説明します。
共同購入
宝くじやギャンブル、不動産投資等としたことがある方は一度は聞いたことがあるのではないでしょうか?
今回も宝くじを例に説明します。宝くじにおける共同購入とは、お金を持ち寄って、持ち寄った金額分の宝くじを買うことです。購入した宝くじがあたっていれば、当たった金額の合計を持ち寄った金額の比率に応じて分け合います。
例えば、1万円が当たる1枚100円の宝くじをAさん、Bさん、Cさんで共同購入するとしましょう。
Aさんが1000円 Bさんが500円 Cさんが500円だして2000円分(20枚)買って1枚1万円が当たった場合、出資金額の割合2:1:1になるように当選金額を分けるので、Aさん5000円 Bさん、Cさん2500円になります。こういう買い方を共同購入といいます。
この共同購入の方法がハイパーカジュアルゲームにも応用されました。
なぜ応用されたかというと、期待値がいくら高くても、たくさん買わないと損する可能性が高いので、できるだけ多くのくじを買いたかったのです。
期待値が高くても損をする……って言葉でいわれてもちょっと、わかりづらいですね。
例を挙げて考えてみましょう。
1%の確率で100,000円当たる宝くじが1枚100円で売られていたとします(※この宝くじは無限個数買えることとします)。1枚あたりの期待値は1,000円になるので、期待値はプラス900円です。
しかし、1枚だけ買うと損する確率が結構あります。当たらない確率が99%ありますから、99%の確率で100円損します。
では50枚買う場合はどうでしょうか?45,000円得しそうです。
しかし、1%の宝くじを50枚買ったときに全部外れる確率は60%程度ありますので、50枚買っただけでは、期待値はプラスなのに、5,000円損する確率のほうが高いのです。
では100枚買う場合はどうでしょうか。ここまでくれば、少し損をする確率は低くなりますが、それでも37%くらいの確率で損します。
しかし、それを1,000枚・・・10,000枚・・・と増やしていくと、どんどん損をしない確率、得した際の金額が上がっていきのです。
確率は試行回数を増やすことでブレが少なくなるものなので、期待値がプラスのギャンブルは試行回数を増やすことが儲けるコツなのです。
ハイパーカジュアルゲームで共同購入をはじめた人は、期待値がプラス(もしくはプラスにできる)と読んだのですね。
ハイパーカジュアルゲームでどのように試行回数を増やしたかというと、でっかい資本をもっているパブリッシャーがディベロッパーをかき集めました。「お得な宝くじをかいませんかー、購入金額は出すから、買いにいく労力はそっちがだしてねー」って感じです。
俺が金を出すからお前は力を貸せ!ってことですね。宝くじのようにお金があればくじが買えるわけではないですから、ゲームを無限に作りだすための開発力(数)が必要だったんです。
共同購入のやりかたはパブリッシャーによって多少変わりますが、多くは
広告周りは全部やるからお前(ら)はゲームを作ってくれ、利益がでたら半分くらいやるよ。
というような条件になっています。
さきほど「誰でも作れそう」と言いましたが、経験がすくないディベロッパーや個人でも作れる程度のゲームで十分だったので、それはそれはたくさん集まりました。利益の半分といっても億単位のお金を稼げますから「簡単なゲームを作るだけで億稼げるんならやるわ~」といってわらわら人が集まってきたんです。
パブリッシャーはめんどくさい広告配信やデータ収集等の作業を行ってくれて、広告出稿費も全部だしてくれるケースが多いです。ディベロッパーは文字通り開発だけを行います。こうしてディベロッパーはめんどくさいことがなくなってうれしいし、パブリッシャーはたくさん宝くじを買えるのでお互いハッピー!の共同購入体制が築かれました。
閑話休題
この協力体制はパブリッシャー側メリットのほうが大きいように思います。
宝くじで例えると、
パブリッシャーのメリットは宝くじを大量に購入できることです。
一つのパブリッシャーが大量のディベロッパーと「当たったら半分ずっこね」と約束をしているので、どのディベロッパーが宝くじをあてても、パブリッシャーは当たった金額の半分を手に入れます。宝くじの例でいうと、1,000枚、10,000枚購入できている状況です。
ディベロッパーのメリットは広告関係の作業を一切やらなくてもいいことです。しかし、パブリッシャーのようにくじを大量購入ができるわけではないのです。宝くじの例でいうと、1枚、2枚しか引けないような状況です。いくら期待値がプラスであっても、損する確率は高いのです。
アタリくじかどうかを事前に調べる
次はアタリくじかどうかを事前に調べるということについて解説します。
ちょっとわかりづらいので、クイズ形式にしてみました。
問1
1%の確率で1等5,000円が当たる1枚100円の宝くじがあります。
宝くじを購入する前に、購入しようとしている宝くじがアタリかどうかを70円で占えるお店Aがあった場合、普通に買うのとお店Aを利用するのはどっちが得でしょうか?(100%正確に分かります)
※占い済み宝くじは処分することが可能です。
※占い後、差額の30円を支払うことで占ったくじを購入できます。
簡単ですね。正解はお店Aを利用したほうが得です。70円でくじを占ってもらい、アタリと言われたくじを購入すれば、99%の確率で30円お得に宝くじを購入できます。
問2
問1と同じ1%の確率で1等5,000円が当たる1枚100円の宝くじがあります。
30円払えば、宝くじを購入する前に、99%の確率でハズレかどうかを占えるお店Bがあった場合、普通に買うのとお店Bで買うのではどちらが得でしょうか。
なんとなく普通のお店で買うよりお店Bで買った方がお得であることはわかるかと思いますが、実はあなたが直感で思ったほど、簡単なことではないです。
「100%わかること」と「99%わかること」には天と地ほどの差があります。
ここでは細かいことは気にせず普通に買うよりお店Bを使った方がとかできるよね、と感覚的にわかってもらえれば問題ないかと思います。興味のある方は下のコラム「99%の罠」を読んでみてください。読み飛ばしていただいても問題ないと思います。
99%の罠
99%の確率でハズレがわかるなら残り1%はアタリじゃん!と思った人は要注意です。実は感覚と実際の確率は、ずれている可能性があります。
実際に10,000枚を占ってみましょう。
ハズレとアタリを別々に考えると理解しやすいので、10,000枚のくじをハズレ9,900枚、アタリ100枚別々に考えてみましょう。
まずハズレ9,900枚を占ってみます。
占い結果は(真)ハズレ9,801枚 と (偽)アタリ99枚となります。「(真)ハズレ」というのは本当にハズレでハズレと判定を受けたくじのことで、「(偽)アタリ」は本当はハズレなのにアタリ判定を受けたくじです。
次にアタリ100枚を占ってみます。
1%は間違えてしまいますから、結果は(偽)ハズレ1枚 と (真)アタリ99枚となります。
10,000枚を99%ハズレがわかる占い師に占ってもらうと以下のような結果になります。
ハズレ9,802枚(内訳 ハズレ9,801 アタリ1枚)
アタリ198枚(内訳 ハズレ99枚 アタリ99枚)
問3
一枚のくじをお店Aとお店B両方から占ってもらえる場合、どのような買い方が一番得でしょうか?
少し混乱してくる方がいると思いますが、答えはお店Bを利用してからお店Aを利用するのが一番得です。
ハイパーカジュアルゲームでもこのお店Aとお店Bを通す手法が確立しました。
それが「ビデオテスト」と「CPIテスト」です。
先ほどのお店Aとお店Bのように宝くじを完全に購入するまえに、そのくじがアタリかどうかを見極めるのです。
そうすることで、低コストかつ短時間でアタリのくじを探し当てることができるようになるのです。
ではビデオテストとCPIテストというものが実際どのようなものかを解説していきます。
ビデオテストとCPIテスト
さきほど例であげたStack Colors! ですが、比較的簡単に作れそうです。
それでもやっぱりぼちぼちコストがかかっていると思います。超ざっくり見積もると10人日~20人日でしょうか。
Stack Colors! のように当たったらいいのですが、完成品まで作って、それが外れだったら最低でも10人日分がまるっと無駄になります。加えてハズレとわかるまでの広告費もかかりますから、そこそこの損失が発生してしまいます。
そこでビデオテストとCPIテストというテストを通して、開発しようとしているゲームがアタリかどうか、見極めるのです。
ビデオテスト
ビデオテストは主にFacebookにビデオ広告を出稿する手法がとられます。
パブリッシャーによって回数が異なりますが、30秒の動画を無作為のユーザーに1万回くらい流がして、結果を確認します。
合格基準はパブリッシャーによって多少ことなりますが、
・3秒以上視聴率20%以上
・クリック率0.4%以上
・3秒以上視聴率、クリック率両方で判断
の3通りの基準が一般的に用いられています。
この基準を満たすものがアタリである確率がそこそこあることがわかっています。
ちなみにビデオテストは動画だけで行えるので、ゲームを作る必要もなければ、AppleStoreにアプリをあげなくても問題ないです。
ハイパーカジュアルゲームを完成させる場合の工数が100だとすると、このビデオを作るのは5~10くらいで作れます。1枚100円の宝くじを例にすると5~10円で当たる確率が高いかどうかがわかります。
ちなみにこのビデオテストの合格基準を満たしたもののうち10%-20%がアタリくじになるようです。
案外低いと感じるかもしれませんが、そもそもの確率が低い場合、10%-20%に絞れるだけでも相当効果があります。
※合格基準を満たしていないものの中にもアタリくじがあるかもしれませんが、どれくらいの確率なのか調べようがないので現状は不明です。
CPIテスト
ビデオテストがおわると残ったものたちでCPIテストを行います。
CPIテストは実際にアプリをインストールできる広告を出稿してみて、いくらでユーザーを獲得できるかを確かめてみましょうというものです。(パブリッシャーによってはここでリテンションと呼ばれるゲームの継続率を同時に測る場合もあります。)
CPIテストで必要になるものは・出稿用の広告動画、・AppleStoreでリリース済のゲーム、・データ収集のための設定です。
「・AppleStoreでリリース済のゲーム」といっても、AppleStoreの審査が通れば、正直なんでも良いです。(なんなら、データさえとれればテストと関係ないリリース済みのゲームでも問題ないです)
大体100~200$の広告を出稿してみて、いくらで客がとれるかを測ります。ここでも主にFacebook広告が使われています。
合格ラインはCPI0.3-0.4$以下です。合格ラインに達するものは良くて3割程度です。ただ、残った3割のうち、半分以上がアタリくじになります。
(CPI基準は広告出稿費用の変動によってころころ変わるので注意が必要です)
ちなみにハイパーカジュアルゲームを完成させる工数が100とした場合、CPIテストの準備は10~40くらいかかります。ゲームの内容やどれくらいさぼるかによってだいぶ幅があります。ここではテスト結果に影響を及ぼさない範囲で極力サボることが良いこととされています。
テストがおわったら
CPIテストが終わったら、次はリテンションとよばれるゲームの継続率や、LTVを上げるためのシステムをいれて、CPI < LTV になるか見ていきます。この時点でCPIが低いものしかのこっていないので、データをとるために必要なユーザー数を少額で集められます。リテンションはパーセンテージ、LTVは平均の値ですので、その値の正確性を高めるには多くのユーザーデータが必要になります。この検査を行うためにも、まずはCPIが低いものを厳選するのです。
なぜ人数が必要かは次のコラム「サンプリング数について」に書きますが、飛ばしてもらっても問題ないです。多ければ多いほど正確に決まってんだろ!!とわかってれば問題ないかと思います。
サンプリング数について
CPI < LTVになることが確定すると、広告出稿額を徐々にあげていきます。
しかし サンプリングが不足していた場合、CPIもLTVもぶれてしまいます。
例えばサンプル10人のCPIが0.3$でその10人がLTV平均が2$だった場合、ウレピーーー!!これで俺も億万長者だーーー!!エイヤーーー!!!って1億円分の広告をぶっこんでみたとしましょう。1億$で1億人とれたとして、その結果CPI1$でLTV0.5$とかになって、大赤字!!!なんてことも起こりえます。
そのために標本誤差という値を計算して、いま見えているCPIとLTVがどれくらい信用できるか、ぶれるとしたらどれくらいぶれる可能性があるかを確認する必要があります。
広告周りの計算をパブリッシャーに委ねている場合はこのへんの知識は不要です。利益分配形式をとっている場合がほとんどなので、パブリッシャーはリスクが限りなく少ない状態でしか高額の広告出稿は行いません。
ただ、自社で広告出稿を行う予定のある人は「標本誤差」についての知識がないと、思いもよらぬところで痛い目を見る可能性がありますので、知らない場合はパブリッシャーに委ねるのが無難と言えます。
また、リテンションやLTVはほとんどのゲームで同じようなシステムを使っていますのでCPIと違ってビデオテストやCPIテストのようテストする必要がないことがわかっています。(多くの企業やゲームで、ABテストと呼ばれる比較テストがたくさん行われ、進化論的にリテンションとLTVの向上効果の高いものが残ったためです。)
最終的にCPIテストを突破したゲームの半数以上が CPI > LTVになります。
テストについてまとめると
ビデオテスト 通過率:10%以下 通過後成功率:5~20%以下 工数5-10% テスト金額:1万円以下程度
CPIテスト 通過率:15-30% 通過後成功率:50%以上 工数10-50% テスト金額:2万円程度
RRLTVテスト 通過率:50%以上 通過後成功率:100% 工数100% 金額:20万円以下
通過率はこのテストを通過して次のテストをする確率です。
通過後成功率はこのテストを通過したものがどれくらいの確率でハイパーカジュアルゲームとして億を稼げるものになるかの確率です。
工数はハイパーカジュアルゲーム完成品を100として場合の%です。
金額はテストのために使う広告費用です。
こんな感じでハイパーカジュアルゲームは進化してきました。
テストによるコスト削減と共同購入による大量試行が行えるのでパブリッシャー側はほぼ確実に収益をあげることができるようになったのです。
4.損失1億円がでた話
なんだか儲かりそうじゃん!と思った方も多いかと思います。
事実、そう判断した人がそれなりにいて、実際めっちゃ儲けた人がでたのも事実です。
しかし、目立たないだけで、ハイパーカジュアルゲーム事業が赤字になっている企業も多々あるのもまた事実なのです。
ビジネスモデルがパブリッシャー以外は儲かる確実性は低いという理由も少なからずあるかと思いますが、経営者やそれに準ずる人が、さきほどお話した内容を理解できて、最善の立ち回りをできるわけではないというのも少なからず影響していると思います。
一例ですが、私の携わった会社が損失を出してしまった理由を挙げます。
赤字になる(なった)理由
・独自のルールや基準でテスト、開発、開発継続非継続の決定、広告出稿を行っている。
・テストに工数をかけすぎている。本来5-10%、10-40%くらいの工数しかかけなくてよいのに、テストとは関係ない作り込みをしてしまい、余計な工数をかけてしまっている。(ディベロッパー側が工数をかける分にはパブリッシャーに被害がないので注意されません。)
・そもそもディベロッパーは必ずしも儲かるとは限らない。
・確率とか統計とか関係なくヒットが出せる超才能(企画や選定眼)の持ち主がいなかった。
1億の赤字はでていますが、ヒットがでれば全然巻き返せる額です。大逆転のトータル黒字の夢をみて、現在でも宝くじを引き続けています。
5.補足
ビデオテスト→CPIテスト→RRLTVテストの順にテストを行わずCPIテストから始める場合や、パブリッシャーと協業せずに両方自社行って成功を収めている企業さんもいるので、必ずしも今回紹介した方法が正しいという趣旨の記事ではありません。
6.まとめ
未完成の製品やサービス、モノをテストリリースしてみて、ユーザーの反応によって改良するという手法は、ゲーム業界ではベータテストという形で比較的古くから行われてきました。ゲーム業界以外では、意図したものではないと思われますが、映画「ソニックザムービー」で事前に公開したPVのソニックのデザインがユーザーに不評だったので、公開を延期してまで修正したことは記憶に新しいです。
ハイパーカジュアルゲームはベータテスト等よりさらに早い段階で「お披露目」して、製品を作るか作らないかの決定そのものをユーザー動向で決定するというまだまだ珍しいビジネスモデルです。
私はハイパーカジュアルゲームをプレイするのも、作るのも好きではないですが、その斬新かつ洗練された手法や考え方を学べたことや、実際に携われたのは良い経験だったと思いますし、そこそこ楽しめました。
もしも興味がある方は、パブリッシャーに連絡すれば人件費以外の出費は発生しないので、参入してみてはいかがでしょうか?
宝くじ……買いましょう!!!
初稿:7/20 17:00 必要に応じて画像の追加や改稿を行います。
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