映画の感想「終着駅 トルストイ最後の旅」(2009)
原題:The Last Station
主演:ヘレン・ミレン、クリストファー・プラマー
ずっと映画のタイトルだけは知っていたけど、まだ観たことが無かった映画を観てみようシリーズの一環です。
私は、ヘレン・ミレンも、クリストファー・プラマーも、どちらも好きなのですが、この映画では、ヘレン・ミレンが際立っていました。
ヘレン・ミレンで、この映画は持っていました。
さすが、ヘレン・ミレン!!大好き!!愛してる!!
だから、映画の中で、ヘレン・ミレン演じるトルストイの妻ソフィヤを、遺言書問題で悩ませ続ける、夫トルストイは好きになれませんでした。
おじいちゃん、マジでしっかりしてくれよ…!!!
自分の遺言でしょうが!!!!
ネタバレになっちゃうので注意ですが、この映画の内容はざっくり言うと、「年老いたトルストイに、彼の死後、彼の作品の権利を、残される家族ではなく、民衆に贈らせようと遺言書へのサインを迫る彼の取り巻き(ウラジミール・チェルトコフ)と、それを阻止したい妻ソフィヤの攻防に巻き込まれるトルストイの新しい秘書(ワレンチン・ブルガコフ)」の話です。
このトルストイの取り巻きのチェルトコフが嫌なやつなんですよ!!トルストイは、物を持たず、シンプルな生活を送るという理念を打ち出したのですが、そういう高潔なトルストイの思想にチェルトコフは心酔しています。だからこそ、トルストイ亡き後、彼の作品の著作権とそれから得られる権利を、トルストイの妻ソフィヤが我が物にするのを許せないんです。
正直、チェルトコフは、トルストイの名声に乗っかりたいだけなのですが、自分はあくまで、トルストイの高潔な思想に共感し、それを守りたいだけだと主張しています。トルストイの遺産は、本来、彼と彼の家族の問題なのに、部外者のチェルトコフが首を突っ込んでくることで、トルストイを真ん中に挟んで、トルストイの妻ソフィヤと友人チェルトコフの争いが勃発しています。
チェルトコフはあくまで友人というか、映画を観ている限り、トルストイの取り巻きという関係性でしか無いんですけどね…。
そんなチェルトコフがしょっちゅうトルストイの屋敷に出入りし、公然とソフィヤを敵視する発言をしているのがもうイライラします。チェルトコフが、遺言書についてあれこれ言い立てても、あなたは、トルストイと一緒に暮らして、彼との子供を育てて、屋敷と領地の管理もして、しょっちゅう自分たちの家にやってくる取り巻きの対応もしたこと無いでしょ、と言いたくなります。
ソフィヤが夫の死後、自分たちの生活がどうなるかを心配して、夫の遺産を他者に渡したくない方に共感できます。この時代、女性が一人で生計を立てていくのは大変だろうし、夫の死後、その遺産に頼って暮らしていかなくてはなりません。トルストイ夫妻には子供がたくさんいたので、子供たちの生活も支えていく必要があります(トルストイ家は貴族なので、子供たちは成人しても、庶民のように生活のために働くより、家の資産を使って生活していたはずです)。
そうやって必死になるソフィヤの気持ちの方がわかるので、チェルトコフに遺言書へのサインを迫られている状況を許しているトルストイ本人もイライラします。おじいちゃん、しっかりしておくれよ。チェルトコフが何と言ってこようときっぱりはねつけてくれ。どうしても、ロシア国民に自分の作品の著作権を贈りたいなら、それが無くても十分なぐらいの遺産を確保しておいてくれ。
ソフィヤが必死にトルストイに訴えるごとに、トルストイも家族と大義の板挟みになって、ソフィヤと素直に話せず、彼女を突っぱねてしまいます。こうして、トルストイとソフィヤはすれ違っていってしまい、とうとう、トルストイは屋敷を出ていってしまいます。
娘のサーシャが徹底的に父の味方をしているのも、ソフィヤにとっては辛いだろうなと思いました。自分の娘から、お母さんはヒステリックで、すぐ騒ぐ人扱いされているなんて。どんなに辛いでしょう。
こんなふうで、この映画を観ていると、どうしても、ソフィヤの味方をしたくなります。
トルストイの最期は、大勢の人に見送られて、盛大なものでした。彼の死後から数年後には、第一次世界大戦が始まり、帝政ロシアも崩壊するわけですが、彼がまだ生きていたら、どう感じたでしょうか。
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