私を襲った腰痛と、一般的な“うつ病”の治療方法が同じであると知った日のこと。
【この記事は1分で読めます】
諸説はあるが、人の脳は3%くらいしか使われていないと一般的に言われている。脳がフルに活動すると餓死してしまうらしい。悩みも同じで、3%くらいしか自覚できないのではとわたしは思っている。断腸という言葉があるように、すべての悩みを自覚できたら胃に穴が開くだけでなく、腸も全部ちぎれてしまうのかもしれない。
子ども時代に堪え難いストレスを抱えて、それが成人した後に突発的に体の症状として表れることがよくある。実際に親から性的虐待を受け、十分な精神的サポートやケアを受けられずに成人を迎え、事故に巻き込まれてもいないのに歩行困難にまでなってしまうケースもあるのだ。
数年前、わたしは重度の腰痛を患っていた。常に、誰かが背中に乗っかっているような生活を余儀なく強いられていた。絶対、自分だけは腰痛にならないと信じていたし、腰が痛いという同僚を蔑むような目で見ていたのも事実。そんな体力だけは誰にも負けないと思っていたわたしが、実際に腰痛で立ってもいられない状態になったのだ。
ある治療家はストレッチをやりなさいと言った。けど、腰痛になる前からほぼ毎日ストレッチはやっていた。冷えが原因なので温めてくださいと言う人もいた。丸い電気あんかを腰に左右から当てて毎日寝たけど何の改善もしなかった。背筋がすごく発達してるから腹筋もしてくださいとアドバイスする人もいた。けど、そこそこ腹筋は割れていた。低気圧だからとか、気の流れが悪いからとか、ありとあらゆることを言われた。
結局、最後に分かったこと。それは、多くの治療家とわたし自身が腰痛に関して無学であったことである。実際、最新のガイドラインではレッドフラッグと呼ばれる危険な兆候がみられないかぎり、手術はおろか、レントゲン検査さえ行わないということになっている。そして、重篤な場合を除き、痛みが長引く慢性的な腰痛に関してはカウンセリングや認知行動療法といった心に目を向けた治療法が主流になりつつあるのだ。
情報弱者ほど腰痛が治らない
日本の労働人口の4人に1人が腰痛を抱えていると推定され、その数は年々増え続けている。医療は進歩しているはずなのに、なぜ腰痛患者は減らないのか? その答えは単純である。腰痛は多くの医師や治療家、そしてマスメディアにとってビッグビジネスになっているからである。
椎間板ヘルニアと診断されたという人にたくさん会ってきた。しかし、実際に椎間板ヘルニアが腰痛の原因とされるのは約3%程度に過ぎないことが分かっている。ある調査では、腰の痛みがまったくない人のうち、76%の人に椎間板ヘルニアが見つかったのだ。
それなのに、いまだに「あなたの腰の痛みの原因は椎間板ヘルニアです」と診断を下す医師がいるのも事実であり、その“呪い”よって自分は「ヘルニアによる腰痛持ち」だと信じて腰痛人生をずっと歩み続けなければいけない人たちがたくさんいるのである。
わたしは我慢できないくらいの腰痛で会社を辞め、転職するまでに約2年を費やした。それでも、2年で完治できたのは幸運なほうだったと思っている。わたしが腰痛を克服できた理由、それは情報戦に勝ったからにほかならない。
結局、何をすれば腰痛は完治するのか?
最新の研究では、長引く腰痛の原因はストレスによる脳の機能の変化にあると言われている。分かりやすく説明すれば、長いあいだストレスや不安を感じる環境に身を置いていると、脳内で痛みを抑制する物質があまり出なくなってしまうのである。腰は悪くなることもなければ、壊れることもない。常に痛みにおびえていること自体、それもストレス要因の一つになってしまうのだ。
以前のわたしは少し完璧主義なところがあった。だから、完全に治るまでは仕事には就かないと決めていた。しかし、それが良くなかった。腰痛を治すために重要なこと、それは「痛くても、動ける範囲で動くこと」なのだ。腰痛に人生の主導権を預けているうちはまず治らない。わたしは様々な治療を試みて、ゼロに近付こうとする預金残高を見て諦め半分で決めたのである。もう誰にも頼らない、結局治すのは自分の“こころ次第”なんだと。
体の不調は、あなたのメンターである
いま思えば、腰痛を発症する前後、わたしはものすごいストレスの下で生活をしていた。ブラック企業並みに休みの少ない立ち仕事、しかも部下を何人か抱え休日でも会社の携帯は手放せない。ただでさえ疲れ切っているのに、仕事の後は格闘技の練習。試合前は過酷な減量。試合の次の日はまた仕事。売り上げ報告にミーティング....。
そんなタフに見えるような生活をしていたせいか、退職時に「腰の痛みが限界です」と言っても会社の人は誰も信じてくれなかった。転職活動も困難を極めた。1年半のブランクに、多くの企業の面接官が首を傾げた。
それでも、いまのわたしは腰痛に感謝の気持ちしかないのである。腰痛を発症しなかったら突然死をしていたかもしれない。振り返れば、それくらいギリギリのメンタルとフィジカルで人生の迷路を彷徨っていたのだから。体はずっと小さな叫び声をあげていたのだろう。「そんな小さな自己実現のために大事な体を酷使するのはやめてくれ」と。そう、痛みはこころで起きていたのだ。
人は自分のことに集中すればするほど自分が見えなくなってしまう。そして、身近にある幸せにも気付けなくなってしまう。生きづらさを感じるほど、周りが敵ばかりに見えてしまうときがある。けれども、人は人によって生かされていると気付くとき、すべてのものに感謝の念が湧いてくる。
たかが160円のコーラでさえ、自分で作ることはできない。誰かの手によって作られ、運ばれ、販売されている。当たり前だと思っているものを、もっと我々は疑うべきなのかもしれない。当たり前の反対は「ありがたい」のである。
もし、あなたが腰痛に悩まされているのならば、これだけは覚えておいていただきたい。それは、腰痛は治療をしなくても必ず治るということ。腰痛を恐れる必要はまったくない。
そしてもうひとつ大事なこと。それは、誰でも常に脳が“ハッキング”されているという事実を知ること。それによって、誰もが心にゆがみを抱えて生きている。正しい情報を得るということは、そのゆがみを認識し、ハッキングされた脳のプログラムを修正することを意味している。
最後に、わたしが腰痛と本気で向き合うきっかけを作ってくれたTMSジャパンのサイト、そして最新の治療法について知ることができる本を2冊紹介して締めくくりたいと思う。
TMSジャパン公式サイト
参考図書
『腰痛ガイドブック 根拠に基づく治療戦略』春秋社/長谷川淳史(著)
『人生を変える幸せの腰痛学校 ―心をワクワクさせるとカラダの痛みは消える』プレジデント社/伊藤かよこ(著)