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クレイグ・ライス『スイート・ホーム殺人事件』

カーステアズ家は3人姉弟。
長女のダイナは14歳。しっかりもので料理も得意。
次女のエイプリルは12歳。才気煥発で頭が切れる金髪美人。演劇クラス仕込みの演技も得意。
末っ子のアーチーは10歳。お姉さんたちには頭が上がらないけど活動家。節約上手でお小遣いをお姉さんたちに貸すこともしばしば。遊び仲間“ギャング団”の子どもたちとのパイプも太い。

お父さんはアーチーが生まれてすぐに亡くなった。ひとりで子供たちを養うことになったお母さんのマリアンは、ミステリー作家として複数のペンネームを使い分け執筆活動に忙しく、いつも締め切りに追われている。あまりに忙しいので、うっかり忘れものをしてしまうこともしばしば。

でも、3人の子供たちはみんなお母さんが大好き。いつも夜遅くまで働いているけど、本が書きあがると丸一日休みにして家族全員で外出したり、プレゼントを買ってくれる。食事をつくる時間があるときはターキーを焼いたり、メイプル・ファッジをつくってくれたりする。でも翌日になればまた次の本の締め切りに追われる日々。お母さんの本がもっと売れればこんなにたくさん仕事をしなくてすむのに。それにお母さんがいつまでも一人ぼっちなのはかわいそうだ。アーチ―「ぼくたちがいるじゃないか。」エイプリル「そういう意味でいってるんじゃないの」

そんなある日、事件が起きた。近くで銃声が2発聞こえたのだ。殺人事件に違いない。これをお母さんが解決したら本の宣伝になる!でもお母さんは相変わらず仕事に忙しくて提案に取り合ってくれない。それならあたしたち3人で事件の謎をとくしかない。捜査方法を知ってるのかって?お母さんの本は全部読んでるから大丈夫!警察なんかに負けていられない。あ、でもこの警部補とお母さんってお似合いと思わない?

・・・といった次第でお母さんを幸せにするべく殺人事件の捜査に挑む3人姉弟の活躍をユーモアたっぷりに描いた愛すべき小説です。なんといっても主人公の3人のキャラクターが生き生きと描かれているのが魅力的。ときに3人だけに通じる暗号を使って情報を交換したり、エイプリルの自慢の演技力や、ちびっこギャング団の活躍で警察を翻弄したりと自由奔放、縦横無尽に動き回ります。警察の目をそらすために適当にでっちあげた名前の人物が実在して事件にからんでくるなど、物語としての趣向も満載です。これがリアリズムの筆致で描かれていたら、子供たちの行動は“おいたが過ぎる”ところですが、ユーモアにくるまれた筆致なので、波長があえば気になることはありません。マリアンと互いに惹かれある警部補ビル・スミスや、9人の育児経験から、子供の扱いはおてのものと自負しているのにもかかわらず、3人の言動にやられっぱなしのオヘア部長(でも最後に見事一矢報います)など、主人公以外の登場人物も魅力的なキャラクターぞろい。

事件の謎よりもキャラクターの行動や恋の行方の方が気になってしまうきらいがありますが、ハートウォーミングで読み応えのあるミステリです。作者のクレイグ・ライスの中では異色作ながらも、愛すべき要素がたっぷりの佳作。

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