一流の営業は「ビジョンセリング」ができてこそ
このnoteではBtoBマーケティングと営業の戦略の立て方から、個別の戦術について順序をたてて解説しています。
こちらのマガジンにまとめていますのでご覧ください。
前回に続いて、商談における営業スキルについてです。
営業のスキルはレベル1からレベル4まで明確にランク分けできると説明しましたが、今回はレベル3の能力とはどんなもので、どうやって身につけるのかを解説します。
営業レベル3、「ビジョンセリング」
レベル3は「ビジョンセリング」というかなり難しいスキルになります。
具体的には「商品を導入することによって、自社の業務や働き方がこういうふうに変わる」という未来を見せて販売に繋げる手法です。
たとえば、「家」のように金額が高い商品の場合、売れない営業は「この家は断熱材を使っているので、冬は暖かいですよ」「壁が厚いのでお隣さんの音も漏れてこないですよ」「県道沿いなので安心ですよ」というプロダクトセリングをしていたり、お子さんがいらっしゃるお客さんに対して、「このマンションは階段の上り下りがないので、小さいお子さんがいても安心ですよ」というソリューションセリングをしているわけです。
ビジョンセリングでは、3人家族でお子さんがまだ小さいご家庭であれば、「近くに◯◯公園というすごく広い公園があって、週末はピクニックやバーベキューをする人がたくさんいて、すごく活気がありますよ」「教育熱心なご家庭が多いエリアなので、高い教育水準の中で過ごせますよ」「近くに◯◯高校という高校があって、優秀な学生さんが通っていますし…」といったふうに、前の2つの売り方とは全く異なる売り方になるわけです。
つまり、「この家に住んだ後の未来を見せる」という売り方が、「ビジョンセリング」と呼ばれる売り方なんです。
この話を聞いて、「次回からビジョンセリングをしよう!」というふうに思ったあなた。
そう簡単にはできません。
見込み客の業種や規模や地域を見て、いかに相手の目の前に情景が浮かぶような話ができるかどうかがポイントになってきますが、将来を見据えた例え話というものは、一朝一夕にはできません。
たとえば Salesforce社が売っているものは、言ってしまえば、商品自体は顧客情報を入れるだけの箱です。しかし、彼らは「 Salesforceを入れると営業の生産性がすごく上がりますし、売り上げもバンバン上がりますよ」みたいな売り方をしています。
「入力する場所をExcelにするのではなくて、 Salesforceというクラウドシステムに変えて検索性を高くしましょう」という売り方はしません。
機能ではなく、未来を語る。これはある意味ビジョンセリングと同じです。
それはキーエンスも同じです。キーエンスは「センサーを入れて工場のオートメーション化をすることによって、今までは毎月100台しかつくれなかったところを300台に増やしましょう」という売り方をしています。
センサーの機能がどうこうという話はそんなにしないんです。
ですから、受注率を本質的に上げるためには、こういった目線で営業スキルを底上げする必要があるんですけれども、殆どの営業はビジョンセリングができません。
ただ、手っ取り早くビジョンセリングに近い売り方をするコツがあります。
たとえば自社サービスを導入すると現場のDXが成し遂げられ、業務効率が大きく改善されるとしましょう。
そうすると業界ごとに従業員の業務がどういうふうに変わったのかを示すビフォー・アフターをどの営業でも話せるように、2〜3枚のスライドをつくっておくんです。
たとえば「同業の◯◯工場は、以前は食品の品質管理を紙で行い、さらにExcelに転記していた。その作業にすごくコストがかかっていたが、△△を導入した結果、年間75%以上の業務コスト削減に成功した」ということがパッとわかるようにする。
こういった資料をつくっておけば、営業はそれにちょっと話を付け加えて見込み客のイメージが湧くようにアシストするだけでいいんです。
良い事例の資料はビジョンセリングのサポートになったり、きっかけになるわけです。「他社はこんな風に業務が改善しました」と見せてあげることで、説明がシンプルになりますし、理解しやすくなります。
本来は3,000文字もあるような事例をペライチにして、見込み客の目の前に情景が浮かぶようにお話しするイメージです。
それがビジョンセリングの第一歩。
そして、このスキルを身につけるために必須なのが「ロープレ」です。
上司と部下のロープレが不可欠
営業のロールプレイングというと、当たり前のように聞く言葉ですが、もちろん大事なコツがあります。
それはとにかく「仮説」が重要ということ。ただ、ロープレを繰り返すだけでは意味がなく、実際のお客さんや仮想のお客さんを見立てて、リアルなシミュレーションをすることが大事です。
たとえば、その会社のビジネスモデルはもちろん、これから商談をする方の部署や役職によっても話の内容が変わってくるので、そこも考えたりします。たとえば会社の社長であれば、会社の業績向上 = その方個人の損得にも影響があるわけです。
一方、経理担当者であれば、会社にとって得があったとしても、その経理の方個人にとってはただ工数が増えるだけ…みたいなこともあります。
その場合、「このサービスを使うことによって、あなたが昇進する可能性を見出せますよ」と伝えることができれば、その方にとっては大きなモチベーションになるわけです。
こういったことを踏まえていくと、提案内容も変わっていきますし、相手のプロフィールをもとにどんな仮説を構築するかがすごく重要になってきます。
そして、これをそのままトレーニングに持ち込めばいいんです。
まずは顧客管理システムの見込み客の情報を見て、「どういう会社なのか」「どういうビジネスモデルなのか」「お話しする方はどの部署の方なのか」「今回の商談がつくられたきっかけは何なのか」ということから探っていくトレーニングです。
商談のきっかけがWEBであれば、広告を見て資料ダウンロードした場合と、社名を直接検索して問い合わせをしてきた場合で、温度感がまったく違いますよね。
資料をダウンロードしただけの方であれば、「インサイドセールスから電話がきたから、とりあえず話を聞いてみようかな」くらいのケースが殆どですが、「株式会社マイノリティ」という会社名を直接検索して問い合わせしているということがわかれば、「具体的に検討をしている」ということがわかるわけです。
商談が発生したきっかけによって温度感が違うので、シナリオを変えていく必要があります。
最近だと月に1,000円払えば「OpenWork」のような社内の口コミサービスに加入できます。そういったサイトを見てみると、創業して3年以上経った会社であれば、ネガティブな口コミがたくさん書かれています。
ある意味、その口コミは宝の山です。ネガティブな口コミからその会社の課題が見えてくるので、商談をする前に、「おそらくこの会社はこういった課題をお持ちなんだな」ということがわかります。
商談の場ではもちろん「口コミサイトを見ました」とは言いませんが、これから会う方の部署や役職を見たうえで、「おそらく御社はこういった課題をお持ちではないですか?」と聞いてみると、「この人はうちの業界のことをよくわかっている人なんだな」と思ってもらえます。
そのあたりを上司と部下のロープレでトレーニングし、商談前に「今回はこういう感じでいこうと思います」という仮説を持てると良いでしょう。
部下の仮説をひと通り聞いた上司は、その仮説が妥当かどうかを、自身の経験から一瞬で見抜き、「こうしたほうがもっといい」というアドバイスができなければいけません。
上司ができなければ部下は成長できないわけですから、このトレーニングでは上司のスキルが高いことが必須です。
鬼コーチ、やります。
僕の会社に依頼をしてくださるクライアントさんの場合は、僕が一時的に営業メンバーの上司の役割を担ったりもします。
商談前に一緒に事前準備を行い、商談後に仮説と実態に乖離がなかったかどうかをレビューします。翌週には、その前週に行った商談の録画を僕が抜き打ちでチェックします。
慣れもあるので、2か月もすると最初はできていなかった人でも、ロープレではスラスラと話ができるようにはなります。
でも実際の客先では再現できていないことがあるので、録画で確認します。昔は営業に同行する必要がありましたが、今はオンラインで商談ができるので手厚い営業トレーニングが可能です。
月曜にその週に実施する商談の仮説をすべて立てて、金曜に仮説が合っていたのかをチェックして、これから商談を進めていくときに何を行うべきなのかを明確化し、翌週の水曜に前週の録画を抜き打ちで見ています。鬼コーチですね(笑)
これは僕がキーエンスの新規事業に携わった時に学んだセールストレーニングで、キーエンスの社員は全員やっていることなんです。
キーエンスの社員は1人あたり毎月50件の商談があるので、年間で600件の商談を実施します。加えて1つの商談に対して事前準備と事後レビューをしているので、年間で1,200回のトレーニングをしていることになります。
それだけやったら、営業スキルが上がらないはずがないですよね。
自社の営業力に課題を感じている管理職の皆様、よかったら資料をご覧ください。
次回は引き続き、営業スキルと商談現場のノウハウの話です。
メルマガでもBtoB企業のグロースに役立つ情報を配信しています。