BtoBマーケティングの実践は、まず「名刺」から手をつける
何回かにわたって、「BtoBマーケティング戦略の立て方」について具体的に解説しています。
前回、前々回の記事はこちら。よかったら読んでみてください。
さて、ここまではBtoBマーケティング戦略の立て方、そしてマーケ・営業のチーム編成についての考え方を解説してきました。
・競合調査で相手を知る
・顧客の購買行動を知る
・やることを絞る、やらないことを決める
・上記を実行するためのチーム編成を決める
ここまできたら、次は具体的な施策です。なにを、どんな順番でやっていくか。
いろいろな考え方がありますが、僕がこれまでにいろいろな組織でマーケティング支援をしてきた中で、どんな会社でも必ず最初にやる施策は同じでした。
おすすめは、低コストですぐに成果の出やすい施策からはじめることです。
「眠っている名刺」を掘り起こす
BtoBマーケティングというと、一般的にそれなりの予算を使うことによって成果を出すイメージがあるのですが、実はあまりコストをかけずに成果が出ることもけっこうあります。
それが名刺データの再利用なんです。
よくご相談いただくのが、「創業してから5〜10年ほどになるが、毎月の問い合わせが少なくなってきたから、とにかく問い合わせを増やしたい」といったお話です。
もちろんいろんな方法で問い合わせを増やすことはできるんですが、最初に取り組みたいのが名刺。5年も10年も商売をしていると、これまでに営業の方や他の社員の方が見込み客と交換してきた名刺ってものすごい数になります。
そうすると、「問い合わせを増やしたい」という話の前に、その名刺情報を一度洗い出してもらって、すべてデータ化してみるといいです。
おそらく数千件とか、場合によっては数万件のデータが集まることもあります。新規の問い合わせを増やすよりも、これまでに蓄積されてきた名刺データを有効活用したほうがコスパ良く、すぐに結果につながるケースは多いです。
これは必ず営業が商談するBtoBの業界でしかできないことです。紙の名刺をきちんとデータで一元管理して有効活用すると、特別なお金をかけずに商談がグッと増えることもあり得ます。
オンラインでも名刺交換を
名刺の重要性を知っている会社は意外と少ない印象です。そういった会社はコロナ禍にオンライン商談に切り替わった途端、「お客さんの名刺がもらえない」と言ったりします。
そうすると、この3年で失ったものは大きいかもしれません。
一方で名刺の重要性を知っている会社は、名刺のストックが今後に活きてくることがわかっているので、オンライン商談でも必ずオンライン名刺交換をしていて、相手のメールアドレスや名刺情報をちゃんと取得しています。
そもそも、そういった視点を持っているプロのマーケターがいないと、現場の判断だけでは名刺の取り扱いに関して足並みを揃えることができないでしょう。
なぜなら、営業マンは取ってきた名刺を共有したくないものだから。
評価ポイントの設計とセットで考える
なぜ自分がもらった名刺を共有したくないのか。
これはシンプルに、自分が持っている名刺って、自分の営業活動だけに使いたいじゃないですか。心情としてそれは理解できますよね。
チームに共有しちゃったら、他の人にも使われるかもしれない。組織って難しいものです。
会社にとってはメリットがあるけれど、営業個人にとってはメリットがない、ということもあるわけです。人間ですからね。
そうすると結局、営業は名刺を持っているだけで宝の持ち腐れになります。個人でフル活用してる人はそんなに多くないですから。
でも、こういう泥臭いところって、「BtoBマーケティング=売れる仕組みづくり」においてはすごく重要です。
つまり売れる仕組みづくりをするには、名刺をちゃんと社内の人達から回収していく仕組みが必要ですし、集めた名刺を管理するインフラも大事です。
僕は過去にマーケティング部門で仕事をしていたとき、もともと営業をやっていたことがあるので、「名刺を会社に渡してしまったら他の人が営業をしてしまって自分の成果にならない」というマインドは理解できました。
では、それを防ぐためにどうやったのか。営業担当者が毎月登録している名刺の数を全部ダッシュボードに出すようにしました。
たとえば営業が50人いたら、その50人の名刺登録件数をランキング形式にして出すのです。これはちゃんと登録している人たちと、登録していない人たちをわかるようにするためです。
Aさんは毎月100件登録してるけれど、Bさんは5件しか登録してない、みたいなことが見えてきます。
その上で、「もちろん個人として成果を出すのも大事だけれど、チームや組織として成果を出せているかどうかも同じくらい評価として見ているよ」というメッセージを出す。
そうすると、ランキングのデータから「自分の成果しか追ってない人」が可視化され、これはよくないよねと、だんだんと組織の文化も変わっていくわけです。
売れる仕組みづくりする際には、評価ポイントの設計も考慮する。ここまで最初にデザインできると理想ですね。
マーケターと営業の関係を見直す
ただ、従来のケースではマーケターはそこまで踏み込まないというか、踏み込めないことが多かったのも事実です。
結局、BtoBでは商談を決めてくるのは営業です。となると、マーケティング部門から渡されたリードや商談の質が良いのか悪いのかを評価するのも、営業にならざるを得ないという組織がほとんどでした。
そのため、マーケターはあまり強く営業に言えないのが実情です。
このいびつな構造をまず変えることが、実は成功するBtoBマーケティング戦略の秘訣だったりします。
300件の問い合わせが生まれた事例も
というわけで、「売れる仕組みづくりをする」というのがBtoBマーケティングの定義だとすると、僕がまず手をつけるのは名刺情報を集約する仕組みをつくることです。
実際に僕がキーエンスの新規事業会社でマーケティング部署を立ち上げたときも、最初にやったのは名刺の活用でした。その会社はすごくデータがたまっていたので、名刺データを集約すると、7万件くらいにのぼりました。
そのうち実際の営業活動に使われているのはたったの1万件でした。残りの6万件は手付かずです。
僕は以前からそういう情報があるということはわかっていたので、「ちゃんと集約したらかなりの数になるだろう」と思ってデータを集めてみました。結果、その6万件のリストにメールを送ったら、300件の問い合わせがあったんです。
BtoBマーケティング施策を立ち上げるタイミングでは、コストがかからず、成果がつながりやすい施策から取り組むべきでしょう。
BtoBマーケターの皆さん、名刺データを有効活用すれば最初から「一発かませる」わけです。
これはぜひ序盤で取り組むことをおすすめします。
次回から個別施策の検討に入っていきます。まずは「オンラインのリード獲得」について解説します。
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