あなたの“営業力”はどのレベル? 「営業に必要な仮説とプロセス」とは
こんにちは。マイノリティという会社で代表をやっている柳澤です。企業の営業・マーケティング支援やB2Bビジネスのマネタイズ・グロースを専門としています。
前回、Udemyで公開した「法人営業の教科書」というオンライン講座について、そのエッセンスを書き出してみました。
この講座、副題が「営業に必要な仮説とプロセス」というもので、営業をいくつかのレベルに分け、それぞれの段階で求められる本質的なスキルを身につける方法について解説しています。
この記事でも、営業という仕事における4段階のレベル分けと、それらを駆け上がっていく上で必要なスキルについて整理してみます。
実は営業の7割が「レベル1」にいる
いわゆる「営業力」というものは、4つのレベルに分類できます。レベル4が一番高く、レベル1が一番低い状態で、これまでの経験上、営業をされている方の7割はレベル1にいます。
これは具体的にどういう状態かというと「Product selling」というスキルを持っていて、商品やサービスの説明はちゃんとできています。
ただ逆に言うと、それしかできないとも言えます。その状態の方が営業の7割を占めている、ということになります。
ではこれがレベル2に上がるとどうなるか。お客さんの課題をちゃんと把握して、それに対する解決の提案ができる状態。つまり、「Solution selling」です。レベル2からようやく「提案」が入ってくるわけです。
レベル3はどういう状態かというと、商品を導入した後にその会社や個人が「どう変わるのか」という未来の姿を見せて販売するスキルを持ちあわせています。これが「Vision selling」です。
いわゆる営業活動に力を入れようとしている会社は、レベル3までのスキルの習得を目指していることが多いです。なぜなら、いまだPMFしていない商品や、ブランド力がない商品の場合、レベル2以上のスキルがなければ、ほぼ成約につながらないからです。
「この商品、あったら便利だけれどなくても困らないよね」という壁を越えられないので、スタートアップを中心とした、商品力やブランド力があまり強くない会社は、まずはレベル2とレベル3のスキルを早急に身につける必要があります。
一方で、商品力やブランド力が強い会社の場合、レベル1でも結果が出るケースもあります。たとえばリクルートのホットペッパーやSUUMOのように、業界関係者だったら誰しもが「使ってみたい」と思うようなサービスがあったとすると、商品説明さえできていれば、ある程度の量をこなせば結果がついてくるでしょう。
大手企業や商品力がある会社ではレベル1までのスキルしかなかったとしても問題にならないかもしれませんが、スタートアップの場合、つまづきます。
ではどうすればレベル2に進めるのでしょうか。
営業は「9割当たる仮説」をつくれてこそ
レベル1が機能の説明。レベル2と3が「提案」になります。提案くらいできる、と思われる方も多いと思いますが、ちゃんと提案できている営業の方は意外と少ないです。
前回の記事でも書いた「ウォーターサーバー」のケースをもう一度思い出してみましょう。
「ウォーターサーバーを導入すると、いつでも冷たい水が飲めますよ」と語る。これはまさにレベル1の「Product selling」ですね。「南アルプスの天然水なので、とても美味しいですよ」「熱いお湯もすぐに出るんですよ」。どちらも同じです。
レベル2の「Solution selling」というスキルがあると、事前にお客さんに対して仮説を考えます。「毎朝忙しいだろう」「料理もほとんどしていないだろう」「男性で30代なら、朝コーヒーは飲むんじゃないか」などです。
そして相手によっては「毎朝忙しそう」だし、「コーヒーをよく飲みそうだな」という点に的を絞って課題解決の提案をしていくと決めてしまいます。
すると、実際にこんな会話が起きるはずです。
仮説を立てた上で、営業がストーリーに誘導しています。
そして最後に、「ウォーターサーバーを導入すると、たった10秒で毎朝温かいコーヒーが飲めますよ」という提案にもっていく。これが「Solution selling」です。
もちろんお客さんが「最近コーヒーにこだわっていて、1杯ずつお湯をわかして、ドリップするのが楽しくてしょうがないんですよ」なんて言われる場合もあるでしょう。
ここからが営業の面白いところでもあります。お客さんと営業の間には確実に情報格差があるんです。
たとえばBtoBの専門的な商品の場合、客先に行って10人のお客さんに会うとすると、その中で想定外の返答をする人は1人いるかいないかくらいの割合です。返ってくる言葉のパターンはある程度蓄積されているので十分に仮説を準備できます。
要は、その領域に関しての情報は営業のほうが圧倒的に持っているので、お客さんの規模や業種をあらかじめ見ておくと、95%くらいは想定通りの問答になります。
そのうちの1割弱くらいの人からは、「いえ、一杯ずつドリップをしています」みたいな話が出ることもありますが、そこは1割を切っているので残りの9割をちゃんと取りに行けば問題ありません。9割当たる仮説をつくれてこその「レベル2」というわけです。
ただ、口で言うのは簡単なんですが、結局、お客様先で起こり得ることがちゃんと理解できるようになるまでに一定の時間はかかると思います。
たとえば僕が昔いたキーエンスの子会社の場合、製造業という少し特殊な業界だったので、製造業の商流ややり方みたいなものが手に取るようにわかるようになるまでに3年くらいかかりました。
いろいろなお客さんを訪問して場数を踏むことで、「仮説の確度」が上がっていくわけです。それでもまずは仮説を考えて持って行くことはとても重要だと思います。それをきちんとやることによって、普通の営業が1年かかるようなことでも、半年でできたりする人もいます。
もしあなたが「世界で初めて」エレベーターを売るなら
次に「レベル3の事例」として、エレベーターを取り上げてみましょう。いまは当然どんな人でもエレベーターは知っていますし、乗ったことがあると思いますが、初めてエレベーターが世の中にできたときに、1台300万円の物をどうやって売ると思いますか?
最近だとBtoB SaaSを筆頭に、これまで世の中になかったプロダクトを開発して売り出すスタートアップもたくさんあって、それと似たようなアプローチになるはずです。
レベル1の「Product selling」の場合はどうでしょうか。たとえば「オーナーのお役に立てる商品のご紹介があります」と切り出します。次に「上のほうの階の住人の方は階段の上り下りが大変ですよね」「弊社のエレベーターを導入すると、高層階へ早く移動できますよ」と機能の説明をするでしょう。
そうするとどうなるか。
となってしまって、買ってもらえないことが考えられます。
仮に売れたとしても、この売り方だと原価が300万円なので、値切られてしまって350万円とか400万円でしか売れません。
では、レベル3の「Vision selling」というものを用いるとどういう売り方になるか。
「そもそもすべてのビルオーナーにとってエレベーターが必要なわけではない」という前提に立ち返ります。そして「眺望が良くて、1フロアあたりの床面積が広い物件を持っているビルオーナーさんのところに営業に行こう」と考えるわけです。彼の頭の中にはすでに明確な仮説があります。
オーナーさん自身が興味を持つ提案が必要で、ただ単にエレベーターの紹介をしても売れない。それじゃあ、オーナーが興味を持つような提案とは何か。
それはつまり、「不動産価値が上がる」ことにつながる提案です。
まずは「素敵な物件をお持ちですね。高層階からの眺めも良さそうです。このビルは7階建てですが、最上階が人気ですか?」と聞くことから始めます。
これは最上階が「人気じゃないこと」を知っていて、わざと聞いているわけです。
そうすることによって、「いえ、階段の上り下りが大変なので、最上階は人気がありません」という答えを誘導して引き出しておいて、「エレベーターを導入すると最上階の入居が増えて、家賃収入が500万円上がりますよ」「そんなに儲かるならすぐにでも導入したい」という結論につながるんです。
エレベーターを導入するために1,000万円かかったとしても、毎月の家賃収入が500万円上がるのであれば、すぐに導入するはずです。
「居住者が喜ぶ」というだけではオーナーさんにメリットはないですが、「家賃収入が毎月これくらい上がります」と言われたら、全然違いますよね。
この事例でわかるように、Vision sellingは「その商品を導入すると、オーナーが理想としていることが実現できる」という未来を見せる売り方です。
ここまでにいくためには基本的に数年の営業経験は必要ですが、昨年僕が営業トレーニングをしたメンバーの中には、第二新卒で初めて営業をやった方が、半年でレベル3まで進んだケースもありました。
センスもあります。ただ、どういうふうに話したら目の前の人に興味を持ってもらえるのか、みたいなことを日頃からよく考えている人は、レベル3のVision sellingにスムーズに移行できます。
多くの人が20代で直面する「レベル2の壁」
自分のことをお話すると、僕も20代中盤くらいまではずっとレベル1でした。でも、20代後半くらいになって、「お客さんが興味を持つ話には共通点がある。結局はお客さん自身が得をするかどうかなんだ」と気づきました。
最終的に商品とは手段であって、最後はお客さんがいかに得をするのか、いかに儲かるのか、みたいなところに着地させなければいけない、ということがわかってきました。
それさえ理解できれば、商品が違っても、会社が違っても、やることは一緒なんです。どこの組織にいても一定の成果が出せるはずです。
営業職のほとんどの方が20代をレベル1で過ごしていると思いますが、場数を踏んだり、ちょっとした気づきや発想の転換があれば、目の前にレベル2の壁があることに直面します。
ただ、多くの場合、レベル2でつまづきます。なぜかというと営業の場合、同僚や上司をお客さんに見立ててロールプレイングをすることが定番のトレーニングですが、そこで学ぶことは商品の内容を淀みなく話せるようになるところまでです。
その際にちゃんと事前に課題の仮説を持っていて、「お客さんはどういうことに関心があるのか」ということにまで考えを広げられているとつまづかないわけです。
要するに、ヒアリングをすることが目的になっていると、永遠に仮説と提案を考えられません。
ヒアリングの先にある、「お客さんはどういう提案を喜ぶのか」「どういう提案をすれば得をしたと感じてもらえるのか」というゴールまでに考えを巡らせる必要があります。
営業という仕事は、面と向かって話したときの“グイグイいく力”みたいなものがすごく大事だと思われがちですが、実はそれよりも、事前にどれだけ想定できているのか、そしてその仮説がどれだけの精度を持っているのか、というところが非常に大きいです。
それこそが僕が「法人営業の教科書」というオンライン講座で伝えたい、最も大事なことである「営業に必要な仮説とプロセス」です。
量をこなすこと、場数を踏むことも重要ですが、仮説を考える習慣をつけるとさらに成長スピードがアップします。そしてその仮説を精度高く構築するスキルを身につけるためには明確な方法論があります。
オンライン講座では事例とともに解説していますので、よかったらご覧ください。