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里山のアジト〜①畑が降ってきた
52歳のアーリーリタイヤ山川宗一郎です。
正月早々から山登りをした記事が前回の、沼津アルプスで風と戯れたお話。また別の日は、地元伊豆にある世界遺産【韮山反射炉】に程近い里山を歩いて来た。
この近辺は子供の頃の格好の遊び場。廃墟や*名所旧跡での《西武警察ごっこ》は懐かしく、かくれんぼや*ドロ巡に*銀玉鉄砲が組み合わされたりした。昭和の田舎の子供達は、帰り際にあの銀色の球を探しては拾い集めたものだ。
そして、横にある鳴沢川では釣りを楽しんだ。ハヤやフナに混じって、近くの養魚池から逃げ出し野生化したニジマスも釣れた。持って帰って網焼きにして、それはそれは旨かった。
しかし、どれもこれも貧乏臭い話だなぁ。あれは45年も前。よくよく思えば、日本も随分と豊かになった。
そんな懐かしい記憶を思い出しながら、当時さんざん探検した鳴沢川沿いの道を登って水神さんを越え、草に覆われた*赤道をかき分けて林道へと出た。切り開けばMTBを楽しめるシングルトラック。いずれのお楽しみにしよう。
帰路は舗装路を下る。昔は砂利道だった。周囲の畑は放置され、荒れ果てた竹林や藪になっている。植林地も暗く、手入れの形跡はない。時代は豊かになった分、山との関わりは打ち捨てられたまま。そんなことを思いながら、のんびりと降った。
『あ、どうも!山川です』
反射炉まで戻って来た道端で、山田さんという卒寿の爺さんに会った。かつてあった土産屋と食事処《金時茶屋》のオーナーで、同級生の父親でもある。人口の少ない田舎のこと、町民は皆な顔見知りだった。けれど今は昔。
立ち話で、B-29だとか色々と興味深い事を伺いつつ、放棄された里山の話をした。なんとかしたいけれど、不思議なもので
『山や畑をやりたい人には土地がなくて、田畑や山を持ってる家に限って、子息は全く興味関心ないんですよね』。
すると、タイムリーにも教えてくれた。
『そこの畑、しばらく放置してるけど貸してくれるよ』
山田さんが指を差す先に、草むらが見える。子供の頃にクワガタがやたらと獲れる一本クヌギがあった段々畑の跡だ。
『自分が借りてやろうと思ってたんだけれど、歳で脚が悪くなってしまってね』
と、断念したらしい。
『それ…僕…畑…やりたいんで!。ちょっと根回ししといてくださいな!』
『分かった、《伊賀野》に伝えとくよ』
山田さんは、老人の長話に付き合ってくれてありがとう、といった面持ちで了解してくれた。
後日、反射炉の近くにある賀茂川神社に初詣した帰りの道すがら。畑の前の小道に差し掛かったら、《伊賀野》こと鈴木さんがタイミングよくクルマで帰って来た。《伊賀野》とは*屋号のことで、この近辺の田畑野山の地主だ。これ幸いと、畑を借りたい旨を伝えた。
『内中(自宅のある集落名)の山川です、金時(これも屋号)さんから聞いたんですが…』
そう切り出すと、色々と農業や土地問題の話も伺って、快く貸して頂けることになった。
鈴木さんは花卉栽培を専門にする農家。この地区のJAの農業委員をやってるらしく、
『ついこないだも、ニューファーマーのトマトハウスの土地の仲介したよ』。
伊豆韮山はイチゴに代わってトマト栽培が盛んになり、東京や横浜から移住しての脱サラ新規就農者が増えている。加えて法律が変わり、*農家でなくても土地の売買賃借が可能になったようだ。
話を終えて、その畑のある丘の先端へと一人立った。トマト栽培のビニールハウスで埋め尽くされた平地の向こうに富士山が浮かぶ。
『やっぱ、ここの山(畑)いいなぁ』
とは、実は一番興味を持っていた場所だから。《犬も歩けば棒に当たる》で、ちょっとした行動がひょんなキッカケを作り、あちらから畑が降ってきたのだった。
さて、何から始めよう!。畑の形跡はしっかり残っている。とはいえ、雑草が生い茂り竹笹も侵入している。野菜栽培の知識なんて全くない。でもこれで、山を遊ぶ《アジト》が手に出来た。
沸き立つ想いにワクワクしながら、改めて富士山を眺めて立ち尽くす。西陽は達磨山の麓に沈み、冷たい北風が笹の葉と頬を撫でた。
*名所旧跡…韮山反射炉が世界遺産になったのは2015年。当時は顔パス無料で入れた町営史跡だった。
*ドロ巡…泥棒と巡査という鬼ごっこ。ドロ警のように地域によって名は異なる。
*銀玉鉄砲…薄力粉を固めたような銀色に塗られた丸球が駄菓子屋で売られていた。当時BB弾は一般的でなく、とても高価な大人の遊び道具だった。
*赤道…本来は公道だが、国道や県・市町村道のように、維持管理に予算がつかない。
*屋号…田舎の集落は、遠い親類がほとんどで同じ苗字が多い。なので区別するために屋号で呼ぶ。
*農家でなくても…就農や田畑の売買は制約が多い。が、規制緩和されつつもある。
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