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伯爵と三つの棺(レビュー/読書感想文)

 伯爵と三つの棺(潮谷験)
 を読みました。新刊です。 

 潮谷さんは2021年に「スイッチ」でメフィスト賞を受賞デビューされています。私は、デビュー作「スイッチ」と、受賞後2作目にあたる「エンドロール」を読んだことがあります。

 さて、新作の「伯爵と三つの棺」です。タイトルは、ディクスン・カーの「三つの棺」を引用していますが内容的には特に大きな類似はありません。

時代の濁流が兄弟の運命を翻弄する。
フランス革命が起き、封建制度が崩壊するヨーロッパの小国で、元・吟遊詩人が射殺された。
容疑者は「四つ首城」の改修をまかされていた三兄弟。五人の関係者が襲撃者を目撃したが、犯人を特定することはできなかった。三兄弟は容姿が似通っている三つ子だったからだ。
DNA鑑定も指紋鑑定も存在しない時代に、探偵は、純粋な論理のみで犯人を特定することができるのか?

「伯爵と三つの棺」紹介ページより

 時代はフランス革命期、欧州のとある王国が舞台です。あらすじを読んだとき、私好みの物語ぽいなと思ったのと同時に、本作が潮谷さんの従来作――こらされる趣向はともかく現代劇が中心――の印象とあまりに違ったため驚かされました。こういうのが小説家の抽斗の数と言うのでしょうか。

 あらすじにもありますが、本作の読みどころは科学捜査の無い時代を背景にした純粋犯人当てミステリーです。不可能犯罪は起こりません。メインの事件はひとつだけ。三兄弟の誰かが起こした銃殺事件のみです。目撃者は複数いるものの、下手人が三つ子のため三兄弟のうち誰なのか特定出来ないという状況です。そこに18世紀ヨーロッパの歴史的背景や風俗が絡んで物語に奥行きが加えられます。

 大きなネタバレにならないよう配慮しますが、本作はその構成としていわゆるエピローグの分量が大きく取られています。と、言ってしまうと察しがつくかもしれませんが、そのとおりで、この作品は精緻に組み上げられた二重底、いや三重底の様相を呈します。表面に現れた事件の解決編は全容を知る端緒に過ぎず、読者は最後の1ページまで油断が許されません。私はこれを昨今のトレンドとしての「多重推理モノ」と単純に括りたくない気持ちがあります。何故なら本作のそうした複雑怪奇な真相は、それぞれの登場人物が激動の時代に望まざるも翻弄された末に生じた結果であるわけですから。

 本作は、物語性とロジック重視ミステリとしてのクオリティが高次元で両立した作品です。

 面白くて一気読みでした。オススメです。


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#フランス革命

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