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#40『三人屋』(著:原田ひ香)を読んだ感想
原田ひ香さんの『三人屋』
あらすじを見て気になり、手に取った1冊です。
料理によって心が温かくなる内容と思いきや、どこか複雑さを感じさせる人間関係についても描かれていました。
あらすじ
朝は三女の喫茶店、昼は次女の讃岐うどん屋、夜は長女のスナック―
朝・昼・夜で業態がガラリと変わるその店は通称「三人屋」。やって来るのは、三女にひと目惚れしたサラリーマン、出戻りの幼なじみに恋する鶏肉店主、女泣かせのスーパー店長など、一癖ある常連客たち。三姉妹が作るごはんを口にすれば、胃袋だけじゃなく、心もたっぷり満腹に!?
感想
どれもシンプルな料理なのに極上の美味さを感じさせるようだった
商店街の雰囲気を思わせてくれてくれる温かさがあった
朝は三女の焼きたてパン、昼は次女の讃岐うどん、夜は長女の炊き立てご飯。時間によって業態が違う「三人屋」。三姉妹が出す料理にお客様は魅了されるのは共通しているけど、その三姉妹の仲は悪い?
三姉妹が出すパン、うどん、ご飯は、どれもシンプルなのもの。それなのに極上の美味さを感じさせ、思わず食べたくなりました。それは、原田さんの五感を刺激する表現による影響も強いのかもしれません。
その中で印象的なフレーズの1つが以下になります。
飯を一口、口に含む。ほんのり甘い。
噛んでいくと自分の中もどんどん透明になって、すべてがなくなって、気がつくと口の中の米とただ体だけになって、宇宙に放り出されるような。自分自身がニュートラルになるような。そんな味。
また、シンプルなのに美味しいのは気配りがあるからこそ。それを最初の話で登場する野間さんが、居酒屋の寄せ鍋にしていた気配りで教えてくれたような気がします。
一方で、商店街の人間関係はどこか複雑さを感じさせます。特に三姉妹との関わりが強いスーパーの店長の大輔には、三姉妹とのある噂が広まっていたり。三姉妹の仲が悪い理由をはじめ、少しドロドロしているのに不思議と温かさもありました。それは商店街の雰囲気のような、どこか懐かしい身近さを思わせてくれたからかもしれません。
本作で登場する商店街の男性たちの憎めないダメさ加減もクセになります。はっきりせずに優柔不断なところやいきなりストレートに想いを伝えてしまうところなど。僕もそういったところがあったからどこか共感できるんですよね。
朝日が感じた、同じ人でも朝と夜で人は変わるというのが印象的でした。
時間によって求める味も人との距離感も違う。だから、ただ料理が美味しいだけでは物足りなくなる。飲食店の営業や人間関係の難しさを感じさせるものでした。
朝日は朝営業、まひるは昼営業、夜月は夜営業。この三姉妹だからこその「三人屋」なんだなと読了後は思いました。
ラストは色々と含みを持った展開ですが、個人的にはそのような考えさせる展開は良いなと思っています。
印象的なフレーズ
半分にカットされているのに、手に持った時、ずしりと重い。焼いた表面はかりかりだが、中はしっとりときめ細かく舌にからみつく。フランスパンの白い部分のようで、もう少し軽い。官能的なトースト。
今はなんとなくわかる。男女はほんの一瞬で変化し、すべてがひっくりかえるほどの成長や後退を見せることがあるのだ、と。
朝日は思う。人と言うのは、朝と夜とでこんなに変わるものかと。
いや、一人一人の人間はそう変わっていないのだ。皆、良く知った顔ばかりである。なのに何かが違う。