
#23『夜のピクニック』(著:恩田陸)を読んだ感想
恩田陸さんの『夜のピクニック』
2005年(第2回)本屋大賞、第26回吉川英治文学新人賞受賞作です。
青春小説の中でも人気作の1冊です。
あらすじ
高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。本屋大賞を受賞した永遠の青春小説。
感想
貴子や融の内面の変化、温かく熱い友人たちとの語らいに夢中になって読んでいた
今この時を大事に生きていこうと思った1冊
本作の舞台は、丸1日かけて80キロを歩く北高の伝統行事「歩行祭」。
ただ歩くだけで、外側では何か劇的な展開があるわけではありません。
主人公の貴子が行おうと胸に秘めていたある賭けも、決して衝撃を受けるほどではありません。
それなのに、夢中になって読んでいました。
なぜ夢中になっていたのか?
それは、貴子や融の内面の変化、温かくて熱い友人たちとの語らいに心を揺さぶられたからだと思います。
普段とは違う空間だからこそ語れる、内に秘めた熱い思い。
温かくて熱く見守っている友人たち。
貴子や融が、それぞれの心の葛藤に向き合うことで、終盤にある変化が起こる。
読んでいて、切なさや儚さ、温かさなど色んな感情が出てきたり、考えさせられたりしました。
青春を感じられて、懐かしくなる1冊でした。
同時に、もっと青春しておけば良かったなあとも思いました。
青春小説だけど、僕は途中から歩行祭を「人生」になぞらえて読んでいました。
本作の歩行祭での出来事のように、人生でも色んなことがある。
自分ではどうしようもないこと、苦しいことはたくさんある。
それでも助けてくれる仲間はいるし、思わぬ展開が寄ってくる。
物事のタイミングや順番も大切で、その一瞬を逃せばもう二度と戻ってこないかもしれない。
そして、何かの終わりは何かの始まりでもある。
本作を通じて、僕は今この時を大事に生きていこうと思いました。
どこか生き急いでいる融に対して忍が言った言葉が強く印象に残りました。
青春時代に限らず、人生においては雑音も大事だと思っていたからです。
雑音が自分自身を作り、活かしてくれる時もあるのではないでしょうか?
強い衝撃や感動があったわけではありませんが、印象に残り忘れられない。また読み返したい。
そんな1冊になりそうです。
印象的なフレーズ
みんなで、夜歩く。たったそれだけのことなのにね。
どうして、それだけのことが、こんなに特別なんだろうね。
今年残る光景の中に、このススキが原は含まれているに違いない。二度と通らない、何気ない風景だけれど、この一瞬は、恐らく永遠なのだ。
「あえて雑音をシャットアウトして、さっさと階段を上りきりたい気持ちは痛いほど分かるけどさ。
(中略)
だけどさ、雑音だって、おまえを作ってるんだよ。雑音はうるさいけど、やっぱ聞いておかなきゃなんない時だってあるんだよ。おまえにはノイズにしか聞こえないだろうけど、このノイズが聞こえるのって、今だけだから、あとからテープを巻き戻して聞こうと思った時にはもう聞こえない」
好きという感情には、答がない。何が解決策なのか、誰も教えてくれないし、自分でもなかなか見つけられない。自分の中で後生大事に抱えてうろうろするしかないのだ。
あとで振り返ると一瞬なのに、その時はこんなにも長い。一メートル歩くだけでも泣きたくなるのに、あんなに長い距離の移動が全部繋がっていて、同じ一分一秒の連続だったということが信じられない。
それは、ひょっとするとこの一日だけではないのかもしれない。