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アチャールの歴史と起源

アチャール、その長き旅路:名前の変遷と王族に愛された漬物


こんにちは、アートオブピックルです。今回は、インドの伝統的な漬物「アチャール」の歴史をたどり、古代から現代までのユニークな旅路をご紹介します。古代インダス文明で誕生したアチャールは、時代を超えて形を変え、王侯貴族や庶民に愛されながら、現代の食卓に至りました。インドの多様な文化と歴史を凝縮したアチャールの物語を一緒に見ていきましょう。

はじまりの味は「アムラ」

アチャールの歴史は紀元前3300年頃、古代インダス文明まで遡ると言われています。この時代、保存食の技術が発展し、酸味のある果物「アムラ(ヒマラヤ産のインドスグリ)」を塩で漬けて保存する方法が生まれたと考えられます。この「アムラ」は、サンスクリット語で酸味を意味し、インダス文明の人々は塩味と酸味を持つこの保存食を生活の一部として取り入れていました。

インドでは古来から豊富なスパイスがあり、やがて保存食にもターメリックやクミン、フェヌグリークなどが加えられました。スパイスを使った保存食は特別な風味を持ち、古代からインドの家庭で愛され、現代のアチャールの基盤を作っていきました。

王たちの愛したアチャール

時は流れ、紀元前322年、マウリヤ朝のチャンドラグプタ・マウリヤが北インドを統治するようになります。ある日の宴席で、マウリヤ王は香辛料たっぷりの「アムラ」を気に入り、長旅を続ける兵士たちが持ち運べるよう命じたと言います。これが「旅の友」としてのアチャールの始まり。チャンドラグプタの王宮では、アムラがたちまち人気を博し、アチャールを備えた食事は王族や貴族たちの象徴になりました。

アショーカと仏教の広がり

チャンドラグプタの孫であるアショーカ王の治世には、仏教の影響で菜食主義が広まりました。この時期、野菜を油や塩で漬けるアチャールが庶民にも広がり、インドの各家庭で大切な存在となりました。アショーカ王が、長寿をもたらすとされるアチャールを愛したという伝説も残されています。

ムガル帝国と「アチャール」の誕生

時は16世紀。ムガル帝国のアクバル大帝は、文化と料理の融合に情熱を注いだ王でした。アクバルの宮廷には、インド各地から料理人が集まり、ここで「アチャール」という名前が本格的に使われるようになりました。ペルシャ語の「アチャール」が持ち込まれ、マンゴー、レモン、ニンジンといった野菜や果物を使ったアチャールが誕生しました。宮廷では毎晩のように異なるレシピが試され、料理人たちは「いかにしてアチャールをもっと王に気に入っていただくか」と、血のにじむような努力を重ねたのです。

そして、シャー・ジャハーンの時代には、アチャールは肉や魚にも応用されるようになり、豪華な宴の一品として扱われました。ちなみに、シャー・ジャハーンがタージ・マハルを建てて愛した愛妃ムムターズも、この特製アチャールのファンだったそうです。

愛が詰まった小瓶の味

ところで、インドの家々では、今でも母が息子や娘のために特別なアチャールを作ります。例えば、戦場に向かう兵士には「家族の味」として、特製のアチャールが持たされました。ある村の母親は、息子が旅立つ前に彼の好物であるマンゴーのアチャールを仕込みました。彼が戦場でふと家族を思い出すとき、ふたを開けてかぐその香りが、家の温もりを感じさせるのです。

南インドで「Pickle」として親しまれるアチャール

インドでは地域によってアチャールの呼び方や作り方が異なります。例えば、南インドでは英語の「Pickle」という名称が一般的ですが、各地の言語でも独自の呼び方があります。タミル語では「ウールガイ(oorugai)」、カンナダ語では「ウッピナカイ(uppinakayi)」と呼ばれ、それぞれの地域ごとの風味や食文化に根付いています。

この英語の「Pickle」が南インドで広まった背景には、植民地時代にイギリスから持ち込まれた影響や、港湾都市を通じた貿易の影響が大きかったとされています。南インドのピクルスは酸味と辛味が強調され、マンゴーやレモン、チリといった地元の食材を使ってさまざまなスタイルが発展しました。

アチャール、インドを越えて世界へ

やがて、イギリス東インド会社がインドにやってきて、アチャールは「ピクルス」として英国へ渡り、インドの味として親しまれるようになります。イギリスでは、インド式のピクルスやチャツネが爆発的に広まり、甘みのあるものや酢を効かせたものなど、イギリス風にアレンジされたピクルス文化が生まれました。

今も変わらぬアチャールの魅力

現代のインドでも、アチャールは各家庭の個性を感じさせる一品です。それはかつての王たちが愛した豪華なアチャールとは違い、シンプルでどこか温かみのある味。それぞれの家庭に母や祖母から伝えられたレシピがあり、アチャール作りの工程には、家族への愛情が込められています。

このように、アチャールはインドの歴史とともに形を変えながらも、今もなお食卓の一角で輝きを放っています。アートオブピックルも、この豊かな歴史と物語を味わいに込めてお届けしています。


アートオブピックルもこの豊かな歴史と味わいを受け継ぎ、日本の食材を使って本格的な南インドのアチャールをお届けしています。尾道から皆様のもとへ、インドと日本の食文化の架け橋となる新しい味をぜひお楽しみください。



参考文献

  1. 「アチャール - Wikipedia」
    アチャールの歴史や地域ごとのバリエーションについての解説 (ja.wikipedia.org)

  2. Live History of Indiahttps://hindi.livehistoryindia.com/story/history-in-a-dish/mango-pickle/

  3. 「インドのお漬物『アチャール』とは? - macaroni」
    アチャールの歴史、語源、基本的な作り方について (macaro-ni.jp)

  4. 「アチャールと甘酢漬け --食文化伝播をめぐる一考察--」
    アチャールの食文化伝播についての考察 (repository.kulib.kyoto-u.ac.jp)

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