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【書評】経済学の巨人、大いに語る――『資本主義の中で生きるということ』 

 著者は理論経済学を専門とする経済学者。不均衡動学理論や貨幣の自己循環的性質、新たな株式会社論、株主と経営者の信任関係など、さまざまな経済学理論、モデルを打ち立てた、まさに「経済学の巨人」である。

 これまでにさまざまな著作を発表しており、1993年に上梓した『貨幣論』(筑摩書房)はサントリー学芸賞を、2003年に上梓した『会社はこれからどうなるのか』(平凡社)は小林秀雄賞をそれぞれ受賞するなど、優れた学術書に贈られる賞を総なめにしている。いずれの著書も、難解な経済学理論を平易かつ明晰な語り口で解説していることから、経済学者や経済学を専攻する学生のみならず、経営者やビジネスパーソンといった幅広い読者から支持を集めている。07年には紫綬褒章も受賞している。

 本書はそんな「巨人」が多岐にわたる誌・紙に寄稿した記事やエッセイ、著者が引き受けたインタビュー記事を一冊にまとめたものだ。本書を通読することで、著者の思考の軌跡や理論・モデルの裏づけが理解できる。

資本主義の中でどう生きるか

 23年1月22日付『朝日新聞』に掲載された「ポンコツ資本主義の修理法」と題するインタビュー記事が味わい深い。この記事では「会社は株主のものである」という米国型の株主主権論の理論的誤謬を指摘しつつ、地球温暖化や格差社会の元凶としてやり玉にあがっている「資本主義の修理法」について解説している。

 とりわけ印象的なのが次のコメントだ。

資本主義はたしかにポンコツだ。だが、20世紀という世紀を長く生きた経験から言うと、社会主義は必然的に恐怖社会を生み出す。(中略)貨幣や法や言語といった社会的媒介がもたらした「自由」を、人間は手放せない。いや、手放してはならない。そのためにも、ポンコツな資本主義をなんとか修理しながら、空中二酸化炭素固定化や常温核融合などのイノベーションの到来まで時間を稼ぐ。そういう時代に、私たちはいる。

『資本主義の中で生きるということ』P179

 つまるところ、資本主義は決して完全無欠ではなく、負の側面が山ほどある。しかし、経済成長を促すうえでは、資本主義のほかに最適なシステムは(今のところ)ない。現代を生きる私たちは、ポンコツで不安定な資本主義を修復しながら乗りこなす必要があるというわけだ。

 半世紀以上をかけて経済と、そして資本主義と向き合い、考え続けてきただけあって、著者の指摘はかなりの重みを持って私たちのもとに伝わってくる。


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