斜陽|会社員ライター

しがない会社員ライターによる読書・エンタメ鑑賞の記録

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  • 会社員ライブラリー

    読んだ本の書評をアップしています。基本的に幅広いジャンルを読むように心がけていますが、文学、エッセイ、評論など、人文系の書籍が多めです。

  • ナナシス観測記

    スマートフォン向けリズム&アイドル育成ゲーム「Tokyo 7th シスターズ」(ナナシス)のエピソード解説やライブ、イベント感想など

  • アニメの話

    深夜アニメを中心にレビューを綴っています。記事の目標は「おもしろい」「素晴らしい」などの感想はもちろん、「どういう作品なのか」「どういうメッセージが込められているか」など、作品の位置づけや新たな発見、着眼点を言葉で表現することです。

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【ナナシス】アイドルの夢、社会という現実――「ノッキン・オン・セブンス・ドア」

 ナナシスのエピソードには「社会の実相を描いている」という特徴がある。  ここで言う「社会」とは、すべてのモノやサービスが商品化する/してしまう「むきだしの資本主義」=「新自由主義的な資本主義社会」であり、そこに参加するプレイヤーも、自らの市場価値を高めるための闘いを強いられる「競争社会」のことだ。そしてそれは、私たちが生きている現代社会の本質でもある。  現在更新されている「EPISODE.2053」は、そんな商業主義/競争社会が先鋭化した世界の物語だ。2053年のTo

    • 【書評】経済学の巨人、大いに語る――『資本主義の中で生きるということ』 

       著者は理論経済学を専門とする経済学者。不均衡動学理論や貨幣の自己循環的性質、新たな株式会社論、株主と経営者の信任関係など、さまざまな経済学理論、モデルを打ち立てた、まさに「経済学の巨人」である。  これまでにさまざまな著作を発表しており、1993年に上梓した『貨幣論』(筑摩書房)はサントリー学芸賞を、2003年に上梓した『会社はこれからどうなるのか』(平凡社)は小林秀雄賞をそれぞれ受賞するなど、優れた学術書に贈られる賞を総なめにしている。いずれの著書も、難解な経済学理論を

      • 【書評】"ふれる"が持つ創造性――『手の倫理』

         現在公開中の映画『ふれる。』を先日観た。『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』と、多くの人気作品を手がけた長井龍雪(監督)、岡田麿里(脚本)、田中将賀(キャラクターデザイン)の3人。『ふれる。』はこの3人が再度結集し制作された、劇場アニメーション作品である。 "ふれる”という行為の創造性  “ふれる”という行為を基軸に、若者の友情物語を描いた本作。主要人物の描き方(特に性格面)には多少の違和感を覚えたものの、自我形

        • 【書評】放たれる「心のざわめき」――『冷たい校舎の時は止まる』

           ジャンルで言うと「ミステリー」。大雪の中、高校の校舎に閉じ込められた8人の高校生が、「なぜ閉じ込められるに至ったか」「誰がこの一件の糸を引いているのか」を解明するというのが、本作のあらすじである。 国民的作家のデビュー作  高校3年生の深月(!)ら男女8人の高校生は、大学受験を間近に控えた冬の日に、自分たちが通う学校の中に閉じ込められてしまう。外との連絡を取ることができず、にっちもさっちもいかないなかで深月らは、数カ月前の文化祭の日に起きたある事件の記憶を思い出す。クラ

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        【ナナシス】アイドルの夢、社会という現実――「ノッキン・オン・セブンス・ドア」

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          【書評】自然の移ろいに気づく――『炉辺の風おと』

           本書は大衆小説、児童文学、エッセイなど、多彩な作品を輩出している著者が、八ヶ岳にある山小屋での暮らしを通して得た経験や心の機微を綴った一冊である。 微に入り細を“愛でる”  梨木香歩といえば、草木や動物に関する深い造詣、自然の美しさや季節の移り変わりを精緻に叙述する繊細な文体、そして多様な視点や価値観を否定せずに受け入れるフラットな作風に定評があるが、それは、英国の児童文学者であるベティ・ウェスト・モーガン・ボーエン氏に師事した経験が大きいだろう。  著者が「博愛主義

          【書評】自然の移ろいに気づく――『炉辺の風おと』

          【書評】「リアル」な異世界譚――『大転生時代』

           ライトノベルにおける人気ジャンルとして、「異世界転生モノ」が挙げられる。不慮の事故などを原因に、主人公が現実世界から異世界に転生。怪物討伐や冒険などを通して、異世界での生活を謳歌するというのが転生系作品のフォーマットである。ストーリーを通して描かれているのは異世界での生活。要するに、異世界転生モノは「ファンタジー」なのだ。 「資本主義」を異世界に仮託し描く  そういう意味では、本作『大転生時代』は巷の異世界転生モノとは一線を画す。この作品が描いているのは現実世界の生活で

          【書評】「リアル」な異世界譚――『大転生時代』

          【書評】違和感の連鎖――『あひる』

           昨年から今年にかけて、今村夏子の小説を多く手に取った。  デビュー作である『こちらあみ子』、芥川賞を受賞した『むらさきのスカートの女』はもちろん、『星の子』『父と私の桜尾通り商店街』『とんこつQ&A』と立て続けに読みふけるなかで一つ、気づいたことがある。それは、著者の作品には「平凡な日常に潜む違和感」が、随所に散りばめられているということだ。 それとない違和感  俯瞰で見ると、何か特別な出来事が起こるわけではない、ごくごく平凡な日常の物語。しかし、主人公やその周辺を凝

          【書評】違和感の連鎖――『あひる』

          【書評】悪意といかに向き合うか――『ぼくのメジャースプーン』

           辻村深月は物語の中に哲学的な思索を織り交ぜることに長けた作家であるとつくづく思う。「大衆文学」的要素と「純文学」的要素のバランスが優れており、かつ、ほどよくブレンドされているのだ。 大衆文学と純文学の両立  例えば、『傲慢と善良』では、マッチングアプリで知り合った恋人が失踪するというミステリー要素を基本軸に、他者を選ぶことの「傲慢さ」について描かれていた(これについては、同書の文庫解説を手がけた朝井リョウも指摘している)。『琥珀の夏』では、ある白骨遺体に関する事件の解明

          【書評】悪意といかに向き合うか――『ぼくのメジャースプーン』

          【書評】"親子愛"の本質とは――『琥珀の夏』

          ※本記事には物語の核心に触れる部分があります。  子どもの発育・発達過程で欠かせないのが「愛情」である。親や祖父母など、周囲の大人たちが子どもに愛情をめいっぱい注ぐことで、健全な成長が促される。  では、この「愛情」とは具体的にどのようなものを指すのだろうか。また、愛情を育むうえで欠かせない要素とは何か。本作『琥珀の夏』は、この「親子愛」(便宜上「親子」と表現したが、これには祖父母・親族など大人全般を含んでいる)の本質について、ストーリーを通して思索を展開している。 過

          【書評】"親子愛"の本質とは――『琥珀の夏』

          【書評】ハライチ岩井が活字でラジオする!――『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

           エッセイとはさしずめラジオのフリートークのようなものだと思う。いずれも日常生活で体験した出来事の一部始終を、自分自身の価値観や心の機微、想像、妄想を織り交ぜながら、時にユーモラスに、時に毒気満載で語りつくす。両者を隔てるのは記述か口述かの違いだけだ。  ノリボケ漫才で一世を風靡したハライチの「ボケ」とネタ作りを担当する著者。露出の多い相方に比べて「じゃない方」のレッテルを貼られていた感があったものの、最近はラジオやバラエティー番組での活躍が目覚ましい。特に"腐り芸人"とし

          【書評】ハライチ岩井が活字でラジオする!――『どうやら僕の日常生活はまちがっている』

          【書評】現実とフィクションの"あわい"――『SFアニメと戦争』

           本書は近現代の戦争や国際政治の動向を、日本のSFアニメーション作品を参照しながら解説している。  生粋のアニメファンであり、防衛省のシンクタンクである防衛研究所で防衛政策研究室長を務める著者が、実際の戦争や国際政治学の理論と、SFアニメ作品で描かれる世界観やストーリー展開、武器・兵器を比較し、現実とフィクションの相違点を論じている。 戦争論と作品解説が共存  巷には、「〇〇(作品名)に学ぶビジネス」「××(キャラクター名)に学ぶリーダーシップ」といったように、アニメを

          【書評】現実とフィクションの"あわい"――『SFアニメと戦争』

          【書評】永久不変の価値観を疑え――『殺人出産』

           非常にセンシティブな表題だが、作品そのものは示唆に富んでおり、読者の想像力を刺激する仕上がりとなっている。「常識」を攪乱する村田節も健在だ。  「10人産んだら、1人殺せる」——命をつくる者が人の命を奪える「殺人出産システム」(以下「システム」)によって人口の調和を保つ近未来の日本が舞台。10人産む人は「産み人」と呼ばれ、崇高な存在として見られていた。そして、産み人に殺された人物も「皆のために犠牲になった素晴らしい人」として崇められる。  人を殺めても裁かれない仕組みが

          【書評】永久不変の価値観を疑え――『殺人出産』

          【書評】「普通」という価値観への疑問――『コンビニ人間』

           本作が投げかけるのは伝統的価値観への疑問だ。学校を卒業したら正社員として働く。結婚・出産を経て温かい家庭を築く。孫にも恵まれ、定年後はまったりとした余生を過ごす。大多数の人間が送るであろう生活。  しかしそれは括弧つきのものでしかなく、「普通」からはぐれる者も一定数いる。本作がフォーカスするのは、そんな「普通でない」存在だ。  「普通」の生き方に一石  主人公の恵子はコンビニバイト歴18年のフリーター。感受性や共感性が他人と比べて鈍く、幼いころから浮いた存在で、大学1

          【書評】「普通」という価値観への疑問――『コンビニ人間』

          【書評】五里霧中の社会を生きる「道標」――『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』

           書店に行くと、「課題設定」「問題解決」系のフレームワーク本が多く平積みされている姿が目に飛び込んでくる。「先行き不透明」「目まぐるしく変化する」などと形容されがちな世相とあって、これらの書籍にニーズがあるのは自明だろう。  1カ月先の状況さえ見通せない現代社会をいかにサバイブするか――。思考のフレームワーク本が絶えず出版されていることからも、かようなビジネスパーソンの強い問題意識が感じられる。  そういう意味では、本書は問題解決の作法やヒントを与えてくれるものではない。

          【書評】五里霧中の社会を生きる「道標」――『ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力』

          【書評】巷間の「仕事術」を破壊――『ありえない仕事術 正しい"正義"の使い方』

           巷には「仕事術」に関する書籍であふれているが、本書が凡百の書籍と一線を画すのは「理論」と「実践」の二段構えで構成されているところだ。すなわち、著者が社会人経験を積む中で培ってきたテクニック(理論)だけでなく、それを「ビジネスの現場」でどう生かしているのか(実践)について、ストーリー仕立てで構成しているところに本書の独自性がある。  著者はフリーランスのディレクターで、代表作はテレビ東京在籍時代に手がけた「ハイパーハードボイルドグルメレポート」というドキュメンタリー番組。戦

          【書評】巷間の「仕事術」を破壊――『ありえない仕事術 正しい"正義"の使い方』

          【書評】クリアな視線でビジネスを見つめる――『逆・タイムマシン経営論』

           欧米企業の成功事例という「未来」を日本に持ち込み、ビジネスに実装する「タイムマシン経営」。ソフトバンクグループの孫正義会長が実践者として名高いが、本書が提示するのはこの真逆をいく理論である。その名もずばり、「逆・タイムマシン経営」。10~40年という近過去にさかのぼり、当時のビジネスシーンで称揚されていた手法や技術を紐解くことで、経営の本質を見極める「目利き力」を鍛える。ここに、逆・タイムマシン経営の効用がある。   「最先端の〇〇」「これからは××」といったように、経済

          【書評】クリアな視線でビジネスを見つめる――『逆・タイムマシン経営論』