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学習障害診断の増加と保護者の対応:社会的認知と診断基準の変化がもたらす影響

学校の勉強に苦戦する子どもと増加する診断ケース

近年、学校の勉強についていけない子どもを、保護者が診療内科や児童支援施設に連れて行き、学習障害(LD)の有無を調べるケースが増加している。特に、学習面以外では問題がなく、日常生活に支障をきたしていない子どもであっても、学校の成績不振を理由に相談に訪れる保護者が増えている。文部科学省の調査によれば、通級による指導を受ける児童生徒数は2009年の54,021名から2019年には123,095名、さらに最新のデータでは134,185名に達している。

増加の背景にある社会的要因

この増加の背景には、発達障害に対する社会的認知度の向上や診断基準の変化が影響していると考えられる。診断基準の改訂により、以前は見過ごされていた特性が発達障害として認識されるようになり、また、保護者や教育者の発達障害に対する理解が深まったことで、早期発見・早期支援の重要性が広く認識されるようになった。

競争激化と学力向上への期待が与える影響

さらに、教育現場における競争の激化や、社会全体で学力向上への期待が高まる中で、子どもの学習面での遅れや困難さが顕在化し、保護者が専門機関への相談を選択するケースが増えている。このような傾向は、子どもの多様な発達特性に対する適切な理解と支援の必要性を再認識させるものである。

診断基準の変化と社会的理解の深化

学習障害の診断が増加している背景には、診断基準の変化や社会全体の意識向上も挙げられる。たとえば、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)やICD(国際疾病分類)の改訂により、発達障害の診断基準が拡大され、より広範な行動特徴が認識されるようになった。また、発達障害に対する社会的な理解が深まったことで、診断を受けることへの抵抗感が減少し、専門機関への相談が増加していると考えられる。

診断を受けることで得られる安心感

一部の保護者にとって、診断を受けること自体が安心感をもたらすケースもある。診断を通じて、自身の子育ての不完全さを特性や障害の影響と捉えることで、「仕方のないこと」と受け入れる心理的プロセスが存在する可能性がある。たとえば、発達障害児の保護者に関する研究では、診断が保護者の心の負担を軽減し、育児への理解を深める役割を果たしていることが示唆されている。

適切な理解と支援の重要性

学習障害の診断数の増加には複数の要因が絡んでおり、単純に子どもの数が増えたわけではないことを理解することが重要である。保護者や教育者は、子どもの個々の特性を正しく理解し、適切な支援を提供することが求められている。診断結果を単なるラベルとして捉えるのではなく、子どもの発達や成長を促す手段として活用することが大切である。

参考文献
• 文部科学省. 「通級による指導を受ける児童生徒数の推移」

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