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#61「一貫性」を高める - ポジティブ心理学 -
ここでは、ポジティブ心理学の「人生の意味」の一側面である「一貫性」について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では「人生の意味」とは何かについて、一緒に学んでいきました。
「人生の意味」は心の健康やウェルビーイングにとって大事な要素であり、一貫性、目的、意義という3つの側面があるというお話でしたね。今回の記事から3回に分けて、それぞれの高め方について、一緒にみていきたいと思います。まずは「一貫性」の高め方について、学んでいきたいと思います。
人生の意味と一貫性
「人生の意味」にはさまざまな側面がありますが、その一つが「一貫性」です。「一貫性」とは、「自分の人生が一貫していて、理解しやすいものになっていること」を意味します。例えば、「過去に○○があったから、今△△しているんだ」と、自分の人生をストーリーとして説明できるような状態です。
この「一貫性」があると、「だから今、△△しているんだ」と納得しやすくなり、現在の自分により深い意味を感じることができます。なぜなら、過去の出来事が単なる点在した出来事ではなく、一つのストーリーとしてつながり、今の自分へと結びついていると実感できるからです。
この考え方は、スティーブ・ジョブズ氏がスタンフォード大学の卒業式スピーチで語った「Connecting the dots(点と点をつなげる)」にも通じるものがありますね。
では、どのようにすれば自分の人生に「一貫性」を持たせることができるのでしょうか?その具体的な方法を紹介していきます。
過去の「SEE (Significant Emotional Events)」を洗い出す
自分の人生をストーリーとして語れるようになるほど、「一貫性」は高まります。そのためにまず重要なのは、過去の出来事を振り返ることです。特に、感情が大きく揺さぶられた経験、すなわち Significant Emotional Events(SEE) に注目してみましょう。
これらの出来事には、ポジティブなものもあればネガティブなものもあります。例えば、受験に成功した経験、新天地での挑戦、大切な人との別れなど、強い感情を伴った出来事を挙げてみてください。ここで重要なのは、「大きな出来事」であるかどうかではなく、「自分にとって意味のある出来事」であるかどうかです。
同じ出来事でも、人によって感じ方は異なりますよね。つまり、感情を伴ったエピソードには、その人の個性や価値観が反映されているんです。年齢ごとに時系列で振り返ると、さまざまなSEEが思い出されるはずです。それらを書き出すことで、自分の人生における「点」が浮かび上がってきます。
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過去のSEEから学んだことを考える
次に、それぞれの出来事から何を学んだのかを深掘りしましょう。単に経験しただけではなく、そこから得た教訓こそが重要です。
例えば、「いじめを受けた」という経験を「つらかった過去の出来事」で終わらせるのではなく、「人の気持ちを理解することの大切さを学んだ」「自分の意見をしっかり主張することの重要性を知った」といった形で、意味を見出していくことが大切です。
料理に例えるなら、出来事そのものは「食材」であり、そこから学びを得るプロセスは「下ごしらえ」にあたります。このプロセスを経ることで、人生の点と点がつながり、より意味のあるものになっていきます。
どの点を選び、どのように繋げるか?
人生のストーリーを作る際、すべての出来事を取り入れる必要はありません。重要なのは、どの点を選び、どうつなげるか です。
例えば、先程の「いじめを受けた」という経験をストーリーの一部として組み込む場合、次のような異なる解釈が可能です。
いじめを受けたが、その経験を通じて「自分の意見を主張することの大切さ」を学び、現在は弁護士として社会的弱者を守る活動をしている。
いじめを受けたが、その経験から「人に優しくすることの重要性」を実感し、心理学を学び、カウンセラーとして活躍している。
いじめを受けたが、当時の自分は周囲に配慮が足りなかったことに気づき、「人と協力する大切さ」を学んだ。その学びが今のチーム運営に活かされている。
このように、過去の出来事をどう解釈し、どの点とどの点をつなげるかによって、人生の意味は変わってきます。もちろん、いじめを受けた経験を「点」として選ばないという選択肢もあります。どの点を選び、どうつなぐかによって、同じ素材からさまざまなストーリーが生まれるのです。
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映画のあらすじを書く
最後に、自分の人生に一貫性を持たせるために、自分の人生を映画のあらすじのように書いてみましょう。映画のあらすじとしてまとめてみると、自分の人生をより客観的にみることができ、一貫性が明確になります。
もし自分の人生が映画化されるとしたら…
タイトルは何ですか?
ジャンルは?(ヒューマンドラマ、冒険、コメディなど)
登場人物は誰ですか?
主人公はどのように成長していくでしょうか?
主人公の強みは何でしょうか?
この映画を通じて伝えたいメッセージは?
この映画を観た人はどんな感想を持つでしょうか?
これらのポイントを考えることで、自分の人生を映画のように整理しやすくなります。例えば、こんなストーリーです。
「主人公は幼い頃から○○に悩まされていた。しかし、△△の出来事をきっかけに、☓☓に目覚める。そして□□の経験を経て、彼は◇◇の大切さを学ぶ。それにより、彼は■■をし始める。この主人公の姿を見ることで、あなたはきっと〇〇になるだろう。」
このように映画のような形で自分の人生をまとめることで、自分の歩んできた道に一貫性を感じ、自分自身の人生により意味を感じられるようになると思います。
ぜひ、自分の人生のさまざまな点を洗い出し、そこから得た教訓を考えたあとに、少し時間をとって、ご自身の人生を映画のあらすじとして描いてみてください!
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「一貫性」を高めることの意義
人生の一貫性を高めることは、単なる自己分析ではありません。それは、自分の過去を受け入れ、現在の自分がどこから来たのかを確かめるプロセスであり、過去の出来事に新たな意味を見出し、自分の人生により深い意味を見出し、前向きに生きる力を得ることができます。
実は、カウンセリングやセラピーで行われていることもまさにこれで、相手の点の捉え方や結び方を変えることで、本人が持っているストーリーを再構成し、新たな視点を獲得できるようにサポートしているんです。上述のプロセスを行うことで自分の人生に新たな意味合いを見い出せるきっかけになると思いますんで、無理のない範囲で、ぜひ、時間をかけて自分の人生のストーリーを紡いでみてください。
さて、ここでは人生の意味の一つの側面である一貫性を高めることについて、一緒にみてきました。次回は2つ目の側面である人生の目的の明確化について、一緒に学んでいきましょう。(つづく)
【参考文献】
Martela, F., & Steger, M. F. (2016). The meaning of meaning in life: Coherence, purpose and significance as the three facets of meaning. Journal of Positive Psychology, 11(5), 531–545.
McAdams, D. P. (2001). The psychology of life stories. Review of General Psychology, 5(2), 100–122.
Schippers, M. C., & Ziegler, N. (2019). Life crafting as a way to find purpose and meaning in life. Frontiers in psychology, 10, 2778.