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#59 一人は孤独じゃない - ポジティブ心理学 -

ここでは、ポジティブ心理学の「孤独」について、一緒に学んでいきたいと思います。前回の記事では「勇気」について、一緒に学んできました。

「勇気」を高めるためには、恐怖を軽減するか、行動意志を高めるかの主に2つの方法がありましたね。今回の記事では、特に僕たち日本人にとって、勇気を必要とすること、周りの目を気にせずに「一人でいること」について、一緒にみていきたいと思います。


「ぼっち」だと思われたくない

僕たちジャパニーズは、狭い島国で生まれてきた性なのか、もしくは儒教に基づく階級社会の影響によってそうなったのかはわかりませんが、周りからどう見られているかをものすごく気にしちゃう習性をもっています。「他人様に迷惑をかけてはいけない」「人から指をさされるようなことはするな」「あの人と自分の身分はどのくらい違うんだろう」「失礼のないように振る舞うためにはどうすればいいだろう」と、常に自分の立ち振舞いを他者の視点を基準にして考えるというカルチャーをもっています。

そのため、「本当はこうしたいけど、他の人からどう思われるかが気になって、できなかった」という経験は、誰しもが大なり小なりもっているのではないでしょうか。

自分の内なる声よりも他人の目を気にして生きがち

特に思春期だったり、年齢が若いときは、周りからどう思われるかが気になりすぎて、本当は「一人でいたい」と思っても、「あの人は友達がいないんじゃないか」と思われたくないから、無理してでも誰かと一緒にいる、なんてこともあったんじゃないかと思います。

「ぼっち」だと思われたくない。

「一人でいること」=「孤独」で、寂しいことや悲しいことのように、普通、思っちゃいますよね。特に「皆と仲良くしなさい」「友達100人できるかな」と小さい頃から言われてきた僕らにとって、「一人でいること」にネガティブな印象をもつことは至って自然なことだと思います。一方、ポジティブ心理学の研究では、この「一人でいること」、つまり「孤独」にも2種類あり、必ずしも「ネガティブな孤独」だけではことが明らかになっています。

「一人でいること」には2つの意味がある

僕たちは、「一人でいること」をよく「孤独」(Loneliness) と捉えて、寂しさを伴うネガティブなものだとして扱いますが、英語には、この "Loneliness"(ネガティブな孤独)以外にも "Solitude" という言葉があります。"Solitude" を日本語訳しようとすると「孤独」としか出てこないんですが、どちらかと言うと、「好んで一人でいる状態」もしくは「俗世間から離れている状態」という意味合いに近く、個人的には「孤高」というニュアンスが最も近いものかなと理解しています。

「一人でいること」は寂しさを伴う「孤独」だけではない

ポジティブ心理学の研究では、この "Solitude" の意味合いでの「一人でいること」を「意味のある内面的な認知的な活動のためにひとりで過ごす時間」と定義し、寂しさを伴う「ぼっち(ネガティブな孤独)」と分別し、「ポジティブな孤独(Positive Solitude)」と呼んで、人々の心の健康にどのような影響を及ぼすのかが研究されています。

自分のために使う一人の時間は、寂しさを伴う「独りぼっち」とは異なる

「ポジティブな孤独」は心の健康によい

「ネガティブな孤独」が心身の健康に悪影響を及ぼすことは、巷でもよく知られていることです。ネガティブな孤独は、タバコを1日15本吸うのに匹敵するほどの健康リスクがあり、うつ病や自殺、心疾患、糖尿病、アルツハイマー型認知症の発症リスクを高めるなど、百害あって一理なし、できることならそのような寂しい状態は避けたいものです。また、ウェルビーイングの側面でも「やっぱり良い人間関係を築けていることが大事」というお話を以前、別の記事でさせてもらいました。(詳細はこちらの記事をご覧ください)

一方、「ポジティブ心理学って、やっぱり面白いなあ」と思うのが、ある研究者が、当たり前のように「孤独=悪いもの」という意味合いがある現状に対して、「ちょっと待て!」と物申したんです。「いやいや、なんか "一人でいること" がめっちゃ悪いみたいになっているけど、"Loneliness"(ネガティブな孤独) のことばっかり言っているじゃん。"Solitude"(ポジティブな孤独)はどうなのよ?」と疑問を呈したんです。

そこで、その研究チームは「ポジティブな孤独」を上述の通り、「意味のある内面的な認知的な活動のためにひとりで過ごす時間」と定義して、尺度を作り、実際に「ポジティブな孤独」とうつ症状の関係などを調べていきました。すると、案の定、「ポジティブな孤独」はうつ症状とマイナスの相関があったり、また「自己との繋がり」や「創造性」とプラスの相関があったりなど、心の健康とめっちゃ良い関連があったことがわかったんです。皆さんもイメージ湧くんじゃないかなと思うんですが、ずーっと誰かと一緒にいたら疲れちゃうこともありますし、一人でカフェでゆっくりしたり、趣味に没頭したり、本を読んだり、自分のためだけに使う時間があることって、心の健康やウェルビーイングに良い感じがしますよね?「一人でいること」は必ずしも全てが「悪」というわけではなく、「ポジティブな孤独」は心の健康にとって、とても大事なものだということが明らかになってきたんです。

あなたは「ポジティブな孤独」を大事にしていますか?

皆さんの場合はいかがでしょうか?ポジティブ心理学の研究では、自分が「ポジティブな孤独」にどれだけ価値をおいているかを測定する尺度が開発されていて、以下の質問票を回答することで確認することができます。

9つの質問項目に対して、各5点満点(1点:全くそう思わない、 2点:少しそう思う、3点:ある程度そう思う、4点:とてもそう思う、5点:極めてそう思う)で点数をつけてみてください。そうすると、合計点が9点~45点になり、点数が高いほど、自分が「一人の時間」を前向きに捉え、価値を置いているということが確認できます。


 「自分の時間」とは、同じ空間に他の人がいてもいなくても、他の人と会話をしないで自分のために使っている時間を指します。(例:図書館でのひとりで行う読書、家の中で家族が周りにいる状況でのひとりで行う調べ物なども含む)

  1. 自分の時間を確保することで、私は、今後の計画が立てやすくなる

  2. 心地良い場所/環境で、私は、楽しむための自分の時間を確保することが好きだ

  3. 私は、家の外を眺めたり、景色を眺めたりする自分の時間をつくることが楽しい

  4. 自分の時間を確保することで、私は、集中力が高まり最高の結果を出すことができる

  5. 自分の時間がある時、私は、自分が必要とする高い集中力を発揮することができる

  6. 私は、ストレスを感じている時に、自分の時間を持つことで心が晴れやかになる

  7. 自分の時間が、私の人生をより意味のあるものにする

  8. 自分の時間が、私の新しい発想を生み出す

  9. 自分の時間を確保することは、私の生活の質を高めることにつながる


いかがでしたでしょうか?自分自身がどれくらい「ポジティブな孤独」を大事にしているかを確認することができたんのではないでしょか?また、これらの項目に目を通しただけでも、やっぱり「一人でいること」も大事だよねと思われたんじゃないかなと思います。

この「ポジティブな孤独」に関して、いつもお世話になっている海原純子先生(日本ポジティブサイコロジー医学会理事)のコラムでも取り上げてくださっています。具体例も含まれて、とても勉強になる記事なので、ぜひ、こちらもご覧ください!

また、こちらの記事は海原先生との対談記事になります。特に、日本の若者にとっての「ポジティブな孤独」の重要性について書かれていますんで、こちらもご興味がある方は是非、ご覧ください。

さて、今回の記事では、「一人でいること」は必ずしも悪いことではなく、むしろ「ポジティブな孤独(Positive Solitude)」はメンタルヘルスにおいて、とても重要だということについて、一緒にみてきました。若いときは、どうしても周りの目が気になっちゃって、「一人を楽しむこと」がしづらかったり、人との繋がりを全く感じられないときに、「一人でいることは良いことだ」と言われても、ピンッとこないというような場合もあると思います。長い時間を費やす必要はありませんので、自分自身の心の健康のためにも、ぜひ「自分のために使う時間」を出来る範囲内で大切にしてほしいなと思います。(つづく)

【参考文献】
Nakao, N., & Hirano, M. (2024). Development and evaluation of reliability and validity of Japanese version of Positive Solitude Scale. Japanese Journal of Public Health, 71(7), 349–356. [Japanese]

Ost Mor, S., Palgi, Y., & Segel-Karpas, D. (2021). The definition and categories of positive solitude: Older and younger adults' perspectives on spending time by themselves. International journal of aging & human development, 93(4), 943–962.

Palgi, Y., Segel-Karpas, D., Ost Mor, S. et al. (2021). Positive Solitude Scale: Theoretical background, development and validation. Journal of Happiness Studies, 22, 3357–3384.