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プロット万歳!(最近読んだ海外ミステリー)


 自分の読書の中で中心となっているのはミステリーで、特に本格ミステリー(探偵が謎を解くやつ)が大好きなんです。

 その本格ミステリー小説を読む上で、いや、むしろ作家さんたちが本格を書く上でのポイントと言われてるのが、「トリック」、「ロジック」、「プロット」といった要素です。

 その3つの要素は、何かで規定されてるわけではないんですが、私なりにいえば

トリック=人を騙す(欺く)ための仕掛け
ロジック=論理的な思考や解決
プロット=物語の展開の構成

 という感じです。

 古き良きミステリーで例えるなら、冒頭で示される一見不可能に見える犯罪の中核となるのが「トリック」で、その謎を、探偵たちが論理的に推理していくのが「ロジック」の部分です。
 そして、そのトリックや、探偵の推理ロジックをいかに魅力的に読者に見せるのか、そこに物語の展開や構成等、作者の手腕が発揮されるわけなのですが、それが「プロット」というわけです。


 推理小説を語る際、大事なのは「トリック」か?「ロジック」か?、それとも「プロット」か?みたいな論議があるのですが、そもそも「プロット」が面白くなければ、魅力的な物語とはいえないんですよね。

 たとえば、綾辻行人さんのデビュー作にして名作の「十角館の殺人」なんかは、中心となる「トリック」はありますが、実は「ロジック」部分は薄かったりするんです。
 でも、あの「プロット」によって衝撃作となっているわけで、現代のミステリーにおいては、「トリック」や「ロジック」以上に、「プロット」が大事なのです。

 綾辻さん以降、国内では、様々な「プロット」によるミステリーがリリースされているのですが、近年は海外ミステリーにも「プロット」の凝った作品が増えてきた感じがします。
 今回は、今年になって読んだ「プロット」が楽しかった本を紹介します。


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「ナッシング・マン」

本が、殺人鬼を狩る――!
作中作に仕掛けられた秘密とは? 
巧緻に長けた異形の報復サスペンス!

出版社の内容紹介より

 キャサリン・ライアン・ハワードという作家さんは初読みだったんですが、これまでも「遭難信号」や「56日間」という複雑なプロットの作品をリリースしてきた作家さんのようです。
 この作品、出版社の目玉作品として、数年前から告知されてたんで、私としても楽しみにしていた作品でした。

 内容としては、"ナッシング・マン" と呼ばれる連続殺人犯に家族を殺され、ひとり生き残った女性が、未だ捕まってない "ナッシング・マン" の正体について、綿密な調査の上、ノンフィクション本をリリースします。
 物語は、その "ナッシング・マン" 本人がその本と出会うとこから幕を開け、"ナッシング・マン" 目線で進んでいくことになるのです。

 冒頭から真犯人の正体が明示される、いわゆる倒叙モノです。
 正直、国内ミステリーの倒叙モノも充実してるんで、結末に驚きはないんですが、自分の実録本を読みながら、犯人が追い詰められていくというプロットは面白かったです!



「ポケミス読者よ信ずるなかれ」

ポケミス70年の歴史上、最大の問題作
これはミステリなのか、それとも?

帯の惹句から

 ダン・マクドーマンという作家さんのデビュー作らしいのですが、非常に企みに満ちた本でした!
 私の好きな "賛否が分かれるやつ" です!w

 嵐により陸の孤島となった会員制クラブ。そこに居合わせた私立探偵。密室殺人。等々、古き良き本格ミステリー風なんですが、何が変わってるかというと、この本、ずっと作者の解説が入り続けるんです。
 たとえば、お馴染みの登場人物表についても、本来、作者側は隠している情報があるということを説明し、その部分を黒塗りにした表を掲載してたりするんです。

 他にも、ミステリーの進行上、ポイントとなる出来事が本文で描かれると、作者が、時には過去作品での事例を挙げながら解説を入れたりして、読者を幻惑していくんですよね。
 「ポケミス70年の歴史上、最大の問題作」という惹句が添えられているように、まあ、一筋縄ではいかない本です。

 「ポケミス読者よ信ずるなかれ」ってタイトルもすごいですよね。
 ハヤカワさんも冒険してるなぁと思うのですが、実はこのタイトルは ”踏み絵” になっていて、このタイトルが "悪ノリ" にしか思えない人は読まない方がいいと思います!(力説w)



「ビリー・サマーズ」

 狙いは決して外さない凄腕の殺し屋、ビリー・サマーズ。
 そんなビリーが、引退を決意して「最後の仕事」を受けた。
 狙撃地点となる街に潜伏するための偽装身分は、なんと小説家。街に溶け込むべくご近所づきあいをし、事務所に通って執筆用パソコンに向かううち、ビリーは本当に小説を書き始めてしまう。

出版社の内容紹介から

 スティーヴン・キングの新訳なんですが、スーパーナチュラル成分のない犯罪小説です。
 いわゆる殺し屋の「最後の仕事」ものなんですが、キングらしいプロットの本です。

 内容紹介にもありますが、殺し屋ビリーは潜伏中に自叙伝を書き始めるんですよね。
 途中途中にその原稿が作中作として挿入されていくわけなんですが、それが本編とどのように関わっていくかは、読んでからのお楽しみというわけです。
 ただ、その小説を書くという行為については、やはりキング自身の思いも感じられて、読み終えた後に、ファンとしても感慨深いものがあるのです。


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 今年になって読んでる本たちなんですが、3冊とも "入れ子構造" 的なプロットを持つ本ばかりになってしまいました。
 こういうの大好物なんですよね。

 また今年も、夏あたりから新刊ラッシュとなっていくはずなんですが、楽しみにしてる本がたくさんです!
 その中の一冊に、ガレス・ルビンという作家さんの「The Turnglass」という作品があるんですが、過去と現在の小説が、一冊の本に造本されているという代物らしいので、今から待ち遠しかったりするのです。