時空系ミステリーはお好き?
「時空もの」と称される作品たちがあります。
タイムトラベル/タイムスリップして過去や未来を訪れたり、死んだと思って気が付くと過去に戻っていたり、同じ日を何度も繰り返していたりなど… そんな時間と空間の関わりが、ストーリー上、重要な役割を果たしてるものを「時空もの」と呼んでいるのです。
小説や映画ばかりでなく、マンガやアニメ、テレビドラマなんかでも、繰り返し使われているモチーフですよね。
それだけに、設定やプロットに工夫され、様々なバリエーションがあるんです。
この「時空もの」を私なりに整理すると、大きく「タイムトラベルもの」と「タイムリープもの」の二つに分類できると考えてます。
①「タイムトラベルもの」
これは、その人自身が能力や装置/道具等により過去や未来を訪れるタイプのやつです。(天変地異によって違う時空間にスリップするタイプの話も含みます。)
このタイプの特徴は、過去に行ったら過去の自分が、未来に行ったら未来の自分がいたりするんですよね。(ドラえもんなんかを思い浮かべてもらえれば分かりやすいです)
もちろん、自分の存在する時間軸以外にも訪れることができるため、過去に行った時の行動によっては「タイムパラドックス*」を引き起こしてしまうことがあります。
②「タイムリープもの」
「タイムトラベルもの」との違いは、身体ごとではなく、意識だけが跳躍するということです。
気が付いたら過去の自分に戻っていたみたいなタイプは、この「タイムリープもの」と分類できます。
また、同じ一日を繰り返す、いわゆる「ループもの」なんかも、この一種です。
基本、別の時間軸にいる自分にしか跳躍できないんですが、二人の自分が同時に存在するわけではないので「タイムトラベルもの」のようなパラドックスが発生する心配は少ないのです。
まあ、タイムトラベルやタイムリープの捉え方は人(作家たちも含む)それぞれだったりするんですよね。
その昔、時間軸は1本の流れのようなイメージだったのが、近年は、ひとつの選択によって様々な未来に分岐していく多元宇宙論(いわゆるマルチバース)みたいな概念も組み合わさってきてるので、バリエーションは、ほんとに複雑になってきていて、用語の使われ方も変化してるので、ここでの整理は、あくまで Small world 的なまとめとお考え下さい。
また「時空もの」はSFだけでなく、ジャンルを越えて使われているモチーフで、今回はミステリー寄りの、いわゆる「時空系ミステリー」について note していこうと思います。
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いわゆる「時空系ミステリー」は、国内のミステリー小説にはよく見かけるんですよね。
西澤保彦さんの「七回死んだ男」や、北村薫さんの『時と人シリーズ』、綾辻行人さんの「暗黒館の殺人」など、記憶に残る名作もあるし、記憶の新しいとこでは、白井智之さんの「エレファントヘッド」なんか、読み手の頭がこんがらがるほど複雑な仕掛けを組み込んでます。
ライトノベルや漫画になると無数にあって、多分、日本人の趣向として「時空系ミステリー」は人気があるんだと思うんです。
海外の「時空もの」はSFジャンルが多くて、「時空系ミステリー」の方は、決して数は多くないんですが、今年、読んでみて面白かった作品を紹介していきます。
◎今年のお薦め
「ロング・プレイス、ロング・タイム」
著:ジリアン・マカリスター
今年読んだ新作ミステリーの中で面白かったのが、小学館が今年の注目作として告知されていたジリアン・マカリスターの「ロング・プレイス、ロング・タイム」です。
タイトルにある ロング は "long" はなく "wrong" で、やっかいなことに巻き込まれた時に使われる表現のようです。
帯では「タイムリープ×ミステリ×家族小説」と紹介されていて、息子が殺人を犯して逮捕される事件に遭った母親が、時を遡りながら事件を未然に防ぐために奮闘する物語です。
起きた事件を未然に防ごうとする「時空系ミステリー」としてはスタンダードな構造です。
理由は不明ですが、主人公の母親は眠って目覚めると、過去にタイムリープしてるんです。
つまり、眠る度に過去から過去へ跳躍してることになるんで、いわゆる『タイムループもの』とは異なります。
母親も最初はとまどいながらなんですが、跳躍させられた日には何か理由があるはずと気が付き、ヒントを探していくことになります。
事件の原因とともに、タイムリープ現象の意味を考えていくわけなんですが、そこら辺の流れが秀逸で、この母親は、一見、幸せだと思っていた自分の家庭に、いくつもの綻びがあったことにも気づいていくわけなんです。
「時空系ミステリー」にありがちな理屈っぽいところは少なくて、とても読みやすい作品になっています。
多分、時空系のドラマなんかが好きな人だったらハマるんじゃないかと思いますので、事件の ”始まり” がどこだったのか、主人公とともに過去への跳躍してもらえればと思います。
◎ちょっと変わった「時空系ミステリー」
決して数は多くない海外の「時空系ミステリー」なんですが、国内ものとは、ちょっと手触りが違う感じなんです。
一応、〔時空ルール〕も併記しながら、3作品を紹介します。
「13時間前の未来」
著:リチャード・ドイッチ
〔時空ルール〕
1時間前に戻りながら、その1時間を過ごすことができるが、1時間経つと、さらにもう1時間前に戻る。(つまり、15時に戻されて1時間過ごすと、次は14時に戻される。)
ちょっと複雑な〔時空ルール〕の中、妻を救い、真犯人を見つけるストーリーなんですが、ひとつが解決すると違う問題が生じたりして、なかなかうまくいかないという…
はたして主人公は問題をすべて解決することができるのか?って感じなのです。
まあ、都合のいい部分はあるのですが、とにかく読ませるんです。
「ハリー・オーガスト、15回目の人生」
著:クレア・ノース
〔時空ルール〕
死ぬと誕生時に戻る。
同じような体質の者が複数いる。
「ループもの」の変化球的な作品ですが、これも抜群に面白い本です。
以前、記事にもしているので、詳細はこちらでどうぞ!
「イヴリン嬢は七回殺される」
著:スチュアート・タートン
〔時空ルール〕
令嬢イヴリンが殺される日を繰り返す。
ループした際、別の人物に人格転移する。
事件を解決しないかぎりループは続く。
多分、〔時空ルール〕を見ただけで頭が痛くなる人もいるかも…
どちらかというと、日本の特殊設定ミステリーっぽい難解さをもった本格ミステリなんです。
繰り返す時間と様々な視点が交差する、縦と横で事件を立体化させていく、ほんと、パズルのような作品で、好き嫌いが分かれる作品かもです。
ちなみに、この作品でデビューしたスチュアート・タートンの2作目「名探偵と海の悪魔」は、全然タイプが違うんですが、これも面白い作品だったので、新作の楽しみな作家さんの一人なんです。
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上でも述べましたが、この「時空もの」って、日本で好まれるテーマなんですよね。
SFやミステリー以外でも、浅田次郎さんの「地下鉄に乗って」や重松清さんの「流星ワゴン」など、普通小説のジャンルにも「時空もの」といえそうな作品はいっぱいあるんです。
これって、筒井康隆さんの「時をかける少女」(私たち世代では+押井守さんの「うる星やつら2 ビューティフルドリーマー」)が、遺伝子レベルで受け継がれてるからだと思うんですけど… そんな気しません?
(SFよりの「時空もの」を扱ってる記事はこちら)
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