本に呼ばれるということ②(シェルビー・ヴァン・ペルトの「親愛なる八本脚の友だち」)
本屋のいい所は、意外な本との出会いがあるとこです。
以前にも書いたことがあるのですが、本屋とかに行くと、時々、「本に呼ばれる」ことがあるんですよね。
基本、自分なりのリストを作って読書してる自分なんですが、時々、普段は手に取らないタイプの本が気になって仕方ない時があるのです。
今回、手に取ったのは、シェルビー・ヴァン・ペルトという見知らぬ作家さんの「親愛なる八本脚の友だち」という変わったタイトルをもった本なのです。
「親愛なる八本脚の友だち」シェルビー・ヴァン・ペルト
このカバーで、この変わったタイトルなんで、あまり魅かれなかったものの、帯の ”全米100万部突破” という言葉が目に付きました。
その他にも
・扶桑社ミステリー文庫
・翻訳者は東野さやかさん(ストーンサークルの殺人」をはじめとしたN・W・クレイヴンのシリーズの訳者)
・解説は大森望さん
・意外と長めの600ページ超
そして、内容紹介…
想像するに、高い知能をもったタコが ”探偵役” として活躍する ”コージー・ミステリー” なんだろうと、その時はそう思ったのです。
私の好みとは若干違うのですが、気になって買って帰っちゃいました。
さて、読了後
正直に言うと、思っていたミステリーではなかったです。でも、とってもいい本でした。
主な登場人物は、水族館の夜勤清掃員をしながら暮らしている70歳の老婦人のトーヴァ・サリバンと、何をやっても上手くいかない若いバンドマンのキャメロン・キャスモア、そして件の水族館で飼育されているミズダコのマーセラスの3人です。
物語は、トーヴァの章とキャメロンの章、マーセラスの章が、順に繰り返していく体裁をとっていますが、トーヴァとキャメロンの章は3人称で、マーセラスの章だけ1人称で語られています。
マーセラスは特別に高い知能を持ったタコ(まさに原題の Remarkably Bright Creature)として描かれてるんですが、彼がその能力で思考したことは読者にしか明かされないのです。
なので、トーヴァやキャメロンの章でとったマーセラスの行動と、マーセラスの章で語られるマーセラスの思いは補完しあう関係にあるのです。
この構成が巧いんですよね。
そして、物語も中盤を過ぎたあたりで、読者にだけ、マーセラスから思いがけない事実を知らされることになります。
その後は、先が気になり始めて、終盤はもう... って感じなんです。
この特別に高い知能を持ったタコが出てくるという、ちょっとファンタジーな設定の一方で、その他の登場人物たちはそれぞれ問題を抱えたリアルな姿で描かれています。
特に、トーヴァは30年前に最愛の息子を亡くし、2年前には夫を亡くし、物語中では縁遠くなっていた兄も亡くなって、ホントに孤独なんです。
暮らしには不自由してないし、同世代の友人もいるけど、子供や孫のいる友人たちの世界とはズレを感じていている...
もともとしっかり者のトーヴァなんで、あまり弱さを見せないのですが、夜勤の際、水族館の生き物たちに声をかけながら1人で清掃する姿は妙にリアルで、トーヴァの感じてる虚しさや寂しさで胸が苦しくなるんです。
また、実は、タコのマーセラスの方も、寿命的に(ミズダコの平均寿命は4年)残されてる時間はわずかしかなかったりするんですよね。
だからこそ、この二人の交流にグっと来るものがあるし、二人の幸福を願わずにはいられなくなっちゃうのです。
まあ、ベタな展開ではあるんですが、それでも泣かされちゃうんです。
トーヴァとマーセラスがどうなったかのかは、ぜひ、読んで確かめてもらえればと思います。
「全米が泣いた」というコピーのついた映画は信用しない自分なんですが、この本の「全米100万部突破」っていうコピーは伊達じゃないと思いました。
思いがけず手に取った本なんですが、普段、ミステリーやSFばかりの私には、思いがけず、良い出会いとなりました。
この出会いに感謝なのです。
私と似たような趣向を持つ人も、1年に1冊はこういう本を読んだ方がいいと思います!
(忘れてましたが、私、おばあちゃん物に弱いんです💦)
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