B級映画のような面白さ、ピーター・スワンソン のサスペンス小説
Peter Swanson's psychological suspense novels.
最近、すっごく好みってわけじゃないんだけれど、リリースされると、つい読んでしまうのがピーター・スワンソンのサスペンス小説なんです。
いや、面白いんですよ…
先が気になってぐいぐい読ませてくれるんですが、登場人物に感情移入できない人が多くてですね…
なんか、全面的に「好き」と言いづらい感じなのです。
今回は、自分をそんな気持ちにさせるピーター・スワンソンの作品について ”note” していきたいと思います。
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2022年になってリリースされた最新翻訳本「アリスが語らないことは」を先日読了したのですが、やっぱり読ませるんですよね~。
後半は、ページをめくる手が止まりませんでした。
「アリスが語らないことは」(2022)
原題が「All the Beautiful Lies」なんで、「アリスが語らないことは」という邦題を併せて考えると、どうやら、美しい継母のアリスは、何か、隠していることがあるらしいと、読者は想像しながら読んでいくことになるのです。
父の不審死の影に美女(しかも若い再婚相手)がいるなんて、昔のドラマっぽいと思いませんか。
いや、まさにここがピーター・スワンソンらしさだったりするんです。
もちろん、犯人が誰か?という謎もありますが、スワンソンの小説は、トリックのある ”犯人当て” の本格ミステリーではなくて、心理的なサスペンスなんです。
いかにもって感じの設定で、読者に展開を予想させながら、その隙を突くプロットを入れてくるというわけなのです。
そして、プロットの中で描かれる登場人物たちは、けっして残忍残虐ではないものの、どこか壊れていて、気持ちの悪い感じに描かれています。
おそらく、何割かの読者は、この本の登場人物に嫌悪感を抱くに違いないと思います。そのため、ぐいぐいと読ませられる本なんだけれど、心の底から楽しめないという居心地の悪さを感じちゃうのです。
こういう傾向は、この「アリスが語らないことは」だけではなくて、他の作品も同様なんです。
自分にとって "初スワンソン" となった、2018年の話題作、「そしてミランダを殺す」も面白かったのですが…
「そしてミランダを殺す」(2018)
いや、ほんと面白かったんですよ。
え、えーっ、と、何度か驚き、後半は、あっという間に読み上げちゃいました。
ただ、空港のバーで出会った美女と、浮気している妻の殺人計画を立てることから始まるなんてなんて、ほんとに安っぽいドラマのようだと思いませんか?
おまけに出てくる人たちも、様子が変な人ばかりなのです。
ところが、ところがですね… この本、複数の章から構成されてるんですが、章が変わるごとに、それまでの出来事の見方がガラリと変えられちゃったりして、驚かされるんです。
その感覚こそがピーター・スワンソン小説の魅力だと思うのです。
続いて翻訳されたのが「ケイトが恐れるすべて」だったんですが、「そしてミランダを殺す」が好評だったので、基本、タイトルには女性の登場人物の名前が入るシリーズになっちゃったようです。
「ケイトが恐れるすべて」(2019)
主人公のケイトもちょっと面倒な性格だし、その他の登場人物も、みんなどこか歪んでいて怖いんです。
この本は、ほんと普通の人がいなくて困った感じなんですが、この本でも、章が変わると、えぇーッて感じの展開があって、そこが、かなりのサスペンスだったりするのです。
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ピーター・スワンソンの小説の特徴をまとめると
1.昔のドラマのような、よくある設定
2.本格ミステリーではなく心理的サスペンス
3.歪んだ性格の登場人物多め
4.章が変わるとガラリと見方が変わる構成
5.結局、ページをめくる手が止まらない!
決して深みがあったり格調高い作品ではないんですが、それでも面白いって感じなんですよね。
いわゆるB級映画のようなノリなのです。
ピーター・スワンソン作品では、作中にいろんなミステリー本が出てきたりして、スワンソン自身が影響を受けたんだろな~っていうのが、よくわかります。
それらの本を踏まえると、ピーター・スワンソンの小説の特徴にも納得なんですよね。
物語中に登場するそんな本のひとつが、まず、パトリシア・ハイスミスの小説です。
「そしてミランダを殺す」で、登場人物の一人がハイスミスの本を読んでたりします。
ただ、内容面で言うと、行きずりの者と殺人計画を立てるとこなんかは、同じハイスミスの「見知らぬ乗客」のプロットそのままだし、登場人物の一人が「太陽がいっぱい」でアラン・ドロンが演じた主人公と重なります。
「そしてミランダを殺す」はパトリシア・ハイスミスの香りが濃厚な作品だったりするのです。
そして、もうひとつが、アイラ・レヴィンの「死の接吻」です。
「アリスが語らないことは」の中では、アイラ・レヴィンの「死の接吻」が、印象的なエピソードとともに登場します。
スリラーの傑作とされる「死の接吻」なのですが、語り手の異なる3章構成で、章が変わる度に視点もガラリと変わって、これがまた飽きさせないスリル満点の展開なのです。
でも、この構成って、 ピーター・スワンソン の諸作品にも共通していて、章ごとに視点をガラリと変えて、それまでの出来事を違った側面から見せるとこなんかは、まさしく「死の接吻」的手法なんですよね。
「死の接吻」が出てきて、やっぱそうだよね。って納得だったのです。
そして、最後に付け加えると、作者自身もファンと公言しているアルフレッド・ヒッチコック監督の諸作品。
たしかに!、ピーター・スワンソン の小説から感じる、昔のドラマを想起する定型的な設定や雰囲気なんかは、ヒッチコックのサスペンス映画をイメージさせます。
また、先述のハイスミスの「見知らぬ乗客」を映画化したのはヒッチコックでしたし、スワンソンの「ケイトが恐れるすべて」の中では、『裏窓』を思い出させるようなシーンもあって、間違いなくヒッチコックを意識した造りになっているのです。
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パトリシア・ハイスミスとアイラ・レヴィン、そしてアルフレッド・ヒッチコックの3人をベースに、サイコパスやソシオパス風味を加えてシェイクされたサスペンス小説なんで、多少、サイコ臭が強くても、面白くないわけがないですよね。
ピーター・スワンソン の小説って、そんな小説なのです。
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